近年は、梅雨明け直後から9月中旬くらいまで猛暑の日々が続きます。その間、撮影に出かけることはありますが、暑すぎるため行動や判断が鈍くなりがちで、撮れ高は低めの傾向です。熱中症になりかけたことも何度かあります。仕事の撮影では、強行しないと締切に間に合わないため多少無理をすることがありますが、私事の撮影のほうは完全休養です。コロナ前は日本の暑い夏を避け、作品制作のためにアイルランドやスコットランドなど涼しい地域をよく訪れていたのですが、飛行機代や宿泊代が高騰し、現地の物価高などに加えて円安のダブルパンチ。作品制作のための費用は全額自費なので、今より稼ぎが増えないことには海外での作品制作は再開できそうにありません。現在は日本国内で、できるだけ過ごしやすい時期に集中して撮り進めるようにしています。夏場の過ごし方はコロナ渦同様に室内で、これまで撮影した写真を見返したり、ステートメントを書いたり、プリントする時間に充てるのが定着しつつあります。それらは写真活動において撮影と同じくらい、あるいはそれ以上に大切なことなので、暑中はそのような時間が持てて好都合とプラスにとらえています。

もうすぐ梅雨入りです。もちろん毎日雨が降り続くわけではありませんが、撮影に出かけるのが面倒に感じられる時期でもあります。そうなると夏の暑さが収まるまで4か月近く撮影に出かけられなくなりますが、私は雨や曇りといった天候を好むため、梅雨は絶好の撮影シーズンです。秋雨の季節も大好物です。作例写真は晴れているときに撮ることが多いのですが、作品写真は雨が降っていても問題なし。作品のテーマやコンセプトによっては晴れていると困ることもあります。前述のアイルランドやスコットランドは雨が多いため好都合。そのような天候をあえて選んで撮っています。雨が降ると憂鬱になるのではなく、むしろ高揚するのです。写真の色は控えめになりますが、水を含んだ景色は表情豊かに見えます。曇りのときと同じく拡散された柔らかい光ですが、雨で濡れて立体的な描写になり、モノクロームで撮るのにもぴったりの条件と言えるでしょう。

2025年の5月のある日、朝から晩まで雨の予報だったので、レインブーツを履いて出かけました。傘を左手に持つため、カメラは右手だけで操作することになります。ズーム操作はやりづらいので単焦点レンズを選びました。超広角レンズは苦手意識があるのですが、K-3 Mark III Monochromeに装着すると32mm相当と、得意な画角になるHD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRです。雨に気を取られて注意力が低下しやすいので、カメラ操作はできるだけシンプルにして被写体に集中します。絞りは開放のF2.4に固定。ISO感度はオートに設定したのですが、粒状感を統一するためにISO 3200くらいに固定すれば良かったと、写真のセレクトで撮影情報を確認しているときに思いました。K-3 Mark III Monochromeは高感度、さらには超高感度でもきめ細かい粒状感であるため、そういう思い切った判断ができます。[高感度ノイズ低減]は[オフ]に設定しています。

カスタムイメージはいつものように[スタンダード]で、ダイナミックレンジにうまく収まるように露出や構図を決めて撮影しています。最終的にはカメラ内RAW現像で仕上げるのですが、今回は全て[ハード]に変更し、必要に応じて[増減感]で明るさを微調整しました。「画質に影響するよ」と教えてくれるこのパラメーター名は好きです。フィルム写真の経験者はそのあたりに神経質で、あまり手を入れたくない言葉の響きでしょう。パラメーター名が「明るさ調整」だと安易に触りがちで、また「露出補正」という呼び方は正確には間違っていると思います。±1.0とリミッターが効いているのも、際限なく調整ができてしまうRAW現像ソフトとは違って有効です。上げすぎたり下げすぎたりしないよう慎重になるため、必然的に撮影の精度が上がります。

ちょうど梅雨の時期に、カラー作品による写真展をひさしぶりに開催します。東京・目黒にあるギャラリー(https://www.jamphotogallery.com)で展示、販売するのはプロラボの職人によるアナログプリントです。SNSなどインターネットで目に留まる作風ではありませんが、あっという間に流れ消えていってしまう世界に大切な時間をつぎ込みたくないのが正直なところ。わざわざ足を運んでもらうのは心苦しいのですが、じっくり見て感じてほしいからプリントにこだわっています。K-3 Mark III Monochromeの魅力を一番実感できるのもプリントだと思います。プリント表現に対する懐がとても深い印象で、モノクロ画質の良さが最大限に発揮されます。

その使いこなしは簡単ではありませんが、誰でも簡単にできるのはつまらないし、なかなかうまく撮れない、思うような仕上がりにならないからこそ面白いのです。トライアンドエラーを繰り返しながら少しずつ前進していく写真が自分らしくて心地良くもあります。露出、ピント、構図……撮影の精度はまだまだ上げられるはず。写真を始めた子どものころからずっと、失敗してばかりの自分にそのような課題を課してきました。デジタルカメラが主流になった今、便利で簡単になったように思えて、でも実はこれまで以上に撮影の精度を高めなければと感じています。RAW現像ソフトであれこれ際限なくできる時代ですが、後処理との連携をしっかり考えて組み立てていかないと、これまでこだわってきたことが全てアバウトになってしまう。さらに気を引き締めなければと思っています。