PENTAX K-3 Mark III Monochromeを使い始めて1年が経った。最初の頃はある種の懐かしさと物珍しさで毎日持ち歩いていたが、気がつくとこの連載のためだけに時々引っ張り出すカメラになってしまった。フィルム時代はモノクロとカラーで撮影後のプロセスが違い、モノクロは自分で現像・プリントすることでトーンを操ることができた。一方カラーは暗室作業へのハードルが高く、いじれるのも色調だけだった。
それがデジタルではカラーでも自由自在に仕上がりをコントロールできる。それにカラーで撮ってもモノクロへ変換することができる(フィルムではこれもまたややこしかった)。もちろんK-3 Mark III Monochromeには、カラーのモノクロ変換とはまったく次元の違う仕上がりが得られる…っていうけど、それって本当? というのが今回のお題。
僕がK-3 Mark III Monochromeにいまひとつのめりこめないのは、理想とするトーンが得られないことだった。その理由は感色性だ。フィルムもセンサーも、モノクロ専用であればすべての色を濃淡に置き換える。すると濃い赤と薄い青が、似たような濃度で再現されるということが起こる。数値的にはおそらくそれが正しいのだが、結果としてメリハリのない写真に見えてしまうのだ。
というわけで試したのがモノクロ専用フィルターだ。かつてモノクロフィルムが当たり前だった時代は、レンズにイエローやオレンジのフィルターを装着している人が珍しくなかった。僕も高校生の頃から愛用していたが、フィルターと同系色は明るく、対になる補色は暗く写る。これらのフィルターはたいてい黄~赤系なので、人の肌は明るく、青空は暗く写る。人間がイメージする濃淡に近くなるというわけだ。
〔スライダーを操作すると表示が切り替わります〕
青空を背景に、黄色い橋塔が立つ風景。左がO(オレンジ)フィルターを装着、右はフィルターなし。濃淡がだいぶ違うのがわかる。
某量販店で購入したのはイエロー(効果弱)とオレンジ(効果中)の2種類。K-3 Mark III Monochromeを購入したときにも買うつもりだったが、モノクロ専用フィルターはすでにレアアイテムで、見つけた在庫はとんでもない価格。それがいつの間にかカタログ落ちしていた某社製は在庫処分的価格まで下がっており、16-50mmF2.8に合わせて77mmを選んだら、2枚で3000円ほどだった。
フィルターを装着するうえでのネックは、ファインダー像が黄色やオレンジに染まることだ。思えばモノクロフィルムで作品を撮っていた頃は、早々に一眼レフを卒業。レンジファインダーのカメラを使っていたので、撮影時に不便を感じることはほとんどなかった。またデジカメのモノクロモードにもフィルター効果は機能として含まれているが、センサーからの色情報を「青は濃いめ、赤は明るめ」といったふうに加減するだけなので、ファインダー像は変わらない。
だったらノーマルのK-3 Mark IIIでモノクロに設定するほうが楽じゃねえか、という話になってしまうのだが、今回フィルターを装着して鹿野は思いました。やっぱりK-3 Mark III Monochromeすげえ! フィルターを装着することでコントラストが上がり、結果としてK-3 Mark III Monochromeの階調性やシャープネスが際立ったのである。というわけで今回掲載している写真は、比較作例以外はすべてフィルター(主にオレンジ)を装着して撮影したものだ。
ちなみにファインダー像の色は当初こそ気になったものの、1週間もすると慣れてしまった。むしろ色彩感覚が強制的になくなるので、モノクロ専用機としてはアリかもしれない。いや、理想をいえば黄色やオレンジに染まらずに見えるほうが便利だけど、未装着との仕上がりの差は歴然。これで連載専用機と化していたK-3 Mark III Monochromeをようやく使い倒せる気がしてきた。
そんな体験というか実験というか実写を繰り返した後、今年もゴールデンウィークはKYOTOGRAPHIEへ。そこで数々のモノクロ作品を拝見して、図らずもモノクロに対する考え方を深めることができた。その話は記事一本分を超えそうなので次回あらためて。