これまで写真集は3冊出してきたが、このたび初めての著書を出すことになった。正確にいえば共著はあったし、写真以外の著書を出したこともあるので、写真の本としては初めてのソロ、ということか。ややこしいな。
ともあれ『いい写真を撮る100の方法』という本になります。玄光社から税別2,000円。紙の書籍はもちろん、電子版もあります。よろしくお願いいたします(玄光社による紹介は>>こちら )。ちなみに今回の写真は本書の作業から解放され、リハビリを兼ねてK-3 Mark IIIで撮った最近のスナップでございます。

 

 

 

玄光社では2014年に『写真が上手くなりたいなら覚えるべき50の掟』という本を、風景写真家の秦達夫さん、ポートレートが専門の萩原和幸さんと3人で出した。これが実は空前のヒットを飛ばし、続編も作られたほか、よその出版社からタイトルに数字が含まれた写真関連の書籍やムックがたくさん出版された。そしてその中のパクリ…とはいわないが、ジェネリック的なもののいくつかに僕もちゃっかり寄稿している(笑)。

僕は写真を仕事にする前、書籍の編集をしていたのでよく知っているが、出版というのは何かが売れると似たような企画が続く。別にパクっているわけではなく、実績があるものの類似企画は、社内の会議であるとか、取次(本の問屋さん)との交渉で話が進みやすいのである。ただ二匹目や三匹目も売れるという甘い世界でもないのだが。

 

 

 

 

そんなわけで最近数字モノの企画はあまり見かけなかったのだが、時間も経って写真を取り巻く環境も変わったし、前回は50だったので倍の100で…みたいな感じで今回の企画は進んだのだが、よく考えたら前回は3人で50。それが今回はソロで100である。きつかった。企画そのものは2年前から進んでいたものの、僕の始動が遅く「今年9月には出しますよ!」と担当編集者からケツを叩かれ、おおまかに写真を選んだのが4〜5月頃。書き始めたのが6月の終わりで、ほぼ2か月で一気に仕上げた。毎日が8/31、泣きながら宿題に向かう小学生のような夏だった。

ただ短期間で書き上げられたのは、頭の中に「写真の教科書」というはっきりとしたイメージがあったからだ。写真関連の書籍を見ると、細かい解説や作例、図解などがびっしりあるような参考書はいっぱいある。僕もたびたび執筆をしてきた。でもそれ以前の基礎的な思想や思考、意識を植え付けるような本が少ないのだ。ないわけではないが、そういう本を書く写真家はアカデミックだったり、とても頭がキレる人だったりする。なので確かにおもしろいのだが、カメラを買ったけど写真がうまくならないという人とか、進路で写真関係を考えている高校生や大学生には難しいんじゃないだろうか、という疑問もあった。そこで誰でもわかるレベルまで敷居を下げた本を書いてみたかった。

 

 

 

100篇ある個々の話は、自分がカメラマンとして仕事をしたり、あるいは写真家として作品を発表したり、そして学校で写真を教えたりしてきた中での経験や、それに基づくルールやメソッドだ。もちろん専門的な用語や歴史上の写真家も登場するが、写真を知らない人が読んでも理解できるよう心掛けている。このあたりは前職の編集者時代、大学の教授や評論家などの本を手掛けた経験が生きている(はず)。

本書では写真を1篇につき1枚、わりと大きめに載せていて、ちょっとした作品集的でもある。ときどき風景やポートレートもあるが、とくに写真のジャンルは限定しておらず、ほとんどはこの連載でいつも掲載している、いわゆるスナップだ。基礎的な話なので、凝った写真はほとんどなく、その場にいれば誰でも撮れるような写真である。ただその場にいても10人いたら撮る写真は10通り。なかにはシャッターが押せない人もいるかもしれない。そんな人が次はちゃんとシャッターが押せるようになれば、というのが本書の願うところである。

 

 

 

 

ざっといくつかの項目の見出しを抜き出すと…。

■「撮れた」と思った後にもっといい瞬間がある
■あえて謎や矛盾を残して違和感を作り出す
■セオリーやタイミングを外して緊張感を作る
■カメラを持ったらなるべく細い道を歩く
■プログラムオートだっていいじゃないか
■写真の第一印象は焦点距離=遠近感で決まる
■左右に視線が分かれることで物語は広がる
■しゃべりすぎない「引き算の表現力」をつける
■写真は人に見られることで育っていく
■伝わらないこだわりは思い切って捨てる
■今日撮れる風景は明日撮れないかもしれない

なかにはメシを食えとか、いい靴を履けといった話も出てきて、ややお叱りを受けそうな気がしないでもないが、僕がもっともいいたかったのは「写真は人に見せてナンボ」ということである。人に見せないのなら何をどう撮ったって構わない。でもわざわざカメラで写真を撮るということは、目の前の光景や事象を他人と共有したいはず。だったら撮影で外に向かうだけでなく、撮った写真もまた再び外に出すべきである。

写真に行き詰まっていたり、何か刺激が欲しいという方は、ぜひ本書を手に取っていただきたい。そうじゃない方もぜひ手に取ってください。そんな話を関係あるようなないような話だが、僕は現在作品を募集している「PENTAXフォトコンテスト2022」の審査を仰せつかっている。入賞12作品は四谷のPENTAXクラブハウスに展示され、写真を外に出すという意味ではひとつのいい機会かと思う。12/15必着とまだ時間はあるので、力作をお待ちしております。

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本書の出版を記念した鹿野さんの写真展「それは光のしわざ」が、喫茶ランドリー本店(東京都墨田区千歳2丁目6−9 イマケンビル1F、ホームページは>>こちら で開催されます。

会期は2022/10/21(金)〜11/6(日)、営業時間は11〜18時(金曜は〜22時)です。なお10/30(日)は休業、他にも貸切などでご覧いただけない場合があります。喫茶ランドリーのインスタグラムにてご確認ください。

鹿野さんより「おいしいカレーライスやクラフトビール、コーヒーとともにお待ちしております」とのことです。
なお10/23(日)19〜20時には、本書のデザインを手掛けたアートディレクター・三村漢さんとのトークイベントも行われるそうです(申し込みはこちら https://100rules-talk.peatix.com/view から)。
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