9月のお題は…『幾何学的なイメージを意識して』

新納翔 師範

感覚的に良いと思った写真、一体どこに惹かれたかを考えてみると色の配置であったり、構図の面白さだったりすることは多々あります。私はもともと理系だということが関係しているのか、幾何学的な構図が大好物です。

特に街中では建物の影が織りなす偶発的な美に思わずシャッターを切ってしまいます。曇天の日はなんとも思わなかった景色も、晴れの日になるととても魅力的な一面を見せてくれる景色もあります。

幾何学といっても小難しく考えないので、自分がそう感じたという自己満で良いです。写真なんてそういうものですから。

新納翔 師範からの9月のお題は『幾何学的なイメージを意識して』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

9月の挑戦者その4:社員salさん

不思議なオブジェがあったのですが、周りの建物の形状と合わせてみました。
形を意識してほしいのでモノクロにしてあります。
あとトリミングしています。

社員sal
神奈川県在住、男性。商品の企画などしています。写真(カメラ)好きのカメラ(写真)オタクです。PENTAX KPとHD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limitedで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

街を歩いていると別々に作られたモノや建造物たちが期せずして、まるで一つのアート作品になっているような光景に出会うことがあります。それも写真の場合は光線状況があるので時間限定品。多くの人が気づかないそうしたものを記録することが写真なのだと思います。

この画面中央のオブジェに目をつけられたとのことですが、信号機・ビルの線と色々なものが共鳴しあっています。やはり写真はいい瞬間に出くわせる事こそ一番のスキルなのだと再確認させられますね。私が特にいいなと思った点は、信号が赤信号かつ無人なこと。ピーカンの写真が持つ乾いた感じに加え、赤信号によって他者を拒絶する現代社会を表しているように感じました。

こういう写真においては毎回言うようですがやはり水平・垂直をしっかり出すことが肝心です(最近この事ばかり言っているので補足ですが、もちろん写真によっては水平などで出ていなくても成立するものはいくらでもあるのであしからず)。

それと画面手前の横断歩道の白い線は街を撮っているとわりと画面に入りがちなのですが、結構目につくものなのですよね。この場合は主題をぼやかしてしまうので切ってしまいましょう。それと空を入れるか入れないかも撮影時にフレーミングする時に考えて欲しいことです。空が持つ「広がるイメージ」によってこの写真の持つ緊張感を崩しているのが勿体ないポイント。

最後にモノクロの色調なのですが、どうものっぺりとした感じになってしまっています。暗めにトーンを揃える黒焼きなどもありますが、それとは違いますね。まずは白い部分は白くだすことを意識してください。例えば横断歩道の白がこの写真ではグレーになっているので適正な編集ではないと分かります。

おそらくカメラ内現像でモノトーンにしたのだと思いますが、Photoshopを使って丁寧にチャンネルミキサーでモノクロ化したものとは雲泥の差。レタッチ例を参考にしてくだされば分かると思います。形状を意識して欲しいのでモノクロにしたとのことですが、この写真ならカラーでも十分に伝わったと思います。敢えて色情報を捨てるのはこれも勿体ないポイントです。この2つがなければ免許中伝だったと思う面白い都市写真だと思いました。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

9月の挑戦者その5:Melyukiinaさん

夕陽に照らされた建物の屋根の反射にそそられました。
私も幾何学的なものに惹かれるのでしょうか?普通の人は撮らないかもしれませんね。

Melyukiina
愛知県在住、男性。中学で星が好きになりRICOH XR500を手にしてマニュアル撮影デビュー。PENTAX望遠鏡は天文雑誌などで憧れブランド。いまはデジタル一眼K20D,K-5,K-1と乗り継ぎ、THETAも手にした。RICOH-PENTAXに育ち、現在に至る。PENTAX K-1とHD PENTAX-D FA★85mmF1.4ED SDM AWで撮影。

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

 

夕日に照らされた街、その家々の屋根が眩しく光り幾何学的な形を作っているのが面白いですね。出されたお題を自分なりに咀嚼し、どう自分の写真に落とし込むかどうか。それが良く出来ていると感じました。

丘の上から撮ったのでしょう、どれくらいの距離なのかは分かりませんが、レタッチ例に示した通りもう少し中央だけでも良かったかと思います。同系統の形が続く景色なので、元のままだとちょっと情報過多になってしまっているように感じました。自分が何に気を取られシャッターを押したのか、作品をセレクトする際によく考えてみましょう。そして画面内に余計なものがあれば思い切ってなくしてしまうのも手です。

光線状況なのか原因は分かりませんが、手前の屋根や画面奥の電線に結構目立つ擬色が出てしまっています。こうなると消すのは厄介です。もしかしたら絞りすぎたのかもしれません。レンズというものはセンサーが変わるとアウトプットした結果も変わってきます。前のカメラとは相性よくても、新しいカメラではなんともしっくり来ないなんていうこともよくあること。カメラとレンズの組み合わせで、どこまで絞っても大丈夫なのか、開放付近のピンのシャープさはどうなのか、自分で検証してみると身にしみて分かると思います。こういう情報はネットなどでもすぐに拾えるものですが、あえて自分で検証してみることも勉強になります。

レタッチの話ですが、光を見せたいシチュエーションなのでもっと暗くして光の輪郭を強調しても良かったかもしれませんね。レタッチ例ではトーンカーブで全体の明るさを落とし、部分的にハイライトがきつい所を調整しております。また色味もシアンに振ってややみました。実際の景色を見ていないのでなんとなくですが、こういうのもアリだと思います。

何を見せたいかによってレタッチも変わってきます。同じ風景でも、夕暮れ時の人の営みを表現したいと思ったのならこのレタッチ例は失敗です。撮影したものを表現したいのか、つまりはどう他者に伝えたいのかを考えることでどういう明るさにするか、色味にするかは自ずと分かってきます。まさに思考することが写真なのです。

幾何学的なイメージというお題でこの写真を出してくるところにセンスを感じた一枚でした。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

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9月の挑戦者その6:FA43Lさん

リコーイメージングスクエア東京に、買い物をするために立ち寄った新宿。
いつもと違う光景に驚き、思わずシャッターを切りました。
スバルビルが解体されたのでしょうか。
移り変わる都市風景を切り取ることに、興味が持てた瞬間でもありました。

FA43L
神奈川県在住、男性。最近は夏に近所でセミの写真を撮ることを楽しんでます。PENTAX KPとHD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR REで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

お見事!

新納翔 師範からの添削コメント

 

これは自分の中で満場一致の免許皆伝です、おめでとうございます。この一枚に関して言えば、何かこうした方が良いというのも好みの問題になってきますし、重箱の隅をつつくことしかできそうもないので、なぜいい写真なのかということについて記したいと思います。

東京を撮っている人なら撮影地はすぐ分かると思いますが、新宿地下のロータリーから地上を見上げたところですね。この写真は一見クールな都市写真に見えますが、この光景は手前にあったスバルビルが解体されて出現した景色であり、しっかりと新宿という街の歴史が写り込んでいることに注目したいです。

停車しているタクシーを上手いこと前ボケに活用して雑然としたロータリーを隠しているのもこの安定した構図に一役買っています。また、タクシーがあることで緑とオレンジが増えて単調な写真になることを防いでいるだけでなく、タクシーからコクーンタワーまで幾つものレイヤーが重なり、奥行きのある写真になっているのが妙。手前のタクシーがこれ以上ボケても駄目。となるとこの撮影時に決めたf値は最適解というしかないでしょう。

今回のお題をしっかりクリアしていると共に、本道場「DOJO City Scape」にぴったりの作品です。

個人的にはちょっとマゼンタが強いかなとも感じたのですが、それも何かしらの意図があったのでしょう。レタッチ例では自分ならこういう色調にするかなというものなので、あくまで一例として見て下さい。そこは作者に直接聞かないと分からないところなのでここでは触れません。

もしこの手の写真を撮り続けるのであればもう645Zにいくしかないですね(笑)。フルサイズ機やAPS-C機において、画質面だけでいえば飛躍的になにか変わるということは32bit記録ができるようになるまで無いよう思います。最近のカメラはスチール部分よりも動画部分の進化が顕著ですから、もし新しい表現を求めるのであればセンサーサイズのアップグレードなのではと思いますね。

あんまり書くと押し売りのようになるのでこの辺にしておきますが、ともあれこの作品はとても良いCityScapeでした。改めておめでとうございます!次回からより厳しい目で見させていただきますが新作お待ちしております。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

師範より9月後半の総評

今回は久しぶりに免許皆伝が出ました。結構厳しく見ているつもりではありますが、いい写真は本当のところ「いい、素晴らしい、真似したいな」といった言葉しか出てこないのがリアルなところでしょう。ただそれを言語化してみることも重要です。長く写真を撮っていても、なんとなく撮っているだけになりがちですが、「自分は~というテーマで写真に取り組んでいる」という場合とでは上達度合いが格段に違ってきます。

写真はすでにあるものをデータとして切り撮る作業。そこに作者の意図が入るから作品となり得るのです。そのためには自分の撮った写真を何度も見返し、言語化する作業、これが一番大事なのです。

考えてみて下さい。写真家の個展に行って「どういう意図で撮られたのですか」という質問に対して、その写真家が言葉につまるようではなんだかなぁとなるでしょう。

言語化すると写真にフィードバックされ、結果として撮影に活きてくるのです。

PENTAXさんのご厚意で引き続き師範の任を続けることになりました。これからも本気で作品を見ていくので、皆様も負けないような気持ちで作品を送ってきて下さい。一番駄目なのは自分であまり良くないからと判断して提出しないことです。良し悪しが分かるようならプロなのですから。

記念品のお届けについて

FA43Lさん、免許皆伝おめでとうございます!「免許皆伝看板」「免許皆伝ミニ木札」をお贈りします!
Melyukiinaさんには「免許中伝ミニ木札」、社員salさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は10月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

その他の投稿作品をご紹介

最後に、9月後半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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