話の流れで、というのはよくあることだ。
いつものように夫の話を軽く受け流していて、改めてカレンダーを確認したところ数日後に沼津へ行くことになっていた。「沼津へ行くのか」と聞いたところなぜか一人で行くらしい。そういえば一人旅へ行こうと思っているがどこがいいかという相談をされていた気がする。しかしなぜ私の予定のない日に限って一人旅へ出かける必要があるのか。話を聞いていなかった私に問題がある気がしないでもないが、ともかく沼津へはふたりで出かけることになった。近場であるというのもいいし、酒と肴、ついでに魚も美味しければ旅先には申し分ない。

あいにく台風が迫っているとのことだったので、ここは安心の防塵・防滴構造の K-3 Mark IIIだろう。
レンズは定番の smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited である。このところモノクローム機ばかり使用していたので、K-3 Mark IIIは久しぶりである。タイミングよくファームウェアが公開されたばかりだったので、早速新規追加されたカスタムイメージ「Gold」を使用してみることにした。そういえば Special Edition 以外のカスタムイメージ が追加されるのは久しぶりではないか。ちょうど去年の今頃、「九秋(KYUSHU)」のイメージを求めて大雪山まで向かったことを思い出す。あのときうっかり沢登りまですることになってしまい、そのとき痛めた右足の親指の爪がようやく復活しつつあるのが一年という時間の流れを感じさせる。

沼津へ降り立つのは初である。南口へ降りて商店街をさっそく撮り歩く。「Gold」のノスタルジックな雰囲気が沼津の街並みとよく似合う。夏の終わりという時期的なものもあるのかもしれないが、この独特の色味はちょっとクセになる。なんといってもこのカスタムイメージの特徴はシャドー部の青味だろう。ともすればくどくなりがちな暖色系のトーンを、あえてのすっきりとした青味が静岡の名酒「臥龍梅」を思わせる。

案の定夜は飲み過ぎてしまったので、翌朝はのんびりと起き出して沼津港へ向かう。昨日静岡沖にいた台風はようやく上陸を果たしたと思ったら熱帯低気圧に変わったらしく、空は重い雲に覆われている。
港を散策していると大きな鳥が積まれたパレットの上に置物のように収まっていた。鳥には詳しくないが、おそらくアオサギだろう。カメラを向けても落ち着いたもので、このあたりの主かもしれない、と思いつつ数枚撮らせてもらう。
それにしても31mmという画角はフルサイズ機で使用するのはもちろん、APS-Cセンサーの K-3 Mark IIIとの相性はつくづく良いと感じる。画角が換算約47.5mmという標準域となるというのがひとつの理由ではあるが、PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited は三姉妹と呼ばれる43mmと77mmと比較してもとりわけ繊細な写りが特徴である。そのため、カスタムイメージで多少冒険したとしても上品さが損なわれることもなく、非常に扱いやすいのだ。

港ということで猫がいることを期待したが、鳥ばかり写り込んでくる。どちらも撮影するには好きな被写体ではあるが、我が家の小花さん(猫)のやわらかな毛並みの感触が恋しくなってくる。そろそろ帰ろうか、と思った頃に巨大な建造物が視界に入る。なにやら展望施設を備えた水門とのこと。ここは好奇心が優って帰り際に立ち寄ることにした。

当然のように富士山は裾野の一部しか見えなかったが、台風の名残りの厚い雲と鈍色に光る海面は思いのほか美しい。かわいらしい灯台ながら、こんな天気のときはきっと頼もしい存在なのだろう。そんなことを思っていると次第に灯台ですら小花さんに見えてくる。残念ながらお土産に金目鯛こそ買えなかったものの、途中で鰹なら手に入るだろう。ちなみに刺身を撮る際は「Gold」以外のほうがよさそうだ。