4月のお題は…『コンビニのある風景』

新納翔 師範

日本津々浦々風景が画一化していく中、その最たる例の一つがコンビニエンスストアではないでしょうか。旅先で馴染みのチェーンのコンビニに入ると、自宅近くにある店内にワープしたように感じることもあります。

そのように全国展開しているコンビニですが、地域社会と密接に関わっている以上、「コンビニのある風景」として捉えれば各地域それぞれの特色が出るはずです。ただコンビニ自体を撮るというより、コンビニを通して各々の街が持つカラーを表現して欲しいと思います。
コンビニから見るそれぞれの都市風景、お待ちしております。

なお、地域によって色々なコンビニがあると思います。
昔ながらの個人商店等もOKです。

新納翔 師範からの4月のお題は『コンビニのある風景』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

 

4月の挑戦者その4:つばさ製作所さん

街の風景を撮影した際は、現像後に知的財産権の侵害がないように、看板やクルマのナンバープレートなどの
情報を消す作業をいたします。 コンビニエンスストアの看板も同様に処理しますが、ロゴや文字を消しても
各コンビニのカラーリングにてどこのコンビニかが分かる点は、社会への浸透力がすさまじいのだなと再認識します。

つばさ製作所
兵庫県在住、男性。毎日、街の風景を撮影しております。PENTAX K-1 Mark IIとHD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR REで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

日本津々浦々出向いても点在するコンビニエンスストア、時にその存在に安堵感を覚える一方で画一化されていく街の変化を感じずにはいられません。この作品はコンビニの文字情報を消しているとのことですが、初めから文字があったかと思うほどにこの配色によって「ファミリーマート」と脳内変換されてしまうのは私だけではないはずです。

画面奥にあるコンクリートむき出しの建物と相まって、いつの間にか都市風景に浸透しきったコンビニの存在を伝えているような奥深い作品ですね。文字を意図的に消したことにより、都市風景の画一化に警鐘を鳴らすというアイロニーも感じ取れる作品になっている点を評価したいと思います。作品に自分の意図を盛り込むというのは写真表現においてとても重要な要素です。

投稿作品ですが、撮影データを十分に活かしきれていないように感じます。まずは「明るさ」ですね。ややハイキーになっていることでビル等の質感が損なわれ、作品の持つ重厚感が失われています。また手前のポールの存在が目立ちますが、これも手前の明るさを落とすことでポールがシャドー部の中に入ることで緩和されます。推測ですが、編集時というよりは撮影時の露出コントロールに問題があるように感じました。

フィルムは物理的に白飛びすることがないこともありややオーバーに撮ることが普通でしたが、デジタルはその逆、ややアンダー目に撮影してレタッチで追い込んでいくのがセオリーです。露出補正は-0.3EVから-0.7EVを目安にするといいでしょう。それもあくまで目安なので、自分の機材がはじき出す露出の傾向と自分の欲しい値の差を調べるのも良いでしょう。私が最近愛用しているGXRは-1.0にしています。

それと画面構成ですが、もう少し改善できるように思います。全体的な垂直を出すこと、それとコンビニの建物はあえて切ってしまう方が良いと思います。その方がこの看板の異質感がより浮き立ってみえるように感じました、レタッチ例を参考にしてみてください。写真が世界から景色をトリミングする作業ゆえに、どう切り撮るか、もしくは撮ってきたものをどうトリミングするかで作品の印象が全く違ってきます。

55-300のレンズであればもっと切り取り方を詰めて、より撮影意図を明確にすべきです。奥のビルの四角い窓とコンビニの看板のリンク、何を見せたくてシャッターを切ったのかもう一度考えてみましょう。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

4月の挑戦者その5:杜子秋さん(他流挑戦者)

コンビニといえば四角い形が定番ですが、丸い形のコンビニを発見。
目新しい造形に心惹かれました。

杜子秋
東京都在住、男性。大学で写真を学んでいます。望遠で切り取る風景が好きです。SONY α7iiiとFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

お見事!

新納翔 師範からの添削コメント

 

都市風景のスナップとしてとても素晴らしい!構図、お題とどれをとっても文句なしの免許皆伝です。スマートフォン片手にコンビニの横を通り過ぎるマスクをつけた女性の存在によって、まさにイマ2022年が切り撮られているのもまた注目すべき点です。コンビニもさりげなく入っている感じが絶妙。こうなると「言うことなし、免許皆伝以上!」と終わってしまうのも味気ないので、さらなる高みへと誘うべく、当道場の奥、許されし者だけが入ることができるプロの間へ誘いましょう。

この作品、プロレベルで見るとやはり物足りない点があります。ちょうど良い斜光状況によって人工物が作り出すラインの重なりが面白いのですが、メインとなる要素は画面下に集中しています。特にコンビニ看板の白と画面右下の車の白がリンクしていることを考えると、やや上の部分は画面を散漫にしているように感じるので、緊張感を持たせるために切ってもよいかと思います。それと関連して、手すりのある歩道部分のブロック部分は上記の「白」を目立たせるためにほんの少し暗く落としましょう。

レタッチ例でどのような点に注意し、何をしていったのか記しておきます。

・画面上を整理するためにトリミング
・ブロック部分をやや暗く、都会らしくするためにマゼンタを少し引く
・ブロック部分、女性のスカートなどの質感がもう少し欲しいので部分的にハイパスをかけてテクスチャを強調
・画面上部など部分的な明るさ調整
・コンビニ看板の緑の彩度を上げる
・のっぺりとした感じを軽減するためにハイライト部分だけにノイズを追加

主なものを書くとこんな感じです。以上はPhotoshopにて調整いたしました。Exifデータを見る限りLightroomでの編集のようですが、やはり細かいところまで調整しようとするとなれば限界があります。Lightroomでも編集の幅が広がってきましたが、基本はファイル管理ソフト。より作品に深みを出すためにもデジタル時代の写真表現にはPhotoshopの習得はマストだと思っております。

敷居が高そうに思われがちですが、肌をなめらかにしたり合成を駆使するコマーシャルフォトと違い実際に使うのは全体のほんの少しです。今回の講評内容を次作に活かして免許皆伝2連発を叩き出してくださいませ。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

4月の挑戦者その6:yukkieさん(他流挑戦者)

2022年のKYOTO GRAPHIEで初めて出町柳に行きました。
まだまだ商店街に活気のあるところでしたが、コンビニもありました。

yukkie
兵庫県在住、男性。最近リコーの2009年製 GXRを手に入れ楽しんでいます。RICOH GXRとGR LENS A12 50mmF2.5 MACROで撮影。

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

この見事なスナップショットを見逃すことはできませんでした。手前の自転車に乗っている女性と、橋の反対側で犬を連れて歩いている女性、背格好から服装まで同一人物とかしか思えません。まさかのドッペルゲンガーかと思うほどで、写真をやるものならシャッターを切らずにはいられないでしょう。まさか多重露光で撮ったとも思えないので、奇跡の一枚と言っても過言ではないレベル。

写真全体を見れば色々と難点はあるものの、それを差し引いても素晴らしい「コンビニのある風景」だと思います。今回は良い作品が多かったのですが、やはり作者の個性が光るという点で頭一つ出たかなと採用にいたりました。

作者も思わずこの景色に気づきシャッターを切ったという感じでしょうが、ブレと露出がしっかりとしていれば素直に免許中伝にはなったかと思います。フィルム時代はぶれていても歴史に残る作品は多くあるものの、デジタル写真のぶれはどこか不自然に感じることがあります。その差がどこから来るのか目下調査中でありますが。

せっかく良いものを撮ってきても、それを編集で活かすも殺すも作者次第。銀塩時代でいえば暗室の腕の良し悪しということになるわけですね。このカットはもう少し良くなる余地があると思います。まずは画面構成、メインはこの二人の女性なので画面右はちょっと広すぎます。思い切ってトリミングしてしまいましょう。

レタッチのイメージとしては主役である女性をはっきりさせるように明るさの調整をし、同時に緑のさえが足りていないのでちょっと補ってあげましょう。画面内で明るい場所が目立つわけなので、実際は同じ明るさでも強調させたい部分を明るくさせることはとても効果的です。

これは当道場に投稿されている方全員に言えることですが、そのデータで大きくプリントできるか自問自答するのが大切だと考えています。モニタで見る分には多少ごまかしがききますが、見る人が見れば細かなブレ、高感度ノイズなど細かい粗がすぐにわかるものです。スナップショットにしろランドスケープにしろ愛を持って、一枚一枚大切に撮ってください。

そして常にこう言い聞かせてください。

そこに愛はあるんか?

と。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

師範より4月後半の総評

今回のお題は蓋を開けてみると結構難しかったのかもしれません。お題は「コンビニのある風景」ですからコンビニを主役にするというよりは、一枚の街のランドスケープ作品の中にコンビニが写り込んでいるような作品にすべきでした。もちろんコンビニ単体を主役にしてもいいのですが、それはかなりの難易度だと思います。

次回は「季節を切り撮ろう」という自由度の高いお題にしました。季節と言っても日本は環境に恵まれているのでおのずと写り込んでくるはずなので、実質フリー課題のようなものです。自分の個性溢れる作品をご応募ください。

しかし、採用されているのに「門前払い」というのはしっくりしないですよね。なにかそれに変わるいいネーミングがあればコメントにてお知らせください。「廊下掃除」「丁稚奉公」「道場見習」・・・なにかないかしら。

記念品のお届けについて
杜子秋さん、免許皆伝おめでとうございます!「免許皆伝看板」「免許皆伝ミニ木札」をお贈りします!
つばさ製作所さん、yukkieさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は5月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

惜しくも選外となった、最終選考ノミネート作品をご紹介

今回惜しくも、最終段階で選ばれなかった作品の一部です。
残念ながら選外となりましたが、5月のお題「季節を切り撮ろう」でリベンジお待ちしております!

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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