写真には人物なり風景なり、何らかの被写体がある。撮影者はそこに意図や意思を持って、ファインダーを凝視している、はず。PENTAXはご存知の方も多いと思うが、20207月に光学ファインダー(一眼レフ)に注力することを宣言している。実のところ、今レンズ交換式カメラの大半は光学ファインダーを液晶や有機ELに置き換えたミラーレス機だ。僕も仕事として写真を撮るときはミラーレスを選ぶ。仕上がりのイメージをリアルタイムで確認できるし、人の顔にレンズを向ければ、瞳にピントを合わせてくれる。機材も同じようなセットであれば、一眼レフよりひと回り以上コンパクトに収まる。

 

仕事でカメラマンに求められるのは、どんな球が来ても確実に打ち返すことができる能力だ。天気や時間、被写体など諸々の条件が目論見や事前に聞かされていた話と違うことは珍しくない。それでも涼しい顔をしてフェアゾーンへ打ち返すし、むしろ内心ホームランを狙ったりもする。こんなときでもホームランが打てるという能力をクライアントに証明できれば、さらなる評価や信頼を勝ち取ることができるからだ。まあそんなものは打てたり打てなかったりするのだが、ともあれ少しでも精度を上げるために最善の機材を選ぶ必要がある。

 

 

ただ仕事ではなく私事(わたくしごとではなく、ここはしごととお読み下さい)になれば話は変わる。自分が撮りたいものだけを撮っていくので、想定外の難しい球を打つことも少なく、多くの機能や機材を必要としない。ただし必要なものを撮っておしまいという仕事よりも、カメラに触れている時間は長い。だから構えたときに安定感がある程々のサイズが理想だ。その方がダイヤルやボタンの間隔も空き、操作もスムーズになる。一方で街中で撮影することを考えると、レンズは威圧感のない薄型や小型がいい。仕事の撮影では責任感や緊張感がいい結果を生むことも多いが、精神的に緩くなりがちな私事の撮影では、カメラやレンズをずっといじりたくなる感触が大事だと思う。

 

 

 

というわけで最近の私事道具といえば、K-3 Mark IIIDA20-40mmF2.8-4 Limited、あるいはK-1 Mark IIFA31mmF1.8 LimitedFA43mmF1.9 Limitedという組み合わせが多い。コロナ禍で出歩くのは徒歩や自転車で行ける範囲ばかりになって久しいが、さあ海外へ行ってらっしゃいと言われても、今ならたぶんこの組み合わせで行くと思う。

 

 

もちろんPENTAXの魅力は長い歴史と豊富なバリエーションを誇るKマウントレンズ群と、それを最新のカメラにも装着できる高い互換性にあることはいうまでもない。自分は超広角から超望遠まで揃えて森羅万象を写すのだという筋金入りのペンタキシアンには静かにエールを送ります。ぜひ頑張って下さい。まだPENTAX製品をお持ちではない未来のペンタキシアンにも静かに念を送ります。レンズ沼へようこそ。僕も内心ではいろいろな誘惑と戦っています。

 

 

 

実際のところPENTAXには良心的な価格のレンズも多いし、職業カメラマンの僕からみると、仕事より私事に向いているものが多い。K-3 Mark IIIも最新のカメラではあるのだけど、一眼レフという枯れた技術の集大成ともいえる。枯れた技術については、>>K-3 Mark IIIインプレッション『写真家の眼』でも書いた(以下引用)。

 

“尖ったデザインやコンセプトを持ったカメラもおもしろいが、最大公約数を選択した一眼レフの安定感と安心感も写真家としては心が躍る要素である。一眼レフを“オワコン”という人もいるかもしれないが、僕は安定した技術という意味で使われる“枯れた技術”だと思っている。たとえば50年以上運用されているロシアの宇宙ロケット・ソユーズは、枯れた技術の象徴的存在だ。最先端の技術を盛り込んだスペースシャトルが退役しても、ソユーズは宇宙飛行士たちを夢や希望とともに運び続けている。優れた一眼レフというのは、まさにそのような“よき相棒”だと思う。レンズを通った現実がスクリーンに投影され、その場の空気をレリーズボタンでスライスするように切り取っていく。この感覚は良質なペンタプリズムを積んだ一眼レフでしか味わえない醍醐味だ。遠い昔ペンタックスLX(1980年発売)のファインダーを初めてのぞいたときのことを思い出したが、K-3 Mark IIIにもその系譜を感じる。”

 

つまりK-3 Mark IIIは運転手をあれこれ助けてくれる自動運転付きハイブリッドカーではなく、ベースには最新技術を搭載しつつ、操る楽しみを味わえるマニュアルの軽量スポーツカーだ。すでにその楽しみを味わっている方とも、そしてこれから味わうかもしれない方とも、この連載を通して写真にまつわるヒントやアイデアを共有できたらと考えている。

 

〔こちらの記事でご紹介した製品の情報はこちら〕

>>PENTAX K-3 Mark III製品ページ