先日行われた東京マラソン2023、僕も2年連続で参加し、6時間17分25秒で完走した。人生初マラソンの昨年が6時間24分56秒。そこから30分くらいはタイムを縮めたかったが、誤差の範囲内くらいしか速くならなかった。これが己の限界なのだろうか。少し前に僕の走りを見てくれたプロの陸上コーチは「スタミナと脚力はあるから、痩せればサブ4(4時間切り)はいける」と励ましてくれた。1kg減るとフルマラソンで3分速くなるというから、78分削るには単純計算で26kg痩せなければならない。そこまで痩せたら78分どころかもっと削れる気もするけれど、まあ42.195kmどころではない果てしなさだ。
そんな東京マラソン、沿道には多くの友人知人、そして妻と息子が来てくれた。ランナーからは、沿道に見知った顔があるとすぐわかる。だけど沿道にいる側はわからないようで、僕から友人知人に声を掛けることが多かった。ランナーはほぼ同じ姿格好だから、まあわからないのも無理はない。今はAIを駆使した大会公式の選手追跡サイトがあり、これを見ていた友人や妻はすぐに僕を見つけてくれたが、それがなければ通り過ぎていく3万8000人から誰かを探すのは至難の業だと思う。
そんな中、僕を追いかけて何か所かで撮影してくれた友人(先輩の女性)が、何か真っ黒なカメラを構えていた。彼女は小さなミラーレスとライカを持っているが、そのどちらでもない。僕は真っ黒な某社のミラーレスかと思ったのだが、ゴール後に聞いたらなんとそれはPENTAX K-3 Mark III Jet Black Editionであった。
クラウドファンディングに申し込んだ話や入手した話を聞いていなかったし、何よりこれまでPENTAXと縁はなかったはずだが、入手した理由は「デジタル一眼レフを持ったことがなかったから」とのことだった。だったらノーマルモデルでいいような気がするのだが、最近はアウトドアブランドなども黒地に黒でロゴをプリントするのが流行りだったり、まあ惹かれる理由もわからなくはない。ただ操作部の文字やアイコンが見えにくいので、半年以上出番がなかったそうだ。カスタマイズしてしまえば元の文字やアイコンは関係ないのだから、指で覚えるくらいガンガン使ってください。
走ってくるランナーがわかるわからないは姿格好だけの問題じゃなくて、向かっていくほう(ランナー)と、向かってこられるほう(沿道の人々)の視界や視線の違いもあると思う。写真家もあるときは被写体へ向かっていき、またあるときは被写体が向かってくる。そこで写真に何か違いがあるのだろうか。マラソンを走った数日後、だいぶ人流が戻ってきた東京の町を撮っていて、ふとそんなことを思った。
そして春の訪れを告げるかのように、カスタムイメージ Special Editionの第4弾「春紅(HARUBENI)」が登場した。これで春夏秋冬が出揃ったことになる。「春紅」が対応するのはHD PENTAX-FA77mmF1.8 LimitedとHD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WRで、後者は僕の愛用レンズでもある。というか、あった。最近はどうしてもレンジが広くて明るい16-50mmを持ち出してしまう。でも「春紅」のためにしばらくこれ一本で撮り歩いたら、身体的にも精神的にも心地よかった。フルサイズ換算で30-60mmというレンジは、スナップにおけるおいしいところを凝縮したかのようだ。と、稀少な真っ黒バージョンを持っている前述の先輩にも強く訴えたい。
「春紅」もまた、今時期の空気を切り取るのにちょうどいい。青がわずかにくすみ、赤はくっきりと強めに再現される。桜の花びらをきれいに再現するためのチューニングらしいが、被写体を選ぶ「冬野(FUYUNO)」と違って、これはいろいろな表現に生かせると思う。カラーネガ(とくにコダック製フィルム)から濃いめにプリントしたような感じ、というのが僕の第一印象だ。
晴れた日に彩度を思いっきり下げ、少しハイキーでローコントラストにして、ホワイトバランスをちょっとだけ暖色方向へ振るとアメリカンニューカラーっぽい写真が撮れる気もする。気もする、と弱気なのは色の転び方がまだ明確につかめていないのと、アメリカンニューカラーとは色調だけの話ではないから。だけれども、“もののあはれ”を写し取ろうという「春紅」が、スティーブン・ショアやジョエル・マイヤーウィッツが写した70年代アメリカにつながるかもしれないというのも、いとおかし。カラーフィルムがアメリカンニューカラーを生んだように、「春紅」がジャパニーズニューカラーを生み出すかもしれない。
というわけで本来の「春紅」がどんな仕上がりかは>>「カスタムイメージ Special Edition」のページをご覧いただくとして、今回掲載した写真はカメラ内RAW現像でパラメーターを大きくいじっている。彩度-2〜-3を基本に、アメリカンニューカラーともまた違う方向にレタッチした。これがジャパニーズニューカラーです、と主張するほど僕も図々しくないつもりだが、もし他のレンズでも使えたら常用の設定にしたいくらいである。昔のゲームみたいに十字キーの「上上下下左右左右…」で制限解除、みたいな隠しコマンドはないのかなぁ。ないか。