前回、単体露出計でライティングを数値化し、頭の中で光と陰に変換していることに触れました。折れ線グラフを作成するような脳内イメージで光の変化をコントロールしていると伝えましたが、今になって思えばあれがトーンカーブだったのかもしれません。あるいはヒストグラムに相当するものだったかも。いや、もっと立体的なイメージです。

初めてパソコンを購入したのは23歳のときで、AppleのMacintoshでした。そのころのAdobe Photoshopは最初のバージョンだったと記憶しています。今から35年前のことで、調べてみるとAdobe Photoshop 1.0の発売が1990年なのできっとそうでしょう。すでにトーンカーブやレベル補正といった機能が搭載されていて、それらを実際に操作していたはずなのに、当時は知識や経験が乏しく、前述の脳内変換と結びつけることができていませんでした。

単体露出計で露出を測り、その情報をカメラやレンズに反映させるとき、撮影後の作業をどのように進めるかを考えます。助手時代はネガフィルムの濃度を少し乗せ気味にしたり、あるいは反対に浅めにするなど、状況に応じて露出をコントロールしていました。師匠は撮影に集中するため、その判断は一任されています。屋外撮影では左手にスポットメーター(反射光式の単体露出計)を握りしめ、右手は絞りリングに添えて光の変化に臨機応変に対応しながら手動で露出を調節していました。私自身が自動露出機構といった感じです。

ベストショットが少しでも露出アンダーや露出オーバーだと師匠に怒られました。ネガフィルムだから少々アバウトでも良いなどという甘えは許されず、ポジフィルム同様、シビアな露出判断が求められました。後処理でなんとかしようとするとクオリティーが低下するだけでなく、プリントが焼きづらくなるなど自分の仕事も大変になります。助手時代は少しでも仕事の精度を上げ、自分自身もレベルアップしようと気を引き締めて毎日頑張りました。言われていることが少しずつ分かるようになり、その延長線上に今の自分がいるわけです。デジタル全盛の現在も、露出やライティング、暗室作業など厳しく育てていただいたことをとても感謝しています。

2024年9月、5年半ぶりに海外へ行きました。コロナ前、2019年4月のベトナム・ハノイ以来の撮影旅行になります。私の写真の仕事を取り巻く状況がいろいろ変わり、もう海外へ行くことはないだろうと思っていました。コロナが明けて友人知人たちが少しずつ海外ロケを再開し、同時に円安、現地の物価高や治安悪化などの情報をたくさん耳にするようになり、仕事以外でも海外へ行くことに消極的になっていきました。30〜40歳代のころは作例撮影の仕事や作品制作のために、毎月のように海外へ行っていましたが、気持ち的にも、年齢的にも今後はもう日本国内で良いだろうと考えていたところでした。

コロナ禍を挟んで5年半ぶりの海外はノルウェーでした。いきなり北欧です。ノルウェーは15年ぶり2回目です。治安が良さそうな国を選んだわけですが、それでも不安でいっぱいでした。渡航や滞在の費用もすごく高くなっていて、コロナ前の2倍くらいに感じられました。オランダのアムステルダム経由でオーレスンという初めて訪れる街へ。空港でレンタカーを借り、約2週間のひとり旅です。左ハンドルの車を運転するのもひさしぶり。でも半日くらいで以前の感覚に戻りました。最初はあまり気乗りしなかった海外ロケでしたが、結果的には来て良かったです。少し気持ちが前向きになり、また少しずつ海外へ出たくなりました。今年も1月はベトナムのホーチミン、3月は香港と、それぞれ1週間ずつ旅をしました。いずれも作例写真のための撮影旅行ですが、旅の勘も着実に取り戻しつつあります。そうなれば次は作品制作。もちろん費用は全て自己負担となりますが、そのぶん自由です。作例撮影のときとは違い、いろいろな制約から解放されます。

これまでのモノクロ作品は全てフィルムカメラで撮影していましたが、今度はデジタルカメラでも撮ってみたくなりました。別にカラーで撮って、後からモノクロに変換するだけなのでは?と思われるかもしれませんが、それとこれとは全然別物です。もちろん自分の考え方をほかの誰かに押し付けるつもりはありませんが、私の場合、カラーとモノクロでは反応する被写体やシーン、選ぶ光、構図などが明らかに違います。ですから色を意識して撮ったカラー写真を後からモノクロ写真にしようとは思わないし、フィルム全盛の時代から自分がずっとやってきたものとは違う気がするのです。

PENTAX K-3 Mark III Monochromeのカメラ内RAW現像にもけっこう慣れてきて、試行錯誤の回数が減りました。一発で思い通りの調子に仕上げられることもあります。このカメラでどのように撮れば、どのように仕上げられるのかなど、点と点が着実に線で繋がりつつあるようです。ここでは毎回その成果?をみなさんにご覧いただいているわけですが、最後はどのようにプリントに落とし込むかといった課題がまだ残っています。今はまだ自信がありませんが、このカメラを持って海外へ作品撮影に出かける日もそう遠くない気がします。

現像後はカメラの画像再生で調子などを確認するのですが、そのときにヒストグラムや白飛び警告表示なども参考にします。今回はいろいろやっていて、カメラ内RAW現像でもヒストグラムや白飛び警告表示ができると試行錯誤がさらに減らせるのにと思いました。それなら最初からパソコンのRAW現像ソフトを使えば?と言われそうですが、PENTAXのカメラ内RAW現像は機能がとても充実しているので、もっと使いやすくなるとうれしいです。