今年の夏は生まれ故郷の福岡へ帰省しました。カメラとパソコン、インターネットがあればどこでも仕事ができるので、いつも1ヶ月くらい滞在しています。2021年はK-1 Mark IIとHD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRを手に、>>リミテッドレンズのスペシャルサイト「Evidence」のための撮影に毎日出かけました。コロナ渦でマスクを着用し、熱中症に注意しながら作例写真に最適な被写体やシーンを探し求めたものです。今年はPENTAX K-3 Mark III MonochromeとHD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WRと一緒に帰省し、そのときとは違った視点で出かける場所を選ぶことにしました。
雑誌や広告などカメラ関係の仕事で作例写真を担当することがあります。私には得意な撮影ジャンルが特にこれといってないので、スナップ系のリクエストが多いです。基本的には何を撮っても良いわけですが、どんなに手応えのある写真でも、被写体が不適切であるなどの理由で使われないこともあります。
カメラ雑誌の作例写真の場合、実際に掲載される点数の多いときで10倍くらいを候補として編集者に渡します。掲載する写真を決めるときの基準はいろいろで、候補はできるだけ多めのほうが製品の特徴をカバーしやすいし、ページも組みやすいと考えるからです。でもこれはマイルールで、ほかの人より多いのか少ないのかは知りません。
写真のセレクトについて、最終的には編集者の判断に委ねるわけですが、お気に入りの写真が外されたり、数合わせでとりあえず候補に入れておいた写真がメインで使われることもあります。これは作例写真に限らずフォトグラファーとして仕事をしていてよくあることなのですが、若いころはよくそれで編集者とぶつかりました。でも今は基本的に全て受け入れるようにしています。写真展や写真集なども共同作業で準備を進めることが多く、他人の意見を柔軟に聞き入れることもプラスになると考えるからです。
ある編集者に「今後は下町スナップはいらない」と言われたことがあります。誌面のイメージや読者のニーズなどもあるのでしょう。編集方針が変わり、もっと都会的な、垢抜けて洗練された街スナップを撮ってほしいとのことでした。私は昭和レトロな光景や廃墟などに惹かれる傾向で、それらをフォトジェニックと感じるのですが、私事ではなく仕事の写真なので、行動エリアを切り替えて対応しています。ちなみに本連載は仕事ではあるのですが、読者に合わせて私事寄りの写真を撮るようにしています。
街スナップでは、例えば都会的なエリアでは建物など景色が整然としているため、情報量が少なめの写真が撮りやすいです。ところが庶民的なエリアは生活感があり、物や色があふれていて情報量が多く、撮影するときにはその整理に気をつかいます。画角を狭めたり、近づいたり、ボケを利用するなど「引き算」で写真に写し込む情報量をコントロールします。カラーでなくモノクロで撮るのも有効でしょう。色の情報がないぶんシンプルな画面構成になり、視線誘導なども効果的に行いやすくなります。庶民的なエリアでは、モノクロでしか撮れないPENTAX K-3 Mark III Monochromeがぴったりというわけです。
福岡に帰省したときは、いつも地元の友人の車でドライブに出かけています。今年3月に帰省したときは山口県下関市にある「唐戸レトロ」と、その対岸の「門司港レトロ」に行きました。撮影会などのイベントで日本全国を訪れたりしますが、現地での撮影場所を探すときは「昭和レトロ」でネット検索することが多いです。今回は大分県豊後高田市にある「昭和の町」という場所を見つけました。高速道路を利用し北九州経由で行ってみたのですが、昭和時代にタイムスリップしたような不思議なエリアで、子どものころに目にしたことのある懐かしい光景が広がっていました。想像以上に看板など文字が多く、賑やかな街並みが楽しめました。
晴れの日は色がしっかり出せる反面、陰影が付きすぎて被写体やシーンを観察しづらくなります。PENTAX K-3 Mark III Monochromeの光学ファインダーはその点では有利なのですが、カラーに限らずモノクロでも、日なたと日陰が混在する画面構成では露出判断や情報整理の難易度が高めの傾向です。私はモノクロでは曇りや雨の日に撮ることが多いのですが、夏らしさを表現するには日差しの感じを出した生かしたほうが良さそうです。でも輝度差が極端でダイナミックレンジに収めづらく、今回はライブビューでヒストグラムを確認しながら撮り進めました。カスタムイメージの「スタンダード」は高コントラストの画面構成でも余裕が感じられ、露出をコントロールしやすかったです。掲載画像はカメラ内RAW現像で仕上げていますが、大幅な調整なしで好みの調子にすることができました。
別の日には親戚の法事で大分県の玖珠町に行きました。少し時間があったので旧豊後森機関庫に立ち寄ってみました。転車台がある扇形の機関庫で、子どものころ大好きだった場所です。現在は公園として整備され、中に入ることができないのが残念ですが、廃墟と化した機関庫が良い味を醸し出していました。