初めまして。PENTAXデザインのワタナベです。

カメラのデザインを長い間担当してますが、カメラに限らずデザインワークで迷い悩むことが多々あります。

そんな時どうするかと言えば

「迷ったらスケッチ」
「悩んだらスケッチ」

なにはなくともデザインワークにスケッチは欠かせません。結局、デザイナーは常に何かしらスケッチを描いてるのです。

一口にスケッチと言っても様々です。

それはデザイナーにとってデザインを考え、伝えるための手段であって決して目的ではありません。これだけでは少し分かり難いと思うので、デザインワークのなかで生まれるスケッチをジャンルに分けてご紹介したいと思います。

平面スケッチ

スケッチと聞いて最初に思い浮かぶのがこれだと思います。
初期のラフ案から最終案に至るまで、あらゆる場面で使われる手法です。
打ち合わせ中にイメージを共有するため、手早く数分で描くことがあります。
また、頭に浮かんだことを忘れないうちに描き留めるような、メモ的な使い方もします。

■頭の中のイメージを、瞬時に他人に伝えるためのラフスケッチ



■アイデアを描き留めるメモや、練るためのサムネイルスケッチ



※「サムネイルスケッチ」とは親指の爪の大きさくらいで描く小さなスケッチ。早くたくさん描けます。

 

■最終プレゼンテーション時にだけ描いていたレンダリング(最終デザイン画)



※左はかつて主流だった手描きのレンダリング。右は現在のCGレンダリング。

手描きレンダリングは作成に時間がかかるため、かつてはデザインを決定するプレゼンテーションの時にだけ描きました。
しかし、最近はCGで手早くレンダリング相当の画が描ける(しかも手描きでは難しかった質感までリアルに表現できる)ため、早い段階からこのレベルの画で何度も検討することが増えました。



■立体スケッチ
立体を作ることもスケッチの一種です。
クレイ(粘土)や紙、発泡スチロール等の加工しやすい素材を使い、ラフスケッチのように実物大の立体を作ります。
手に持った感触と、見た目のサイズ感を確かめながら検討できるのがメリットですが、デメリットもあります。

・ 作るのに時間と手間がかかる。
・ 修正すると、元の形が残らない。
・ 複製が難しい。(型取りして複製できるが、難易度が高い)

 

などなど。立体は一つのアイデアを深く検討するのに向いています。

デザインコンセプトを説明するための立体

握り心地などを検証するための立体

■2.5次元スケッチ
最近は早い段階から3D-CADでラフスケッチします。
手描きと違い、機構部品の収まり具合を正確に把握しながらスケッチできます。
当然、簡単に複製できるので、バリエーション検討しやすいメリットもあります。
また、派生機種の検討などでは、元の機種のデータや流用する部品のデータを活用できるので作業効率が上がります。
デザイナー以外にもメリットがあります。早い段階でデザイナーが3Dデータを作ると、設計初期から設計者が形を正確に把握できるし、3Dプリンター等で立体化して企画や販売の方々と検討できます。



残念ながらデメリットもあります。

・3D-CADの操作を覚えるのに時間が掛かる。
・パソコンが必要。(手描きや手作りなら不要)
・モニター画面が小さいと作業効率が悪い。
・開発用の3D-CADソフトは高価。
・データが壊れて作業やり直すこともある。(一定時間毎に自動バックアップしてますが、同じ作業をもう一度やる心理的ショックが大きい)

 

個人的な印象ですが、CADのようなデジタル手法より、手描きや手作りのようなアナログ手法の方が“突然のひらめき”のようなことが起きやすいと感じます。また、早い段階から製品に近いビジュアルを見てしまうので、実体化した時の高揚感は以前に比べて減りました。

というわけで、スケッチについて個人的に思っていることを書き連ねてみました。今回紹介したスケッチのうち、どれか一つの手法だけでデザインワークが完結することはありません。必要に応じて使い分けます。
アイデアの幅を広げたいときは、手を動かして手早く試行錯誤できるアナログ手法の「平面スケッチ」が向いてます。
アイデアを精緻化するにはデジタル手法の「2.5次元スケッチ」が良いでしょう。「立体スケッチ」については「2.5次元スケッチ」の登場ですっかり出番が減りました。
ところが困ったことに個人的には「立体スケッチ」がいちばん性に合っています。しかしそれは細かな修正の繰り返しなど、デザインの品質向上をスピーディーな対応で求められる今の開発ニーズに合わなくなりつつあります。
・・・ちょっと寂しいものです。

いまPENTAXクラブハウスで「PENTAX カメラのデザインスケッチ展」が開催中です。[11/10(金)~11/29(火)] 発売されたカメラのデザインスケッチをギャラリーで展示/販売。スケッチを印刷したポストカードもあわせて販売中です。日によってはデザイナーも居ます。お近くにお越しの際は、是非お立ち寄りいただければ幸いです。

※文中の「平面スケッチ」「立体スケッチ」「 2.5次元スケッチ」は一般的な名称ではありません。
今回の記事を理解し易くするために、仮に付けさせていただきました。