この記事を書くにあたり、まず令和6年能登半島地震で被災されたすべての方々へ心よりお見舞いを申し上げます。一日も早く現地の皆様が元のように生活できるようになることを願って止みません。
大変な時期にこのような記事を公開することに迷いもありましたが、今回はじめて訪れた金沢にすっかり魅せられ、今ではなくてもこの記事をご覧いただいた方が(ほんの少しでも)実際に足を運ぶきっかけとなって、何らかの形で復旧の手助けになればと思い、この度の記事を執筆いたしました。(大門 美奈)
前日の酒が完全に残っている。予定では今日は早朝から撮影に出かけようと思っていたのだが、結局宿のチェックアウト時刻ぎりぎりまでベッドで粘っていた。このまま帰りの新幹線に乗ってしまおうかという考えも頭をよぎったが、金沢へ来ておいて兼六園を見ずに帰れないだろう。酒を抜くためにひとまず宿近くのラーメン屋へ寄ることにした。深酒した翌日のラーメンは過剰なカロリー摂取ではなくアルコールデトックスなのだ。
いまさら私がいうまでもないが、金沢は美食の街である。越前ガニの美味しさは言わずもがな、その後の甲羅焼き、さらに甲羅酒はあらゆる海から旨味という旨味が集結したような味わいに大袈裟ではなく身悶えした。二日酔いになるもの致し方ない。
前日の余韻を味わいつつカウンターで呪文のように長いネーミングのメニューを読み上げると、やってきたラーメンは濃厚ながらしつこさはなく、するすると胃におさまってゆく。金沢はラーメンまで美味なのだ。
ということですっかり遅くなってしまったが、なんとか兼六園まで歩きついた。前日も来るはずだったが、結構な雨のため武家屋敷跡に建つ家屋内で撮影することにした。雨音の響く日本家屋というのはなんとも風流なものである。
PENTAX K-3 Mark III Monochrome は防塵・防滴構造を採用しているが、今回持参した smc PENTAX-D FA MACRO 50mmF2.8 は非採用のため、小雨ならともかく、強い雨の降る日には避けたほうがよいだろう。冬の北陸は日照時間が少なく降水量が多いと分かっていたものの、smc PENTAX-D FA MACRO 50mmF2.8 は以前からそのやわらかくニュートラルな描写が気になっていたことと、私が敬愛する写真家も使用していることを最近知ったこともあり、一度試してみたかったのだ。
真弓坂口から入園し、目の前に広がる瓢池(ひさごいけ)を早速写す。風もなく、水面に映る木々が美しい。金沢へ行くことが決まった昨年のうちは雪をまとった兼六園を期待していたが、今の状況では暖冬であるというのは幸いである。
霞ヶ池を目指して坂をのぼってゆく。そうだ、日本庭園というのは結構な起伏があるものだったな、と学生時代学んだ記憶がぼんやりと蘇ってきたが、二日酔いにこの坂道はなかなか辛い。ふらつく足元を見ると名残りの紅葉。前の週に降った雪が溶けてそのまま通路に張り付いたようだが、 このような場面でも平面的にならず、しっかりと立体感を描き出してくれるのは、モノクローム専用センサーならではの解像力のためだろう。
smc PENTAX-D FA MACRO 50mmF2.8 もしばらく使用している間にすっかり気に入ってしまった。すっと写真に入り込める素直なボケに忠実な描写、寄りたい時にレンズを交換する必要もなく、しかも軽量コンパクト。フルサイズ換算で約75mm相当というのも今回のような場面には非常に使いやすい画角である。
今回はカスタムイメージをハードに設定し、キーやコントラスト、またシャープネスをそれぞれ弱めに設定している。私の場合、上記に加えてデジタルフィルターでシェーディングを加えるのが好みだ。カスタムイメージやデジタルフィルターを調整することにより、より自分好みのモノクローム表現に近づけることができるので、ぜひ色々試してみてほしい。
園内ではちらほらと梅も咲き始めていた。山茶花はすでに散りはじめのようだが、布団のようにあたたかく地面を覆った苔の上に散る花びらのコントラストも美しい。2月になって、寒さはもう一段階増すかもしれないが、間もなく鮮やかな椿の蕾も開き、花が落ちる頃には園内の各所に植えられた桜がいっせいに花開くのだろう。早くこの地に春が訪れることを願って蓮池門を後にした。