コーヒー豆を貰った。
「ミルはお持ちですよね?」と聞かれ私が否定するより早く夫が「はい」と大きく頷いた。そこは「ない」でしょう、と冷ややかな視線を投げつつ良い機会と捉えコーヒーミルを購入することにした。

購入したのはUSB給電でスマートなフォルムをしたもの。コーヒーメジャーで2〜3杯しか入らない小さなミルだが、2人で飲むならこのくらいのサイズで十分だろう。早速豆を入れてスイッチを押すと、モーター音とともに刃がゆっくりと回り出し「カリ、カリリリ」と音を立てて透明な瓶にゆっくりと粉が溜まってゆく。

我が家の飼い猫である小花さんも耳だけこちらに向けて豆が挽かれてゆく音をじっと聞いているようだ。やかんのお湯が沸くまでにはまだ時間がかかりそうなので、粉が溜まってゆく様子を見ることにした。少々騒がしいけれど砂時計のようにも感じられ、なかなか良い買い物だったのではないかと思い始める。なにかにつけ調子のいい夫の言動もたまには役に立つものである。

5分ほど経過した頃、ひときわ高く「ガリッ」という反響音とともにミルの動きが止まった。早速沸きたてのお湯でドリップすると、モコモコと粉が高く噴き上がってくる。あらかじめ挽いた豆でも十分ではないかと思っていたが、なるほど、自宅で豆を挽くのはなかなか良いレジャーなのだなと水分を得て生き物のようにうごめくコーヒーの粉の群を観察する。

小花さんがスン、と鼻を動かしながら顔を上げる。「いつもと香りが違うでしょう」と言いながら鼻先を人差し指でつつく。
小花さんが仙台からやってきて今年で9年目になる。保護されたときにはすでに1歳近くだったらしいので、すでに10歳は超えているということか。人間と同じで年齢とともに少しずつ不具合が出てきたようだが、一緒に同じ時間を過ごすほど愛情は増してゆく。

このコロナ禍でひとつだけ良かったことがある。家にいる時間が増えた夫に、小花さんがようやく心を開いたようなのだ。可哀想に、どうやら小花さんにとって所謂「生理的に受け付けない」対象であった夫は7年間触れさせて貰えなかったのだ。

窓辺の定位置で小花さんがごろり横になる。K-3 Mark III を構えて撮らせてもらう。カシャン、というミラーの跳ね上げ音は彼女にとっても心地よいらしく、また FA 31mmF1.8 Limited の小ぶりなレンズも向けられても嫌なものではないようだ。冬の朝の光はひやりとした空気のなか特別にあたたかで、そんな光を素直に受け止めてくれるこのレンズは常にそばに置いておきたい存在である。

愛は受け取るだけでなく、与えてこそ満たされるのだということを、小花さんと接していると実感する。このやわらかな被毛のなかにはきっとたくさんの愛が詰まっているのだろうな、と再びレンズを向ける。愛する者を撮るのは幸せなことだ。