思わずメールの文面を3度見返した。度々講師を担当している「PENTAX散歩スペシャル」のことである。よりにもよって、真夏の熊谷に行くことになったのだった。いわずと知れた、かつて国内最高気温を記録した街である。
「困ったわねぇ」と K-3 Mark III Monochrome を我が家の小花さんへ向ける。レンズはおなじみの HD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited。もっと色々なレンズを試してみてもよいのだが、やはり K-3 Mark III Monochrome にはこのレンズがしっくりくるのだ。まるで触れられそうなほどその被毛の質感が再現されたモニターを眺めながら、こんな毛皮を着て熊谷に行ったら大変なことになるわね、と小花さんに同意を求める。
というわけで7月の熊谷である。さすがに湿度は高いものの、幸い気温は30度を少し超えるほど。熊谷観光局のサイトで見つけた散策コースを参考に、熊谷市内を巡ることにした。
まずは熊谷宿の総鎮守といわれているという髙城神社へ。熊谷を訪れるのは初であるが、翌週は江戸時代から続くという「熊谷うちわ祭」が開催されるとのことで、敷地内では地域の子供らが集まってお囃子の練習に余念がない。やはりかつての宿場町というのは良いものだ。街が近代化していっても、古くから親から子へ伝えられてきた街への愛が感じられるものである。鳥居の近くでは柘榴が実っていた。
暑いためか、まちなかを歩く人の姿はほとんど見当たらない。髙城神社近くの古社では古びたブランコが人待ち気に風だけを乗せて揺れていた。撮っていて気づいたことだが、K-3 Mark III Monochrome と HD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited の組み合わせではなぜだか縦位置で撮りたくなる。モノクロームの目を持つと、単に被写体にレンズを向けただけではまとまりにくい。「何を」「どこを見せたいか」という明確な意図を持って撮影することが重要になってくるのだろう。
レンガ造りの礼拝堂があるとのことで、熊谷聖パウロ教会へ向かった。堅牢な外観もさることながら、内部の教会ならではの光が美しく、モノクロームでの撮影にはうってつけの場所だ。K-3 Mark III Monochrome はとろけるような美しい階調が特徴だが、光を選ばないとやや単調な画になりがちなので、教会や和室など、光の入り口が限られる室内での使用すると、適度なコントラストがついて締まりのある写真になるのでおすすめだ。とはいえ、暗所も黒潰れすることなくきっちりデータが残っているのはさすがの解像性能である。
ガラス越しに障子あかりを撮影してみる。楽しくなるほどによく写るので、自然と撮る枚数も増える。これは K-3 Mark III ゆずりのファインダー性能に因る部分も大いにあって、オートフォーカスが混乱しがちな場面であっても、クリアなファインダーのおかげでマニュアルフォーカスが全く苦ではないのだ。PENTAX機は基本的にAF駆動音がなかなか賑やかなので、静かな場所で撮影する際も積極的にマニュアルフォーカスを使用したい。
なお、今回の写真はすべて カスタムイメージの「ハード」を元に、コントラストなどを調整している。通常「ハード」というと階調がつぶれてしまうイメージがあるが、K-3 Mark III Monochrome ではそのようなことは全くなく、むしろ程よい強弱がついて好もしい画に仕上がってくれる。好みのモノクロームをカスタムできるのも K-3 Mark III Monochrome の楽しみのひとつ。モノクロームの撮影に慣れてきたら、ぜひ自分好みのモノクロームを追求してみてほしい。