突如ペンタックスの新しいカスタムイメージとして「里び(SATOBI)」がリリースされた。聞けば世界中のユーザーに懐かしさや哀愁を感じてもらえる、60~70年代のカラー写真のような仕上がりを目指したそうな。そのカラー写真って、つまりアメリカン・ニューカラーっぽい写真だよねと勝手に推測した僕は普段から彩度下げ気味なので狂喜乱舞である。アメリカン・ニューカラーがわからないよという方はGoogleの画像検索を。

というわけでK-3 Mark IIIであらゆる被写体を里びっているのだが、これが非常に難しい。青にシアンが被り、黄色がくすみ、赤が褪せると公式サイトでは説明しているが、同じ色でも日なたと日陰、順光と逆光で転び方が違う。アメリカン・ニューカラーっぽくなる場合もあれば、“明るめになった銀残し”といった仕上がりになることもある。

 

 

 

「里び」は「鮮やか」や「オートセレクト」といった汎用的なカスタムイメージとは明暗の見え方が違う。そもそもハイコントラストなため露出がシビアなのだが、暗部はつぶれそうでつぶれず粘る。しかし明部はわずかに明るいだけで豪快に飛んでしまう。そのため明暗差のある状況では明るめな仕上がりになりやすい。ただし日陰や曇天など光がフラットな状況では、カメラの適正値通りでおおむね問題ない。そう、まるでポジフィルムのようなのである。

 

 

 

今でも趣味あるいは作品でフィルムカメラを使う人は少なくないが、装填するのは大抵カラーのネガ、あるいはモノクロのネガだと思う。僕もそうだ。しかしデジカメがなかった時代、写真を趣味にする人の多くはポジフィルムを使っていた。それが今ではラインナップも減り、現像してくれるラボも激減。プロ用フィルムの代表格だったコダクロームにいたっては、受け付けてくれる現像所は世界中どこにもない。「里び」の仕上がりを見ていると、アメリカン・ニューカラーというよりもそのコダクロームを思い出す。コダクロームもまた露出がシビアだった。

 

 

 

僕は高校3年生で初めて海外へ行ったのだが、その行き先が飛行機を2度乗り継いで、ほぼ丸一日かけて辿り着いたアメリカ・ニューオリンズだった。そこにコダクロームを持っていったのだが、東京では外しがちだった露出が、ニューオリンズではほぼラチチュードに収まっていた。乾いたトーンが東京とはまるで違うアメリカ南部の空気にハマったのかもしれない。そういえばペンタックス公式サイトに掲載されている>>「里び」のサンプル写真も、西部劇の舞台のような場所で撮影されている。アメリカのどこだろうか。まさか秩父の山奥じゃないよね?

話は飛ぶが、アメリカは日本と違って大都市から遠く離れ、砂漠に囲まれたような場所にも何不自由なく暮らせる町がたくさんある。アメリカの小説を読むとそんな田舎町がよく登場し、生まれてからずっとそこで暮らしているおじさんやおばさん、お兄さんやお姉さんがいたりする。そして僕はGoogleマップにその地名を打ち込み、ストリートビューを眺めて、まず巡り会うことのない遠い世界があることを想う。そんな日本人の99%が知らないような町を思いがけず訪れて、この「里び」で撮れたらきっと楽しいだろうなぁ。

 

 

 

自分が写真を始めたきっかけも、思えば遠い世界を近くに引寄せたかったのだと思う。小学生の終わり頃に初めて手にしたカメラは安物のポケットカメラ。うちがあらゆる家電製品を買っていた近所の電器屋さんが、何かのノベルティーにくれたものだ。110のカートリッジフィルムを使い、固定焦点・固定露出、レバーで巻き上げる電池いらず。今ならトイカメラと愛らしく呼ばれる類のシロモノだが、小学生の僕にはこれが世界を手元に引き寄せる魔法の道具だった。父母に連れられて里帰りしたとき、千葉や大分の風景を12枚撮りのフィルムへ大切に収めていた。

 

 

実は今、30年以上振りに110フィルムを使っている。1/10から日本橋小伝馬町のアイアイエーギャラリーでペンタックス・オート110限定の公募展「110展」があり、オーナーの稲葉さんから「カメラがなければ僕のを貸しますよ」と誘われたためだ。驚いたのは110フィルムをすでに富士フイルムもコダックも供給しておらず、ロモグラフィー一択ということ。ライフラインが細い。細すぎる。前澤さんの財力でなんとかならないだろうか。ならないか。

 

 

 

しかしペンタックス・オート110、笑ってしまうくらい小さいけれどファインダー像も見やすいし、ペンタックス67みたいにブームが来るかもしれない。「里び」から話が明後日へ逸れてしまったけれど、フィルムライクな「里び」は己のカメラや写真の原点を思い出させてくれる。物心ついた頃からカメラといえばデジタルだった人にはどう映るのかわからないが、いずれにしても光学ファインダーに「里び」の世界は反映されない。それを空間を裁ち切るようにシャッターボタンを押すと、
ファインダーで見ていたものとはまったく違う「里び」の世界が現れる。その現実との視差こそが、郷愁や哀愁を呼び覚ます記憶のエンジンなのかもしれない。

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写真展案内

110展(ワンテンてん)

会期:2022年1月10日(月)~16日(日)
会場:アイアイエーギャラリーhttp://iiagallery.com/
住所東京都中央区日本橋小伝馬町17-5 7ビル1F
Tel&Fax:03-6661-7170
営業時間:12:00-20:00(会期中無休・入場無料)

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〔こちらの記事でご紹介した製品の情報はこちら〕

>>PENTAX K-3 Mark III製品ページ

>>HD PENTAX-DA★16-50mmF2.8ED PLM AW 製品ページ

>>HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR製品ページ

 

 

■新カスタムイメージ「里び(SATOBI)」対応 ファームウェアのダウンロードページ

K-3 Mark III 機能拡張ファームウェアバージョン1.31

 

■K-1シリーズ向けにテストファームウェアを公開中

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K-1 新カスタムイメージ対応ファームウェアダウンロードページ

K-1 Mark II 新カスタムイメージ対応ファームウェアダウンロードページ

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