カメラマンの仕事を始めてからというもの、年越しは山梨の身延山久遠寺で除夜の鐘から初日の出、初詣までを撮影するのが習わしだった。数えたら16年に及んでいた。久遠寺は年が変わる瞬間に除夜の鐘の第一鐘を撞くので、同業者の誰よりも遅く仕事納めをして、誰よりも早く仕事始めというわけである。それが2024~2025年、身延山ではなく隣の七面山で年越しを迎えることになった。山頂にある敬慎院は身延山久遠寺の“飛び地”で、実際に山自体は早川町にありながら、敬慎院だけは身延町身延というまさに飛び地。つまり同じところから仕事をいただいていることには変わりないのだが。

その七面山については、この連載でも>>第6回で紹介した。そこで敬慎院の境内にある一の池に触れたが、標高1700mに枯れない池があることがまさに奇跡。水があることで古来から行者が住み着き、霊山として今日まで多くの人を受け入れることができた。この一帯は七面山に限らず水に恵まれている。麓の早川町では集落ごとに水源があり、各家庭はそこから直接水を引いている。さらに湧水もあちこちにあり、水道水も十分良質なのに、煮炊きにはそちらを汲んで使うという家庭も多い。そして良質な水の影響なのか、早川町の人たちは老若男女みな肌つやがよい(※個人の感想です。でも本当ですよ)。良質な水が豊富なのは、雨が多いのとともに、土地のほとんどが森林であり、糸魚川静岡構造線上にあることも関係していると思う。木・土・岩は天然の浄水器なのだ。

早川町については町民800人以上を撮影し、2016年に写真集『日本一小さな町の写真館』をまとめた。その中にも水に関する話題がたくさんあり、もし次に早川町について作品をまとめるときは水を軸にしようと考えていた。というわけで2025年1月10日(金)~1月23日(木)、東京・銀座のソニーイメージングギャラリーで>>写真展『この雨が地維より湧くとき』を行います。早川町の水をめぐるストーリーです。ぜひお越しください。

とまあその展示の準備も、おおむねクリスマス頃にやっと片付いた。今回は会期が決まったのが昨年9月。その時点で重要な場面の撮影がほとんど終わっておらず、しかし12月あたまには作品が揃っていなければならない。10~11月はとにかく撮影優先で毎週のように現地へ通い、12月中頃までは展示に向けてのあれこれに忙殺された。そんなわけで何にも追われず、のんびり写真を撮るという行為がしばらくできなかったが、ひと段落してK-3 Mark IIIであれこれスナップしたのが今回掲載している写真。まあ一応連載を意識はしているから、100%のんびりというわけでもないのだが。

僕は今まで撮った写真の中から、あるテーマに沿ってセレクトして展示することもあるが、メーカーギャラリーのような規模も集客も大きな場所でやるときは、大抵伝えたい事象がある。それにはいくつかのビジュアルが必要になってくる(と自分では思っている)。象徴的なものだったり、イメージを喚起するものだったり、あるいは一見関連はないのだけれど全体を考えたときに隠し味になるものだったり…。今度の写真展では約2か月間でそれを撮り下ろしたのだが、撮れるはずのものが撮れなくなり、どうすべきか考えていたら10年以上前にも撮っていたことを思い出したりもした。それを掘り返す過程で撮ったことを忘れていた写真を見つけ、日の目が当たることになったり、展示をつくる作業はクリエイティブの重なり合いだということを今回あらためて痛感した。

この連載を読んでくださっている方は、長短や濃淡こそあれど、ほとんどが写真を嗜んでおられると思う。思うがままにシャッターを切るのもよいけれど、自分はこれを人に伝えたいのだ、という軸がひとつあるといい。それだけでも写真は楽しくなるが、実際に人に伝えるまでに至ると、さらに深いところまで進むことができる。

自分が好きなものを他人に広めることを“推し”と表現されたりもするが、興味のない人や知らない人にそれを伝えるには、説明に何等かの工夫がいる。写真というのは雄弁でもあるけれど、実際に音が出るわけではないから、相手に聞こえるかどうかは作者次第。そのコツをつかむには、他人に写真を見せるより他ない。僕がルーニィ247ファインアーツさんでやっているワークショップでも、それを繰り返し説いている。

同居する家族がいる方なら、家の中に一点自分の写真を飾るのでもいいし、行きつけの喫茶店や飲み屋があるなら、そこに飾られてもらうのでもいい。この連載も実に足掛け5年になり、こんな話を前にも書いた気がしないでもないが、2025年は皆さんもたくさん写真を撮り、それを積極的に見せていく年になればいい。とmixi2の「I am PENTAXIAN コミュニティ」で初日の出の写真の数々を拝見して思い出した(僕も参加しています)。本年も、そして写真展もよろしくお願い申し上げます。