4月のお題は…『気配を撮ろう』

新納翔 師範

人を撮るのに必ずしも人が写っている必要はありません。誰も写っていないからこそ、人の存在を感じる写真もあります。写真家・中野正貴さんの作品「TOKYO NOBODY」はとてもいい例です。今回は、そういった「人の気配」を写真に写し込んでください。お題のポイントとしては人物が写っていないこと、それでいてその写真から人の存在が見る側に伝わってくること。作品のクオリティに加え、その点を審査基準とします。皆さんがどういう工夫をこらすか、またはストレートに来るか、楽しみにしております。

新納翔 師範からの4月のお題は『気配を撮ろう』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

4月の挑戦者その4:クウさん

青々と緑が繁っている中にある、かつて人々の憩いの場であった名残りに、僅かな人の気配を感じました。

クウ
東京都在住、男性。K-50からKPへ。趣味は写真ですって言えるくらいに使い込んでいきたい。PENTAX KPとHD DA 20-40mm F2.8-4ED Limited DC WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

どこかの公園でしょうか、苔むした積石に時の流れを感じます。「かつて人々の憩いの場であった名残に、僅かな人の気配を感じた」とクウさんのコメントにあるように、この景色からはかつて聞こえたであろう喋り声・秋になればザクザクと落ち葉を踏みしめる足音などが伝わってくるように思います。

この景色は自然と人工物が混在していることによって人の気配を生み出しています。うっそうとした木々に伸び放題の草、その中に無造作に置かれた石とベンチ。画面左側にあるオレンジ色の工事用の柵のようなものがいいですね。これがあるから写真に面白みが出ています。これがなかったら採用しなかったかもしれません。しかし非常に勿体ないです。全体的に緑の彩度が強すぎるのと、ベンチ等が色かぶりしていまっているせいでごちゃごちゃした感じになっていてせっかくこの景色が持っているポテンシャルを活かしきれていません。むしろレタッチでそれを台無しにしてしまっている様に思えます。正直に言うとそのせいもあって初見ではすぐに不採用にしました。

あくまでナチュラルに、作品の質をあげるために行うのがレタッチです。やりすぎは禁物。本来であればそこも含めて作品なのですが、そうすると今回採用するものが無くなってしまうので他の作品含め、その景色に何を見て何を感じたのか、その点だけに絞って講評することにしました。意図があって色を転ばせたものと、単に失敗して色調がおかしくなったものは見ればすぐに分かります。

それらを踏まえて私のほうでレタッチし直してみました。RAWデータから弄られればもっと踏み込んで出来たのですが、応募作品からレタッチしたので多少大目に見て下さい。手書きのコメントにも書きましたが、そういったことを意識してレタッチし直したものは印象がだいぶ違うと思います。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

 

どこをレタッチし直したのか全部記すと長くなるので主なところを箇条書きにしておきます。

・画面全体の緑被りを取る
・画面上側の木々・下の草・ベンチ・積石などそれぞれ別に明るさ・色を調整
・トーンカーブでうっそうとした感じを出す
・枯れ草だけ選択して色を調整
・奥のベンチを白に
・画面がすっきりするようにトリミングおよび適正なシャープ値に

撮影時にも言えることですが、ヒストグラムを見る癖をつけましょう。自分では少しのつもりでもヒストグラムで見れば相当緑が入っているのが分かるはずです。明るさやコントラストもそうです。特にカラーマネージメントされ、正確な色が表示さているモニタで無い場合には気づかずに過度なレタッチをしてしまうことがあります。人間の目は曖昧なものです。撮影時のプレビュー画面でヒストグラムを見ることで正確な露出コントロールができるようになります。撮影時、パソコン編集時にしっかりと見る癖をつけましょう。

4月の挑戦者その5:mikiphotoluverさん

銀座から新橋へ続くガード下にこんな素敵な空間があったとは!

mikiphotoluver
宮城県在住、女性。大好きな向井理さんのコマーシャルに誘われて購入したPENTAX K-30。以来PENTAX一筋かれこれ9年。下手の横好き。永遠の初心者。所有するPENTAXはK-30の他、Q10、Q7、Q-S1、フィルムカメラのME。PENTAX K-30 とTAMRON AF18-200mm F/3.5-6.3 XR Di IIで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

新橋銀座間のガード下のレンガブロックは長い歴史があるだけに重みを感じますね。その前に置かれた2脚の椅子。どこかの従業員が休憩用に置いたものなのか、絵になる光景をよく見つけました。ここに誰かが座っている写真よりも、人物がいないからこそ想像を掻き立てる一枚だと思います。気配を撮るというお題にすごくマッチしています。ここでシャッターを切ったことは良いのです、良いのですよ・・・。ただ本当に勿体ない。クウさんの作品への講評と被るところがあるのでそちらも読んでください。

この写真は壁面を撮った写真なのか椅子がある風景として撮ったのか、あまりに曖昧です。何を見せたい写真なのか、要素が散らばりすぎて主題があやふやになってしまっています。そうすると見る側からすると何を伝えたいのか分からなくなってしまうのです。自分の写真を客観視する、見る側に回って見る、それが足りていないのです。

撮影時に一歩前に出るだけで印象がとても変わっていたでしょう。寄るなら寄る、引くなら引く、この場合mikiphotoluverさんと被写体の距離感がちぐはぐになっているのです。コメントに書かれているこんな素敵な景色を見つけたという気持ちの割に、被写体が遠く感じます。物理的な距離感は精神的な距離感とリンクします。近くで撮ったものなのにとても遠くに感じるものってありますよね。心の距離感を大事にしましょう。

撮影後にトリミングするという前提で撮ることもありますが、まずは現場で出来ることは現場でやるように。一歩前に出る、カメラの角度を少し変える、ほんの些細なことが写真に大きく出ます。

ちなみに撮影条件は覚えていますか?ISO3200でf8の1/60秒。日中でこの設定はないと思います。擬色やカラーノイズを抑えるために私ならスローシャッターになったとしてもISO400で撮ります。自分の使っている機材に関して、カメラであればISOいくつまでがA4プリントに耐えられるか、このレンズならf値がどこまでなら解像感が失われないかなど把握しておくべきでしょう。ちなみに私は今まで撮った写真の全て、撮影条件を覚えています。自分の機材を完全にコントロールすること、これは写真撮影の最低条件です。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

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4月の挑戦者その6:ラタ: reautntさん

気配を撮ろう:朝の通勤途中の通りがかりの工事現場なのですが、前日仕事上がりの職人さん達が
慌てて帰ったのか地固め工事機械がポツンと寂しそうに…
高額な機材なのに置き去りにされてる寂しさがたまたまの朝日のスポットライトで
なんだか元気そうで輝かしくて。
ボクを撮って!!と言わんばかりに。笑
お疲れ様の気配を感じて思わずシャッターを切りました。
今日も頑張りなよって。

ラタ: reautnt
福岡県在住、男性。KPを愛用しています。スナップ(記録)ばっかりでなかなか作品の領域へ進めていません。
毎日カメラを持ち出して記録メモしています。PENTAX KPとsmc PENTAX-DA L 18-50mm F4-5.6 DC WR REで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

工事現場に置かれたタンピングランマー。正直この写真はそれ以上でもそれ以下でもない平凡なものだと思います。極めて普通。そうなのですが、応募作品を何度も見返す度どうしてだか毎回ひっかかるのです。

きっとそれは、この景色に対するラタさんのカメラアイがあまりに純粋無垢で好感を持てたからだと思います。いいと思った景色に出会った気持ちを素直にそのまま出す。これって簡単そうで難しいことなのですよね。「この写真いいでしょ、もっと見て!」という気持ちが写真にあらわれてしまうと、見る側としてはなにか押し付けられている感じがしてしまうものです。

写真というものはどこかにあった景色を借りてくるものである以上、解釈を見る側に委ねざるを得ません。どうしてここでシャッターを切ったのか、何に惹かれたのか・・・。ときに一枚の写真を通して伝えたいことと受け手が感じたものが全く異なることも多々あります。

この写真のいいところは、ラタさんの感じたことがテキストを読まずとも伝わってくるところです。写真表現においてとても重要なことです。参考までにラタさんのステートメントを載せておきます。見事写真とマッチしていますね。

朝の通勤途中の通りがかりの工事現場なのですが、前日仕事上がりの職人さん達が慌てて帰ったのか地固め工事機械がポツンと寂しそうに…
高額な機材なのに置き去りにされてる寂しさがたまたまの朝日のスポットライトでなんだか元気そうで輝かしくて。
ボクを撮って!!と言わんばかりに。笑
お疲れ様の気配を感じて思わずシャッターを切りました。
今日も頑張りなよって。

このスタンスで内容がもっとよくなれば免許皆伝となるでしょう。このままとにかく撮り続けてください。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

師範より4月の総評

DOJO CityScapeを開講して一ヶ月、とてもたくさんの応募作品を見させていただきました。普段東京の都市風景を撮っているもので、関西や九州といった違う地方の景色を見ることが出来るのはとても面白かったです。しかしながらちょっと残念に思っていることがあります。撮影したものをどう見せるか、レタッチといった編集作業を含めおざなりなものが多く見られました。言い換えれば、撮ったものの中からなんとなくセレクトし、なんとなくレタッチして出来上がりとしたような写真。

ひとつ皆さんに問いたいことがあります。応募する前にその写真が本当に自分の満足いくものになっているのか、現段階持っているスキルでやれることはやりつくしたのか見直していますか?

何度も何度も見直し、本当に良いと思うまで突き詰める、そうして作品にしたものは重みがあります。写真は撮ることも重要ですが、自分の作品を見つめ直す作業はもっと重要なのです。

人は第一印象に引っ張られやすいものです。講評するにあたり、自分の好みや見落としている点がないように採用する作品を一度決め、次の日にリセットされた目で見直すという作業を繰り返しています。本気でぶつかってきてください、私も毎回本気で見ていますので。

ちょっと厳しめかもしれませんが、何度もチャレンジしてください。

ちなみに講評のポイントとして一点追記しておきます。撮影時にクロスフィルターやカスタムイメージといった技巧的なものを使うことは良いと思っています。ただ、それが表現したいものに対して最適解なのかどうかそこがポイントです。なんとなく使ってみたのではなく、なるほどそういう使い方をするのか面白い!これはアリだ!と思わせれば勝ちなのです。自分の表現したいこと、作品にするまでのプロセス、そこも重要な評価ポイントです。

記念品のお届けについて

クウさん、mikiphotoluverさん、ラタ: reautntさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は5月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

 

リコーフォトアカデミーについて
そんな新納翔師範が講師を務める、リコーフォトアカデミー2021年度ゼミナール(東京校)も現在募集中です。
6月からの9か月間、一緒に学びませんか?

その他の投稿作品をご紹介

最後に、4月後半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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