春頃から小1の息子と近場の山を一緒に登ろうと考えていた。昨年は鋸山を登り下りともロープウェイを使わず完歩。これなら今年は僕のライフワークである七面山に連れていけると思い、その予行演習をしたかったのだが。小学校に入学するとあれこれ忙しく、気がついたら夏が近付いていた。
これ以上暑くなったら登れないなぁ…と思った梅雨入り直後の土曜。翌日の天気予報をみると、高尾山や丹沢は雨だが、筑波は雨のち晴れ。これは行けると思い、翌朝、妻が作ってくれた弁当を持って筑波山に向かった。
ところが雨雲が流れ去るのが少々遅く、登りはずっと霧雨。女体山の「おたつ石コース」を登ったのだが、思っていた以上に急峻な岩場が続き、息子は途中から「もう疲れた」「まだ着かない」「いつ着くの?」とグズり始めたが、「パパも遠足で登ったんだぞ」と励まし続けた。
コースタイムの1.5倍ほどかけて頂上に辿り着くと、ガスって視界はゼロ。息子は100円玉で動く望遠鏡を「見たい見たい」とグズっていたのだが、これは100円払っても白一色しか見えないぞ。
しかし頑張ったご褒美か、弁当を食べ終わると一瞬だけ霧が晴れた。あいにく麓は雲に包まれて、本来の雄大な景色は見られなかったけど、雲の上も悪くない。息子は初めて見る光景だ。
本当はその後、男体山までぐるっと回るつもりだったが息子ガス欠。早めにロープウェイで下りた。全面ガラス張りのゴンドラはずっと雲の中で、まさに宙を浮いているような感覚。息子はこれが一番楽しかったらしい。遠足で登ったんだぞと威張っていた僕も、よく考えたら往復このロープウェイだったことに気がついた。
登山口も相変わらず濃霧に包まれていたが、車で麓の筑波山神社へ下りると青空と強い日差し。振り返ると筑波山は雲の中。そして息子は夢の中。今度は晴れた日に来よう。
と、そんな山行きをK-3 Mark III Monochromeで撮った。まあ写真を撮りに行くのが目的でもないし、最近モノクロを撮ってないしなぁ…と、なんとなく引っ張り出してみたのだが。こういうスナップにはモノクロが合うかもしれない。
そういえば、僕がK-3 Mark III Monochromeを購入したきっかけは、発売直後の23年5月、東京都写真美術館で「深瀬昌久 1961-1991レトロスペクティブ」を見たことだった。大深瀬展ともいえる壮大な展示だったが、作品はすべてモノクロ。あらためてモノクロの懐の深さというか、表現の可能性をつきつけられた。とりわけ印象に残ったのが、展覧会のキービジュアルにも使われていた「洋子」。出勤する妻・洋子さんを、毎朝団地の4階の窓から望遠レンズで撮っていたシリーズだ。
ある朝、小学校に登校する息子を妻がベランダから見送っていた。そうだ、撮ってみよう。ほとんど使っていなかったHD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR REをこれまた防湿庫から引っ張り出し、K-3 Mark III Monochromeに着けて翌朝からしつこく撮り続けた。
7階なので望遠端での撮影だが、視力のいい息子は撮られているのを悟っており、タイミングが悪く撮れなかった日は帰宅すると「なんで今日は撮らなかったの?」。しかしほぼ毎日撮っていると、息子の着ている服がほとんど同じことに気付いた。実際にはいろいろ持っているのだが、朝になって本人が選ぶシャツがだいたい同じなのだ。帰っては洗うので、3日続けて同じシャツのときもあった。モノクロだとそのあたりがぼやけるのもおもしろい。
そして夏休みに入ったものの、息子は引き続き学童で学校に通っている。ランドセルがリュックになり、いささか登校感がなくなってしまったが、それが写るのもまた写真だなと思う夏である。
お知らせ
2025年9月26日(金)~30日(火)、東京・門前仲町にある「ギャラリーダイジロ」にて鹿野貴司さんと、PENTAXの商品企画・デザインを手がけたリコーイメージングOBであるTKOさんによる2人展「Connect」が行われます。鹿野さんはPENTAX 17などフィルムで撮り下ろした写真を、TKOさんはイラストレーションを出展するそうです。ギャラリーはさまざまなロケにも使われるレトロな横丁「辰巳新道」にあります。お越しの際はぜひカメラ片手に、とのことです。
〔ギャラリーダイジロ〕
東京都江東区門前仲町2-9-11
営業時間:11:00~18:00(最終日のみ~16時)
会期:2025年9月26日(金)~30日(火)
※会期中は無休・入場無料
https://www.gallerydaijiro.tokyo/