~広い広い世界を、自分の思い通りに切り取れるなんて最高じゃないか。
第7回「フィルムカメラで切り取る」
今日の相棒は、PENTAX SP。ペンタ部のAOCO(Asahi Optical Corporation)マークが懐かしいレトロなフィルムカメラだ。手に持つと程よい重さと、艶消しのシルバーボディの手触りが心地いい。何より、この時代の一眼レフカメラは、私の手によく馴染む。それはまるで、卒業してから会っていなかった同級生に久しぶりに会った時の懐かしさのようだ。
発売は1964年、当時400万台以上も売れたコイツは、中古カメラ屋さんに行けば、今も普通に出会えるカメラだ。安価だがTTL絞り込み測光露出計を内蔵し、初心者にも扱いやすい。フィルムカメラを始めたい人にお勧めの1台だ。そして、M42マウントだから、タクマーレンズを使いたいオールドレンズ愛好家からも人気がある。
実は、このカメラ、私のアシスタントのSさんのものだ。さらには、彼女のお母さんが使っていたカメラだそうだ。つまり、今私が手にして、覗いているファインダーを、お母さんも覗いていたのだ。
写真部だったお母さんは、きっと、自然の成り行きで家族写真の撮影担当だっただろう。そして、ファインダーの中には、子供の頃のSさんが居たはずだ。私の知らないSさんを、このカメラは知っている。そんなことを想像すると、不思議だし、優しい気持ちになった。
親から子へ、受け継がれて大切にされたカメラ。たくさんの幸せな景色や時間を切り取ってきただろう。
自分が切り取る景色は、決して目に見えている景色だけではない。切り取られなかった周りの景色や、それまでの時間の凝縮である。そのことを頭に置いておくといい。見えていない景色や時間を感じなさい。そんなことを、この古いカメラが教えてくれた。
考えてみれば、景色だけでなく、自分自身や、自分の目の前にいる人も、たくさんの人との出会いや、いろんな時間を経て在るのだ。簡単に、良い悪い、好き嫌いで判断しないように気をつけたい。
大切なものは、目に見えない。心で感じて欲しい。