7月のお題は…『水のある都市風景』

新納翔 師範

私たちの暮らしている街は意識を向けると、いかに水に囲まれているかがわかります。水の都ヴェネチアとはまた違った趣があるように思います。河川や公園の池、道路の下を走る下水管、いかに水と密接な関係にあるかを改めて感じる次第です。今回はそんな「水」をお題といたします。作例は皇居のお堀を撮影したもの。こんな景色になるとは徳川家康も想像しなかったでしょう。
水にまつわるものであればなんでもOKです。例えば雨の日のスナップショットだって構いません。何を被写体にするか選ぶことも作者の仕事であり、とても重要なポイントです。採用する際にもこの点を考慮しようと考えております。

新納翔 師範からの7月のお題は『水のある都市風景』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

7月の挑戦者その4:Melyukiinaさん

鞍ヶ池公園(2021年 アジア都市景観賞)は大きな池と山々の自然環境を維持しながら、無理のない施設を整備して人と自然の調和をしている。少し移動すれば車の街、遠くは名古屋駅周辺の摩天楼まで見渡せる。悪天候が続く中、わずかな光芒が街と池を照らす。

Melyukiina
愛知県在住、男性。中学で星が好きになりRICOH XR500を手にしてマニュアル撮影デビュー。 PENTAX望遠鏡は天文雑誌などで憧れブランド。 いまはデジタル一眼K20D,K-5,K-1と乗り継ぎTHETAも手にしたRICOH-PENTAX育ち。K-1縦グリップ付きで85mmを付けて街歩きをしていると プロのカメラマンが来てると間違えられてよく話しかけられます。 それも街歩きの楽しみの一つです。PENTAX K-1とHD PENTAX-D FA 15-30mmF2.8ED SDM WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

暗澹とした空から幾筋もの光芒が差し神秘的なシーンをうまく捉えています。中央は公園施設だそうですが、蚕の白いまゆが横たわっているよう見え、そのおかげでとても印象的な写真に仕上がっていますね。K-1に15-30ミリで撮影とのことですが、どこまで広く撮るかとても悩ましいシチュエーションです。

ワイドレンズを使って広く撮れば「広さ」を表現できるというわけでもありません。ワイドすぎると画面内に写っているものがどれも小さく、説明写真としてはいいかもしれませんが、作者が何を意図して撮ったものか分からなくなってしまいます。この写真でいえばメインである白いまゆを画面内でどれくらいの大きさにするかが非常に大きなポイントになるわけです。

かといってこれよりも大きくすると白だけにそこだけに目がいってしまい、街並みやうっすら写っている手前の様子を見なくなってしまう。その微妙なバランスがうまく撮れていると思います。他のお題の時もこの場所を撮影した写真を投稿されているように思いますが、このカットが一番バランス良いと思います。

ただ、何かひとつインパクトに欠けるというのが正直なところ。正直に言えばあとひとつ要素が欲しいところです。これだけだと既視感のある作品という所で留まっていて、もっとMelyukiinaさんしか撮れない独自の視点だなぁと思わせて欲しいのです。それでこそ免許皆伝になるというもの。

自分が写真を始めた20年以上前は、プロの写真を見るのにも図書館に行かなくてはいけないし街の写真館やカメラ屋さんが唯一の情報源でした。ネット環境が不自由だった時代、よくもわるくもそれが全てでした。今、SNS等を通じて本当にたくさんの写真を家にいながらにして見ることができるようになり、オリジナリティの追求をプロだけでなくアマチュアも求められる時代になったと感じています。その為に色々な作品を見るのと同時に、自分の写真を何度も何度も見返すことが必要です。何を撮りたかったのか、何を感じたのか・・・。

レタッチに関しても何を伝えたいのかはっきりしないと、終着地点があやふやになってしまいます。今回は白いまゆと光の陰影をもっと強調したほうが良いかと思いました。細かいことはレタッチ例などを参考にしてください。

新しい作品を撮る前にやるべきことは写真の見返し作業です。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

7月の挑戦者その5:ぺんたかった?さん

初冬の日本海側の天候はとてもめまぐるしく変化します。当日は昼過ぎまで能登の滝ビーチでサーファーを撮っていましたが雲行きが怪しくなり帰路につきました。能登方面からの帰りはいつものルーティーンで金沢港に立ち寄り港風景を確認します。港に着く前までは雨が降っていましたが、岸壁に着いたときには斜光が射し私の目のまえにカモメが飛び交い、しかも空に虹が。 帰宅後カメラのデータを確認すると14時14分38秒から30秒間の出来事でした。いつものルーティーンの中では、ほとんど何事も起きないのですが、「通えば会える」でした。

ぺんたかった?
石川県在住、男性。1997年54歳の時、MZ-5 リバーサルで師につかず自己流で写真を撮り始める。ISO400のポジフイルム製造中止となり、K3-Ⅱでデジタルに転じる。演出・やらせは一切せずに自然体で何だかいいなと思ってもらえる写真をめざしてます。2022年現在77歳。PENTAX K-3 IIとHD PENTAX-DA 16-85mmF3.5-5.6ED DC WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

能登半島は金沢港近く、雲行きが怪しくなり家路につく途中で撮影した1枚とのこと。天気の変わり目はドラマチックな景色を見せてくれることがあるものです。いつも撮っている場所でもちょうどその時そこにいるかどうかで、特別な光景に出会えるか決まります。天候まではコントロールできませんから、作者コメントにあるようにまさに「通えば会える」ですね。日頃からアンテナを貼りめぐらせることが重要です。

本題とは関係ないのですが、作者コメントのテイストが伝説の写真家・中平卓馬の手記を思い出すところがありました。おっしゃる通りExifデータは後から見返すと思いがけない記憶を蘇えらせてくれたりしますよね。

さてこの作品、今にも降り出しそうな群青色の空、飛び交うかもめ、虹。さらに湾をはさんで貯蔵タンクがいくつも並んでいます。これらの絶妙なコラボレーションによって近未来的かつ独創的な世界が作られています。本来なら良しとされないハイライトの滲みもこの作品では効果的に働いています。これは偶然撮れたというものではなく、足繁く通ったことによる必然の収穫なのだと思います。

私はここを知らないのでストリートビューでここを見てみるとなんてことない景色なだけに、この作品の凄みが伝わってきました。今は便利な世の中になったものですね。

ただしこれはウェブ上で完結している当道場ならではの講評です。結構トリミングしたうえ、3:4のアスペクト比にトリミングしていることから、実際にプリントしようとすると上限のサイズはA3がいいところでしょうか。ネットで鑑賞する場合、長辺3000ピクセルもあれば十分ですが、プリントとなるとそうはいきません。粗いラフなイメージを狙う場合をのぞいてアウトプットのことを考えると、ちょっと減点かなと思います。

最終的にどのくらいのサイズにするか、どう見せるのかという目的によって機材選びや解像度の設定などは違ってきます。撮影時からそのことを頭の片隅に入れておくだけでより良いデータ、汎用性の効くデータ作成ができるようになります。せっかく良いシーンに出会ったら、最高の形でカメラにおさめたいものです。

画面下の湾の部分はカットしてタンク群の密度を上げたほうがよいかと思いました。水というテーマで残したのかもしれないですが、すでに水にまつわる要素は画面内にたくさんあります。より細かいところまで考えて作品に仕上げるといいでしょう。次作に期待!

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※クリックで大きく表示されます



 

7月の挑戦者その6:yasukouさん(他流挑戦者)

コロナで街中へ出かけるのを控えている。 そこで家の前に流れている小川へ撮影に。 モデルは自分。

yasukou
愛媛県在住、男性。78歳カメラじじい。 NIKON ZfcとNIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

お見事!

新納翔 師範からの添削コメント

この作品を免許皆伝にしなくてどうするんだ、というべき素晴らしい作品です。応募された写真をセレクトする時の感覚は撮影している時と似ていて、いい作品というのは「むむ!これは!」と直感的に語りかけてくるものです。素晴らしいシーンを見つけた際、良いと思う前に言葉で考える人はいないのと同じ。さらにこれがセルフポートレートだと知って驚きました。

凛として立っている姿が主観性を捨て風景の中に溶け込んでいる、ご自宅の前を流れる小川ということですがご自身をここまで客観的に切り取っているのはとても凄いことです。浅草寺で市井の人々のモノクロのポートレートを撮った鬼海弘雄のシリーズ「PERSONA」に通じるものを感じました。虫取り網にバケツ、ぎらっとした黒いサングラス、どこか月光仮面のようなヒーローにも見えてきます。

写真をやるものにとって、撮影行為というのは風景を通して街なり人なりを観察し考察する行為だと思っています。そのことがとてもよく表現されています。なぜモノクロにしたのだろうと思う作品がある一方で、モノクロ写真の良さを非常にうまく使っています。

ここからはレタッチの話ですが、さらに一味加えて作品をどう追い込んでいくかというところです。コロナと猛暑でうだるような夏の炎天下、その感じを画面内に出してみましょう。写真において空の質感は見る側の印象を左右するとても大事な情報です。ここは空の部分にノイズを足しコンテストを上げてテクスチャーを強調させましょう。

頂いたデータからトーンカーブでコントラストを上げてしまうと白トビの危険があります。そういう時の上級テクニックとして、白トビに近いところにだけノイズを乗せるという方法があります。白トビというのはそこに何も情報がない状態、プリントしたら真っ白な状態です。そこにノイズをのせてあげることで、「何もない」状態を回避することができるわけです。プリントする人は覚えておくべきテクニックです。

モノクロ写真はカラーよりも歴史が長いので銀塩(フィルム)ライクに仕上げることが多いように思いますが、デジタルならではの表現を突き詰めても良いと思います。そこは作者の好みですからどちらが正解ということはありません。ただ、色情報がない分慎重に仕上げていかないとアラが目立ってしまうのがモノクロ写真。デジタルは撮影したデータをいかに自分の作りたい世界観で仕上げるかが重要なポイントです。そこが加われば今作もさらに素晴らしいものとなったでしょう。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

師範より7月後半の総評

今回は今までで一番投稿数も多く、良作揃いでした。私としても嬉しい限りですがその反面、こんなにあったら選べないと悩みに悩んで最終的に3作品選ばせて頂きました。いつもなら投稿写真を頂いて次の日には3点選ぶのですが、今回は翌朝見るとやはりこれもいい、これはちょっと違うかなと葛藤の連続でした。

その中でも免許皆伝に輝いたyasukouさんの作品はとても素晴らしかったです。カメラが進化して押せば写る時代、作品の良し悪しは個性をいかんなく発揮できたかどうかによると思います。個性つまり自分の思考を写真という媒体に落とし込むこと。これを実現するには日頃から自分の写真について言語化する作業が欠かせません。

次回も頑張ってください。

記念品のお届けについて

yasukouさん、免許皆伝おめでとうございます!「免許皆伝看板」「免許皆伝ミニ木札」をお贈りします!
ぺんたかった?さんには「免許中伝ミニ木札」、Melyukiinaさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は8月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

惜しくも選外となった、最終選考ノミネート作品をご紹介

今回惜しくも、最終段階で選ばれなかった作品の一部です。
残念ながら選外となりましたが、まだまだ後半の挑戦も受付中です!

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!
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