8月のお題は…『発見、地域の特色』

新納翔 師範

自分の身近な所に潜む景色をあたかも非日常の世界のように作品に切り撮る、そういう所にこそ作家性が出るのだと思います。景勝地で撮った写真も素晴らしいものですが、それは被写体が優れているからで作者の感性ではないということはよくあることです。

今回は自分の生活圏内を改めて見直し、自分で気づいていなかった驚きを探し出して来てください。景色というものは稀モノです。時間帯が違うだけでまるで別人のような顔を見せますし、細い路地を一本入るだけで素晴らしい景色が待っていたなんてことも。素晴らしい景色というものは撮影者の感性が作り出すものなのです。

新納翔 師範からの8月のお題は『発見、地域の特色』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

8月の挑戦者その4:Melyukiinaさん

【河川敷の夕暮れ散歩道】 横浜は鶴見川、豊田では矢作川。夕方の河川敷に人が集まる散歩時間、人生においても一番に目に焼き付いている景色の一つです。私の単身赴任先には必ず河川敷があり、その地の皆さんの幸せな時間をカメラマンとして一人で外から傍観してきました。我が家・わが家族は遠くの地。思い巡らせながらシャッターを押す。

Melyukiina
愛知県在住、男性。中学で星が好きになりRICOH XR500を手にしてマニュアル撮影デビュー。 PENTAX望遠鏡は天文雑誌などで憧れブランド。 いまはK20D,K-5,K-1、THETA、そしてJ-LIMITEDも手にしたRICOH-PENTAX育ち。 K-1縦グリップ付きで85mmを付けて街歩きをしていると プロのカメラマンが来てると間違えられてよく話しかけられます。 それも街歩きの楽しみの一つです。PENTAX K-1とHD PENTAX-D FA★85mmF1.4ED SDM AWで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

今年の夏は異常ともいえるほどの暑さに加えマスクで、体感温度がえらいことになっていました。これぞ夏の入道雲といわんばかりの見事な雲。天空の城ラピュタに出てきそうなこんな雲を目の前にしたら誰もがテンション上がってしまうはずです。

ただこれが人間の性、欲を出して傘を持った人、虹などの他の要素が入ればもっといい写真になるのではと考えてしまうものです。セットアップ写真ではないのでどういう要素が入るかは運でしかありませんが、ここで引き寄せるのがプロというもの。いや、引き寄せるというよりそれを必然にしてしまうのです。このカットでは犬を連れた夫婦でしょうか、その横を通り過ぎる男性の三人。おそらく三人目の男性がいない方がすっきりしたように感じます。

この写真を見てまず思ったのが、画面がやや傾いているように感じること。おそらく人物の足並みで水平を取ったように見えますが、この作品でメインはこの雲。であれば、図のように雲を三角形に見立ててバランス良くなるようにすべきだったと思います。

その違いは1度もありません(0.3度ほど!)が、この微妙な傾きが画面全体に与える影響はとても大きいのです。それが構図力というものなので、投稿する前に気づいて欲しかった、というのが正直なところです。

空の色調・質感はとても良いのですが、画面下の歩道や人物、木々からしてちょっとコントラストが強すぎるように感じます。コントラストを上げると色の濃度も上がるので、人物の肌などを見るとちょっとやり過ぎのように見えます。Photoshopでのレタッチであれば人物部分だけをマスクで柔らかくするといった処理が好ましいです。

それと同じ画面下についてですが、色ですね。歩道のアスファルトにマゼンタが結構入っています。範囲選択でアスファルトの上に四角をかけばそこだけのヒストグラムを見ることができます。そうすると赤だけ多いことが視覚的に分かると思います。

レタッチを覚えだすとついついやり過ぎてしまうということはよくあることです。せっかく覚えた機能なので使いたくなってしまいますよね。過度なレタッチより、ナチュラルなレタッチを目指しましょう。その為に大切なことは、レタッチをする前にゴールを決めることです。自分で初めに線引きをすることでやり過ぎは防げます。はじめのうちはノートなどに書いてもいいでしょう。次回はその点気をつけて再チャレンジしてみてください。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

 

8月の挑戦者その5:yukkieさん(他流挑戦者)

私の家からミニバイクで、北東に5分ほど走れば噴水のある森林公園があります。また北西の方向に10分ほど歩くと緑化植物園があります。そこでは土日に家族で楽しく過ごす姿が数多く見られます。

yukkie
兵庫県在住、男性。今年の夏の暑さが堪えている写真好きです。FUJI FILM X-E3とSUPER EBC XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

人類が火星に移住し、コロニーの中で暮らす人を撮影したような不思議な印象を受ける写真です。実際には植物園ということですが、すりガラス越しなのでしょうか、虫かごを持っている少女が実に印象的です。日が落ちてから撮影したものかと思ったのですが、データを見る限り日中なのですね。露出コントロールもよく出来ると思います。

撮影者のコンセプトに寄る所ではありますが、この不思議な印象がより強く見る側に届くようにするにはどうしたら良いのか、そこを考えるとどういう色味にするか、画面内でどこを暗くするかなどのプランが決まってくるでしょう。

この写真ではメインの少女、そしてコロニーのような植物園の白いガラスを強調させる方向性だと思います。逆に言えばそれ以外にはあまり目がいかないようにしてあげることです。細かい指摘になりますが、左下のシャドー部の中にあるものは潰してしまって良いと思います。手書きのコメントにも書きましたが、画面右端、木の奥にちらっと見える白い部分などは中途半端なのでトリミングしてしまった方が良いでしょう。こうして不要なものを画面から排除していくことにより、メインの被写体がいっそうひきたつわけです。

レタッチ例では上記のことを意識して、画面手前など黄色のラインで囲った場所以外はやや暗く、白いガラスのところはややハイライト側を持ち上げています。全体としてはそこまで印象は変わっていないと思いますが、画面手前の明るさを落とすだけでかなり雰囲気が変わってくると思います。そして毎回のように言っておりますが、スパイスとしてのノイズを少量加えています。

ところで道場に投稿される写真全体に言えることなのですが、どうにも絞り過ぎ・もしくは絞りを効果的に使っていない人が多いように思います。yukkieさんのこの写真、シチュエーション的にはf11、1/2000(ISO640)という組み合わせが果たして最適解だったのかやや疑問です。一般的にレンズ性能は開放から二段絞った当たりが一番よく、ある程度絞っていくと回折減少で画質が低下していきます。特にデジタルでは解像感が甘くなったり等、かなり顕著に現れます。

自分の機材をしっかり知るのは重要なことです。一度三脚に据えて同じ構図で絞りを変えながら画質の変化を見てみると良いでしょう。私は新しいレンズは必ずそれをやります。自分の目であるレンズの特性をしっかり掴むことはとても重要なことなのです。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

8月の挑戦者その6:tokutoku1002さん

東京の下町風景撮影で訪れた門前仲町、川面に夕方の光が反射して豊洲方面だと思う大きなビル群の景色が特徴的でした。

 

tokutoku1002
東京都在住、男性。風景写真を中心に、旅写真やスナップを楽しんでいます。コロナの影響で近場の植物園や町撮りで撮影練習に励んでいます。PENTAX KPとHD PENTAX-DA 16-85mmF3.5-5.6ED DC WRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

黄昏に染まる街、これから日は沈んでいくはずなのに何かが始まるような気持ちになりますね。時の流れと川の流れ、そこがリンクしているのでしょうか。一見よくあるような写真に見えますが、作者の想いと見る側の解釈が一致するということはとても難しいことです。この作品はそこを評価いたしました。写真展やSNS等、他者に写真を見せて思い通り伝わらなかったということは誰しもが経験のあることでしょう。

シルエット気味の写真ですが、惜しいですね。まずは何と言っても太陽を残すかどうかが問題です。画面上部の実際の太陽から、バス・川と反射して丸い玉が5つ連なっているのはちょっと画面構成上うるさく感じます。ここはレタッチ例のように敢えて実物はトリミングでカットしてしまった方がスッキリするでしょう。逆光でファインダー内が眩しかったと思いますが、構図力の試されるところです。

組み写真の中の1枚であればこのままで良いのですが、単写真として見るとビルや橋の欄干の様子などもう少し情報が欲しいところですね。ここは暗部を出しすぎてしまうと嘘っぽくなりますし、なかなか塩梅が難しいところですが、ほんの少し明るくするだけでも大分印象が変わります。フィルムがハイライトの情報を豊富に持っているように、デジタルは思った以上に暗部の情報が残っているものです。

あくまで単写真ということを意識して、1枚の中に入っている情報量を考えるのはとても重要なことです。自分が仮に見る立場だとして作品を見る視線が大事なのです。

奥に見える建築中のビルとの対比が出せたらもっと良かったと思います。

ところでKPは画質が良いカメラですね。自分は所有していないですが、今まで多くのKP作品を見ていると適度なノイズのせいかとても立体感があり豊かな階調が特徴なのだと兼ね兼ね思っておりました。K-3 Mark IIIとはまた違った性格のようで両方持っていても全然いいと思います。

話がそれましたが、自分の写真を客観視すること、これを心がけてみてください。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

 

講評を終えて

さてPENTAX道場も残すところ後一月となりました。一年ちょっと担当している間に、投稿作品のレベルが上がっていくのが実感でき、微力ながらお役に立てられているようで嬉しい限りです。

そんな最後にふさわしい「未来を撮ろう」というお題ですが、これをどう解釈するかが一番大事なところだと思います。物理的にいえばそんなことは不可能なわけですが、世界の一部分だけを切り取る写真表現だからこそ具現化できるのです。

今回のお題、撮ることと同じくらい考えることが大事です。

さぁラストに免許皆伝はでるのでしょうか。名残惜しいですが、楽しみにしております。

記念品のお届けについて

Melyukiinaさん、yukkieさん、tokutoku1002さんには「免許中伝ミニ木札」をお贈りします!

記念品は9月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

惜しくも選外となった、最終選考ノミネート作品をご紹介

今回惜しくも、最終段階で選ばれなかった作品の一部です。
残念ながら選外となりましたが、まだまだ後半の挑戦も受付中です!

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