9月のお題は…『未来を撮ろう』

新納翔 師範

子供の頃にアニメで見た、自動車が空を飛び透明なカプセル型の高層タワーが立ち並ぶような未来はまだ来ていませんね。それどころか令和の時代でも昭和は至る所にその面影を残しています。その一方で予想を遥かに超えて進化したものもあります。

街を歩いていると、未来の片鱗を感じさせる光景に出会うことがあります。今回のお題は「未来」。皆さんがふと感じた未来を切り撮って投稿してください。未来という言葉はどこか希望を感じるのは私だけでしょうか。こういう時代だからこそ明るい未来の片鱗をお待ちしております。

新納翔 師範からの9月のお題は『未来を撮ろう』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

9月の挑戦者その1:吉川 卓志さん(他流挑戦者)

未来について思うのは、将来は脳とデバイスが何らかの方法で直接接続され、リンクされるという事でした。デジタルカメラなら、カメラが今撮ろうとしている映像が直接目で見える未来です。 しかしこれは現在のミラーレスカメラである程度実現されていて、これは良いことも有るけれど、光学ファインダーも良かったなと思ったり・・・これはジャックインが実現された未来に感じる感覚の先触れなのかもしれません。 この写真の風景はカメラを通して見る風景がモデルです。 現実の風景が電子機器によって見やすいように加工を受け、偽物の風景として表示されています。

吉川 卓志
東京都在住、男性。目がカメラだったらいいのにと思ったけど、よく考えたらやっぱり嫌だなと思う今日この瞬間の気持ちを写真で共有したいと思いました。CANON EOS RとYASHICA CONTAX Planar 50mm F1.4で撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

三本のソーラーパネルに無機質な白い建物、ジョージ・オーウェルの小説「1984」に出てきそうな未来感のある景色ですね。かつて想像された未来予想図からすれば、現実世界はある部分ではその通りになったし、またある部分では全く異なる道を進んでいます。

デジタル写真もその一例ですね。ただ作者もコメントで述べているように、景色が人間に歩み寄っているのか、人間が科学の作り出した景色に適合しようとしているのか、どちらなのでしょう。デジタル写真というものはピクセルの集合体です。自然界にピクセル状のものが存在するはずはなく、デジタル写真はいかに本物と区別がつかないように近似させるかというところを追求しているわけです。絶対本物と同じにはならないけど、人間の目で見分けがつかないようなレベルで近似させていくもの、それをフェイクと呼ぶかは各々の解釈によるところでしょう。

作品についてですが、もう少し画面構成をうまく処理できていればワンランク上の評価になっていました。無機質な構造物で構成された写真は、垂直・水平や余白の意味が大きなウェイトをしめてきます。

この作品ではソーラーパネルが三本ありますが、それによって見る側としては目の動きが左右に散ってしまい結果として散漫な印象を受けます。右端に写っている街並みによって現実に引き戻されてしまうこともあるので、ここは真ん中の一本だけに絞るほうが良いでしょう。

水平はレタッチ例のようにしっかりと直すとして、アスファルトも写っている面積が大きいと何か意味性を感じてしまいます。おそらくそこまでのものはないと思いますので、トリミングしてしまった方がスッキリするでしょう。もちろん撮影時にできればそれに越したことはありませんが。

未来をテーマにするのであれば、やや暗部を起こした方がいいかと思います。撮影にオールドレンズを使うこと自体は特に何も言いませんが、こういう被写体であればもう少し解像感が欲しいところです。プラナー50はデジタルとの相性もいいですが、もう少し絞った方が良いでしょう。プラナー50って、開放はアマアマの独特な描写ですが、f8あたりまで絞ると急にお利口さんになるのですよね。それとお気づきかもしれませんが、ピントがソーラーパネルと建物の中間あたりに来てしまっています。

次回はラスト道場、画面構成をしっかりつめて再チャレンジしてみてください。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕



 

9月の挑戦者その2:yukkieさん(他流挑戦者)

コロナ感染に気候変動やウクライナでの戦争、この地球に未来はあるのか。あるとしたらそれは荒廃した大地と墓標だけなのか。

yukkie
兵庫県在住、男性。他流試合が今月で終わるのを悲しく思っている70歳超 。FUJIFILM X-T10とFUJINON XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

ここはどこなのでしょうか?鳥取砂丘なのか、もしかしたら火星なのかもしれません。それくらい世界観の大きい作品です。まるで人類が消滅し文明さえも滅んだかのような光景に、一本の杭、なんだかとても意味深ですね。

今のままで行けばこういう未来が待っている可能性も十分にありますし、作者のコメントも含め、とても素晴らしい作品だと思います。おそらく元写真から色調をかなりビビットな方向に持っていったのだと思いますが、その思い切りも良かったと思います。日本らしさを消すことでより「未来」感が出ています。

私からすると、若干砂地の部分のマゼンタが強いように感じます。レタッチ例と比較してもらえれば方向性がかなり違うのは分かると思いますが、この世界観であればややマゼンタを引いてイエローの方にふっても良かったかと思います。ヒストグラムをよく見て、自分が納得するまで色を追い込んでみましょう。

それと気になったのはアスペクト比ですね。この作品でなぜ16:9にする必要があったのか、しっかりと述べられれば良いのですが、なんとなく横長にしたという感が否めないのです。16:9は横に広がっていくイメージと組み合わせることによって、より広がりを強調することが多いです。ただこの作品は元よりそのイメージが出来上がっているので、それを更に横に広げてしまうとせっかくの世界観が崩れてしまうように感じます。

2:3でも十分にワイドな世界観が出ているので、そのままで良かったと思います。アスペクト比は作品の印象をがらりと変えてしまうので慎重に決めるようにしましょう。

さて作品について考えて欲しいこと、それはパソコンの待ち受けがアート作品として認知されないのはなぜかということです。Windowsの待ち受けはCGのようで実写なのですよね。ただあのイメージをアートと捉える人は相当少ないはずです。

それと同じことがこの作品についても言えると思います。そのヒントが植田正治先生の「砂丘モード」にあるのではないでしょうか。そこはご自身で考えていただきたいので敢えて何も書きませんが、ここからさらに素晴らしい作品に昇華するためにはいくつかの要素が欠けています。じっくりと考えてみましょう。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕



9月の挑戦者その3:えみっくさん

昔から東京で夢見ていたことは「泳げる東京」です。私が子供の頃は東京で泳ぐことなどとても無理でしたが、自分の子供が小さい頃にお台場や葛西の海で磯遊びができるようになり、2015年からなんと葛西臨海公園で海水浴ができるようになりました。泳いでみると、想像以上に広い海と空に視界が覆われ、おおらかな気分になります。未来はさらに綺麗な海の東京が待っているのでしょうか。楽しみです。

 

えみっく
埼玉県在住、女性。絵を描いたり、2Dや3Dを作っているCG屋です。コバントン県と秋葉原に良く出現します。 今年の春に645Zを入手しました。PENTAX 645Zと smc PENTAX-FA645 33-55mmF4.5ALで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

もう一歩!

新納翔 師範からの添削コメント

東京湾で海水浴ができるようになったことに未来を感じたというのは非常に共感できるところです。海に面しているようで、実際に海にでようとすると、京浜工業地帯を中心にどこもコンビナートで一般人が海に近づくことはできません。せいぜい千葉側か、金沢八景あたりまで出ないと海に出られないのが現実。

戦前の羽田空港付近には大きな海水浴場があったようですが、またそういう場所が増えるといいですね。とても目の付け所が良い作品だと思います。今回のお題は、「未来」という要素をどう盛り込むかにあり、そこには正解はありません。そこを考えることが撮影自体と同じくらい重要なポイントです。

645Zでの作品ということですが、残念ながら中判特有の解像感や階調性が乏しい印象を受けました。645ZはDと比べ画素数も上がっているのでより手ぶれやレンズに求められる解像度が上がっています。645Dでは満足していたレンズも645Zだとやや解像度不足で使えないレンズもありますし、手ブレによる画質低下を考えると自分の場合、手持ちであれば1/500以下は切らないようにしております。中判はそこら辺に気をつければフルサイズとは違った世界が広がっているので、まずは一度三脚を使って撮影することをおすすめいたします。

F29という絞り値ですが、中判だからといってそこまで絞ることは無いと思います。せいぜいフルサイズの時から1段ないし1.5段深く絞れば十分です。もう8年前のカメラですが、このセンサーは本当に素晴らしく今でもトップクラスの逸品です。是非そのポテンシャルを引き出してあげてください。

作品については遠方のビル群、海水浴に興じる人々によって明るい未来を感じますね。さらに手前に入れた緑も効果的で、人工物に覆われた巨大都市が緑に回帰していくようでこれも未来を感じます。これも刷り込まれたステレオタイプ的発想なのかもしれませんが。

やや全体としてハイキーに感じます。作品としてハイキーに仕上げるのは良いのですが、せっかくならRAWで撮って部分的に追い込んでいくスタイルのほうが良いでしょう。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

 

師範より9月前半の総評

道場も次回でラスト、そのせいか今回は難しいお題に反して多くの作品が集まりました。力作が揃うと選ぶ側としても大変です。結果的には採用されていない方でも、僅差で採用ならずというケースもあるので気を落とさずに今回の講評を読んでチャレンジしてみてください。

次回はいよいよ最終回です。皆さんの思い思いの未来を込めた作品、お待ちしております。

記念品のお届けについて

吉川 卓志さん、yukkieさん、えみっくさんには「免許中伝ミニ木札」をお贈りします!

記念品は10月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

惜しくも選外となった、最終選考ノミネート作品をご紹介

今回惜しくも、最終段階で選ばれなかった作品の一部です。
残念ながら選外となりましたが、まだまだ後半の挑戦も受付中です!

〔クリックで写真が大きくなります〕

いよいよ最終回です!たくさんのご投稿もお待ちしています!
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