暑かった夏が終わった…はずだが、9月に入ってもなんだかまだ暑い。そんなこの夏、うちの隣町では、江戸三大祭のひとつ、深川祭の本祭が行われた。本祭は3年に1度だが、前回の2020年はコロナ禍で中止になったので実に6年ぶりとなる。それだけに担ぎ手の熱気は並々ならぬものがあった。金曜土曜とそれぞれ地元を練り歩いた御神輿は、日曜日に富岡八幡宮へ集結。全53基が長い列となり、氏子地域(の一部)をぐるっと一周。これだけで8kmあるが、その後地元で夜まで練り歩く町会も多いので、その距離は1日で10km以上ということになる。なかなかのマラソン渡御だ。
祭の期間中は僕もお盆で久しぶりに完全オフ。しかも妻と子供は帰省中だった。そんなタイミングでリコーイメージングさんからHD PENTAX-FA 50mmF1.4をお借りしていたので、K-1 Mark IIに装着して3日間、御神輿を追いかけた。
深川祭は別名“水かけ祭”。御神輿に沿道から大量の水を掛ける。バケツやたらいはもちろん、ホースで直接掛けられたり、はたまたガソリンスタンドや消防団・消防署からの放水もある。過去にも何度か撮影に出掛けたことはあるのだが、近くに引っ越して初の本祭。本格的に追いかけてみて、容赦のない水責めに驚いた。機敏な動作には自信があるので、僕はほんの少し飛沫がかかる程度だったが、途中でお会いした当地出身の写真家・大西みつぐさんは「久しぶりだから勘が鈍って、もろに水被っちゃったよ」と苦笑いをされていた。
こうした機動力が求められる現場では、ズームレンズを選ぶのも一理あるが、一本で寄りも引きも撮れる単焦点の標準レンズというのも相性がいい。ペンタックスの50mmF1.4といえば、僕は一番古い初代スーパータクマー50mmF1.4(いわゆる8枚玉)と、最新設計のHD PENTAX-D FA ★ 50mmF1.4 SDW AWを持っている。生まれた時期も写りもまるで違う2本だが、HD PENTAX-FA 50mmF1.4は前者に近く、絞り開放での描写はまるでオールドレンズ。ただしHDコーティングが施されているので、ボケや柔らかさが生きてくる逆光時でも的確に像を結んでくれる。これが初代スーパータクマー50mmF1.4になると、マニュアルフォーカスでピントを追いながらゴーストやフレアまで取り込むことになり、ポートレートならともかく祭を撮るのは難しい。ありがとうオートフォーカス。
ただし威勢のいい夏祭りを表現するには、いささか柔らかすぎる。この連載は基本撮ってだしのJPEGを掲載しているのだが、そんな理由で今回はRAWをAdobe Lightroom Classicで現像した。とくに水飛沫はRAW現像時にハイライトや明瞭度を調整することで印象が変わる。
そんな想像以上にオールドレンズ然としたHD PENTAX-FA 50mmF1.4の写りを見ると、同時に発売されたsmc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classicも気になるのがペンタキシアンの性(さが)。というわけでワガママを言って、その後こちらもお借りしてみた。ここからの写真はClassicで撮影した、JPEG撮ってだしだ。
Classicの写りはさらにオールドレンズ然としていて、ファインダーを覗いているとまるで初代スーパータクマーを着けているような感覚がある。HDとClassicは光学系が同じって本当なのだろうか(本当だと思うけど)。さらにド逆光+絞り開放で撮ると、初代スーパータクマーにはない虹色フレアが発生する。
僕自身は虹色フレアが効果として欲しいとか、何かの場面で役立つとは思わないが、いざというときの飛び道具として持っておくのはアリかもしれない。というわけで買うならHD PENTAX-FA 50mmF1.4だと思っていたが、smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classicの方が気になり始めた。これは危険な兆候である。気になったカメラやレンズは、大抵1か月もするとなぜか手元にあるのだ。
そんな原稿を書きながら思ったのだが、K-3 Mark III MonochromeにClassicを着けてポートレートを撮ったら、かなりいいんじゃないかと思う。あと絞りリングも備えているので、マウントアダプターでミラーレスに装着するのもアリだな…なんてことは公式サイトの連載じゃ書けないか。と思ったら、PENTAXストア楽天市場店ではマウントアダプターとのセットが販売されているのであった。