息子の6歳の誕生日、大井川鐵道のSLトーマス号のチケットをプレゼントした。一時期配信でアニメ「きかんしゃトーマス」を見ていた時期があって、本物があるよといったら乗りたいという。かくして10月中旬、静岡父子旅へ。

しかし苦労してチケットを確保したSLトーマス号は、結論からいうと息子は鉄分が薄めなのであまり感動せず。動くSLを見るのは生まれて初めてだが、たしかに客車に乗ってしまえば総武線や横須賀線と同じ。走っているのを眺めるのがいいのかもしれぬ。

僕自身も大井川鐵道は初めてだったが、茶畑が広がる川根本町の風景がとてもよかった。その川根本町は、僕がライフワークにしている山梨県早川町と「日本で最も美しい村」連合の仲間で、直線距離が近いこともあって(といっても間に南アルプスの山々があるので、行き来するには静岡や清水をぐるっと回らなければならないけど)交流事業も盛ん。早川町は平地が少ないし、周囲の山も高いので風景は違うけれど、なんとなく共通するものも感じた。お茶を収穫する5月頃なら、もっと鮮やかで感動的なんだろうな。

その晩は沼津へ宿泊。友人の江本典隆さんがやっている書店「リバーブックス」へ。江本さんは出版社に勤めるかたわら写真を撮っていたが、あるとき故郷の沼津へ戻って、東京へ新幹線通勤する生活に。そして昨年(2023年)、締切前日に駅のポスターで知ったという、空き店舗の有効活用を募集する沼津市のコンペで最優秀賞に。そこからボロボロだった築70年以上の元クリーニング屋さんを、YouTubeを参考にしながらDIYで改装。2023年9月に金曜夜と週末だけ営業する「リバーブックス」を開店した。

そのお店を年末年始にも開けていることをSNSで確認していたので、山梨での撮影の帰りに寄ったのが今年の1月2日。あれから10か月ぶりに訪れると、そのときより書棚が増え、構想を伺っていたギャラリーも完成。そして江本さんは会社を辞め、正真正銘の書店主になっていた。

僕が書棚と向き合う間、息子は段差のある古い建物と、そこでニコニコ店番をしている江本さんが気に入ったようで、昼とは別人のように大はしゃぎ。おかげでゆっくり本を選べた。

僕は年間100冊の本を読むのが目標で、この原稿を書いている11月なかばで51冊目を読んでいる。つまり全然目標に届いていないのだが、言い訳をすると大作や長編をつい手に取ってしまうせいだ。ではどこで買うのかといえば、仕事で繁華街に行ったときに寄る大型書店もあるが、ネットで書評を見てAmazonで注文することが増えた。でも本当なら書棚でタイトルや装丁、文字組みも見ながら中身を想像するのが、読むことと同じくらい楽しい。というわけで前回も今回も、あれこれ悩んで何冊か購入した。江本さんは出版社で書店営業をしていたので、選書はもともと得意中の得意。話題の本や、僕も読んだことのある定番の本もあるが、一般的な新刊書店ではお目にかからなさそうな本も多い。

そもそも今はその新刊書店が激減。僕は東京の一応都心といえそうな場所に住んでいるが、徒歩圏内に新刊書店がない。本と出会うことが減ってしまう世界って、いったいどうなってしまうんだろう。江本さんに遊んでもらい、スキップしてホテルへ帰る息子を見て、ちょっと未来が心配になってしまった。

翌日は富士スピードウェイへ。いろいろお世話になっているマツダさんのファンフェスタに、昨年に続いて息子ともどもお招きいただいた。もともとマツダさんと僕を繋いでくれたのは、元リコーイメージングの“ミスターGR”こと野口智弘さん。当の野口さんはすっかりお忘れかもしれないけど、その節はありがとうございました。

いろいろなクラシック・マツダのデモランや草レースのほか、事前に申し込んだ人は自分の愛車で走ることができるこのイベント。車好きの息子もさぞかし喜ぶかと思いきや、彼は見るより乗る派。昨年は疲れた、もう帰りたいと連呼していたが、今年は抽選で参加できる子供メカニック体験に当たり、御満悦の一日だった。

そして来場者のほぼ全員がこれを拝みに来たといっても過言ではないのが、昨年のイベントでも激走したマツダ787B・55号車、通称“チャージマツダ”。1991年のル・マン24時間で日本車初の総合優勝を果たしたレジェンドである。当時高校生の僕は生中継でその瞬間を見ていたが、勝ちにいっていたトヨタや日産より先に、参加することに意義があります的なマツダが優勝したことに驚いた。もっともこの年のマツダは勝てる要素も重なり、かなり本気で勝ちにいっていた…というのを後年NHK「プロジェクトX」で知ったのだが。

動態保存されているその55号車を、今年も“ミスタール・マン”こと寺田陽次郎さんがドライブ。一般道路なら高齢運転者マークを付けなければならない寺田さん77歳、直線をアクセル全開。本来なら350km/hは出るマシンも、製造から30年以上経ち、年々本来の性能が出にくくなっているそう。この日も昨年よりちょっとスピード控えめかな…という気はしたが、それでも軽く250km/hは出ていたと思う。個人の感想ですが。

ピットウォールから、久しぶりに55-300mmで撮影。ピットウォールはさすがに近過ぎ、うまく流し撮りできたのはこの一枚だけ。しかもトリミングしております(汗)。

そんなこんなで盛りだくさんな静岡父子旅。しかし帰りに“さわやかハンバーグ”を食べて帰ろう…と息子と約束していたのだが、帰りに御殿場の店舗へ寄ると、整理券はあえなく配布終了。ハンバーグが大好物の息子は今も「さわやか食べたかったなぁ」とうるさく、父には課題が残されている。あちこち遊びに行けるのも来春小学校に上がるまでなので、まあ年末にリベンジかな。

 

■リバーブックスについて

https://www.instagram.com/riverbooks_numazu/
https://x.com/riverbooks_nmz

■写真展情報について

鹿野さんの作品展「この雨が地維より湧くとき」が2025年1月10日(金)〜1月23日(木)、ソニーイメージングギャラリー(東京都中央区銀座5-8-1 銀座プレイス6F・11〜19時・会期中無休・入場無料)で行われます。本文でも触れているライフワーク・山梨県早川町を題材にした展示だそうです。ぜひ足を運んでみてください。