旅は突然やってくる。
羽田で寿司でもつまもうと思っていたのだが、搭乗口近くの立ち食い寿司のカウンターはサラリーマンの列で立ち入る隙もなく、仕方がないので柿の葉寿司をリュックのポケットに突っ込んで飛行機に乗り込んだ。時間は午後7時過ぎ。夜の出発便は不思議と気分が高揚するものだ。

今回の旅のカメラは発売されたばかりのPENTAX KFである。私の手元にやってきたのは白黒ボディのかわいいヤツ。ブラックの HD PENTAX-FA 31mmF1.8 Limited を装着するとその質感の違いから、ややちぐはぐな感じがしないでもないが、白黒の小型犬のようなルックスが愛らしい。
まず、軽い。K-3 Mark IIIのような剛性感はないものの、基本性能をしっかり備えた防塵・防滴構造、さらには耐寒性能を備えた案外たくましいカメラだ。冬の訪れを共に旅するにはちょうど良いカメラではないか。

機内で柿の葉寿司を緑茶であわただしく流し込み、到着したのは熊本空港。どこを見ても熊のキャラクターだらけである。私の右肩に下げられたPENTAX KFに似ているようにも見えるのは私の贔屓目だろうか。KFの白いボディは夜に映える。小さなシャトルバスに乗り込んで今晩の宿へ向かった。

翌朝車に乗り込んで向かったのは南阿蘇。急遽決まった12月の旅だが、ビジネスホテルでは味気ないというもの。民宿風の宿を見つけたので、早速コンタクトを取って一泊滞在させてもらうことにしたのだった。車で移動中、良さそうな店を見つけたのでランチに立ち寄る。今回はすべて新しいカスタムイメージの「冬野」で撮影してみたのだが、彩度は低めながら赤みが強調される「冬野」はテーブルフォトにも良いようだ。

轍を抜け、車の底に砂利をコツコツあてながら宿に辿り着くと、ふくふくとした大きな猫が出迎えてくれた。我が家の猫とは違い、随分社交的な性格なようだ。「この子、お客さんが大好きなんですよ」と宿の人が鈴の音を響かせながら扉を開けた。部屋からは阿蘇山が見える。雄大で美しい山だ。夕方には稜線の影が次第に薄くなってゆくのを見、朝には東からの光を浴びてその影がくっきりと濃く刻まれてゆくのを眺める。なんて贅沢なことだろう。

後ろ髪を引かれながら宿を後にし、周辺を散策しながら空港へ向かう。初冬の阿蘇は思った以上に寒さが厳しく、つねに鼻の頭を真っ赤にしていたような気がするが、本州にも北海道にも無い、ここでしか出会えない風景がたしかにある。山が大きな口を開けて「ガハハ」と笑っているような、ダイナミックというよりは豪快な風景に、がっしりと両脇を抱えられているような安心感を覚える魅力的な土地である。

KFはマイナス10℃まで動作を保証しているとのことなので、白いKFで雪の阿蘇を撮りにぜひまた訪れたいものだ。
旅に出るたび好きな場所が増える。好きなカメラで好きな場所を撮る。これ以上楽しいことがあるだろうか。