K-3 Mark III Monochrome を使用するのは前回が>>冬の金沢だったから約一年ぶりか。グレーのPENTAXロゴがクールな、小さいながらもいかつい印象のカメラ。今回は昨年購入したばかりの smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic を装着して銀座の街へ繰り出した。いちどこのレンズを K-3 Mark III Monochrome に付けて撮ってみたかったのだ。
まずは有楽町駅から日比谷公園へ向かう。早い午後の時間帯からスタートしたフォトウォークだが、日差しはすでに低く、冬というのはモノクロームでスナップするには絶好の季節であるといえる。K-3 Mark III Monochrome を使用する際は、基本的にカスタムイメージをハードに設定している。その上でさらに細かく調整できるのがこのカメラのニクいところ。ちなみに基本設定は以下。
カスタムイメージ:ハード
調色:0
キー:0
コントラスト:+2
コントラスト(明部):+2
コントラスト(暗部):-2
ファインシャープネス:0
上記に加え、さらにデジタルフィルターでシェーディングを加えるのがデフォルト。シェーディングタイプは基本的に「2」、また強度は「-3」をセレクトすることが多いが、カメラ内現像で変更することも。撮影後にPCで調整するのも楽しいけれど、せっかくのモノクローム専用機だもの。撮影したときの印象を大事にするのであれば、全てカメラ内で完結するのもこれまたいいではないか。写真というのは「これがベスト」と決めつけすぎず、柔軟に楽しむことこそ大切だと思っている。
このような被写体は絞り解放、さらに最短撮影距離で撮りたくなるもの。梅雨時期のこんもりと鮮やかな紫陽花もいいけれど、この時期の立ち枯れた様子も美しいもの。smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic 特有の、とろけるような描写がなんとも艶かしい。最短撮影距離が0.45mというのはわたしにとってはちょうど良く、このほどよい距離感が「間」や「風情」やらを生むのではないか。
現在は休館中の日比谷公会堂だが、東京都指定有形文化財だけあってその佇まいは見事。正面入り口付近は鳩の溜まり場になっているようで、玄関をバックにのんびり過ごす彼らを一枚。レンズの描写も相まって一瞬どの時代にいるのかわからなくなってしまいそうだ。なるほど、これが「往年の味わい」というものなのだろう。
冬の光はドラマティックなものの、その恩恵を味わえる時間はごくわずか。15時を過ぎるとすでに夕方の気配である。昨年出来たばかりだというブティックを見上げるとデザインコンシャスな窓越しにウェイターの姿。上階はバーカウンターでも併設されているのだろうか。柔らかく変化した光が名だたるブランドのビルを反射し、やや秘密めいた雰囲気を醸し出している。シャープなレンズはもちろん好きだが、この薄暗さを「きちんと」ぼんやり写し出してくれるのが smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic の魅力でもある。
さて、そろそろ喉が乾いてきたところで向かうはこのところたびたび利用している店。おまちかねのディナータイムということもあって、カメラからナイフとフォークに持ち帰ると楽しい会話も手伝ってひたすら飲み食いに集中してしまった。モノクローム専用機で食卓の何を撮るかと問われれば、それはスナップでもテーブルフォトでもなんら変わることなく、シンプルに光と影だろう。実用品であるカトラリーはその形状だけでも美しいが、やはりその姿が生きてくる場面は使われている場面。あさりの白ワイン蒸しのオイルをまとって光を反射しているなんてことのないシーンではあるものの、あらためて写真に撮るとなにか特別な光景のように思えてくる。
写真は特別なときだけに撮るものではなく、ごく日常のものとなって久しいが、そんな日常だからこそあえてファインダーを覗き、モノクロームしか撮ることのできない、あえて「不便」でメカメカしいカメラを持ち出してスナップするということは、ある意味非常に贅沢なことなのではないか、と、K-3 Mark III Monochrome を手にするたびに思う。モノクローム専用機だからといってなにも特別なシーンを狙う必要はなく、普段から目にしている、心惹かれる場面を撮るだけでいい。光と影だけで写し出された世界が、見慣れた日常を少し特別なものに変えてくれるはずだから。