こんにちは。久々のラリーです。
現在のデジタル一眼レフでも採用されているKマウント。その誕生は1975年6月に発売されたアサヒペンタックスKM、KX、K2の発売までさかのぼり、今年でなんと半世紀!50周年を迎えます。カメラボディがオートフォーカスやデジタルに移行しても、ベースとなるKマウント自体は変更することなく、現行のデジタル一眼レフカメラにもKマウントであればアダプター無しで装着できることから、ちまたでは“鬼の互換性”と評されることもあるKマウント。今回は誕生50周年記念の特別企画としてKマウント誕生の歴史を、2回目以降は21年ぶりに発売したPENTAX 17に継承された職人の技術などをご紹介していく豆知識ヒストリーをお伝えしたいと思います。

実はペンタックス最初のバヨネットマウントでは無かったKマウント

35ミリ判のペンタックス一眼レフのレンズマウントといえば、国産初の35ミリ一眼レフカメラとして国立博物館の「未来技術遺産」にも登録された「アサヒフレックス I型」のM37スクリューマウントにはじまり、次に現在も愛用者の多いアサヒペンタックス スポットマチック(通称SP)などで採用していたM42スクリューマウント、そして3番目に登場したのがバヨネット式のKマウントと記憶されている方も多いと思います。ところが、実際にKマウントが誕生するまでには、何度も何度も試行錯誤が繰り返され、やっとの思いで発売に至った過去がありました。そこには技術的な問題はもちろんですが、営業的な判断なども複雑に絡み合っていたようで、歴史資料をひも解いてみると、Kシリーズ発売のはるか以前から企画されていたことがわかりました。今回はKマウント誕生までの道のりをご紹介しようと思います。

まず最初にそれまでのねじ込み式スクリューマウントから内爪式で定位置に簡単に装着できるバヨネットタイプへのマウント変更が検討されたのはKマウント誕生の20年も前、1955年にペンタプリズムを搭載したアサヒペンタックス(通称AP)の企画が始まったときでした。その時は新規マウントとして海外で広く普及しつつあったM42スクリューマウントを採用し、1957年にアサヒペンタックスとして発売されたのです。次にバヨネットマウントの採用が企画されたのは1960年、ドイツで開催されたフォトキナでの参考出品でした。その時に参考出品された製品こそが後のスポットマチック(通称SP)だったのですが、当時革新的な技術として注目を集めたTTL測光方式の内蔵露出計と並んで、実はバヨネットタイプの新マウントが採用されていたのです。

フォトキナに参考展示されたバヨネットマウントのSPOTMATIC試作機
※当初の名前はSPOT-EYEでしたが、フォトキナ出品数日前にSPOTMATICに変更されたため、銘板が後から上に貼り付けられています

SPの発売にあたり、最終的には当時のアサヒペンタックスS2などで採用していたM42スクリューマウントに落ち着いたわけですが、カメラ本体と交換レンズとの機械的、電気的な信号のやり取りやレンズ着脱の操作性など将来的なカメラの発展を考えて新マウントの採用が検討されていたようです。
そして次にマウントの変更が計画されたのが6年後の1966年のフォトキナで、いよいよ自動露出の実現に向けて製品開発が進められていたときでした。その時にプロトタイプとして出品されたのがシャッター速度優先自動露出のアサヒペンタックス・メモリカ、絞り優先自動露出のアサヒペンタックス・メタリカでした。

アサヒペンタックス・メモリカ

アサヒペンタックス・メタリカ

自動露出を実現するためには、レンズ側の絞りをカメラ側で正確に制御できないと、シャッター速度優先AEの実現が極めて困難になることは、当時の他社の動向を見ても明らかでしたが、ここではSPが1964年の発売以来、大ヒット商品としてM42スクリューマウントレンズと共に売れまくっていたという営業的な事情もあり、またもやスクリューマウントからバヨネットマウントへの変更は見送られてしまいます。結局、1971年にスクリューマウントのまま絞り優先自動露出を実現したアサヒペンタックスESが世界で最初のTTL測光自動露出制御一眼レフとして発売されるわけですが、もはやM42スクリューマウントで製品開発を続けることは、ほぼ限界の域に達していたと思われます。
そして1975年、遂にKシリーズ用の新マウントとしてKマウントが誕生したのです。口径45mm、3本爪のKマウントは、仕様だけ見るとごく普通のバヨネットマウントと思われるかもしれません。当初の企画段階からなんと20年もの月日が流れていたわけですが、初期の段階であっさりバヨネット化されていたら、実はもう一度マウント変更をする必要性に迫られていたかもしれません。実現するまでに時間がかかった結果、その後のオートフォーカスへの対応など、将来的なカメラの発展を見据えたマウントとして考え抜かれて設計されたおかげで、今なお現役で活躍するKマウントが誕生したのではないだろうかと勝手に思いを巡らせています。最後になりましたが、Kマウント50周年、おめでとう!そしてずっとご愛用いただいているユーザーの皆さん、本当にありがとうございます。ではまた次回!ラリーでした。

PENNTAX K-1 Mark IIとPENTAX LX(あえて白黒写真)、マウント自体は同じですが、色々と変更されていることがおわかりでしょうか?