
はじめに
「PENTAX 17」を手にして街に出ると、忘れかけていた感覚が蘇ってきます。フィルムを巻き上げる心地よい感触、小気味よいシャッター音。次にどんな光景が待っているかという期待感。このカメラは私たちに「写真を撮ること」そのものの楽しさを改めて教えてくれる存在ですね。
さて、暑かった夏も終わり、日が短くなってきました。「暗いところで使うもの」と思われがちな内蔵フラッシュ。しかし、「PENTAX 17」のそれは、実は日中においてこそ、真価を発揮するクリエイティブなツールになることをご存知ですか?
今回はフィルムカメラの表現をさらに豊かにする「フラッシュ撮影」の魅力についてお話ししましょう。
日中シンクロが、フィルム写真を変える
日中シンクロとは、その名の通り明るい日中にフラッシュを同調(シンクロ)させて撮影するテクニックです。主な目的は逆光で被写体が暗く写ってしまう「露出アンダー」を防ぐことにあります。
例えば、晴れた日に人物を逆光で撮影するシーンを思い浮かべてみましょう。背景の青空を綺麗に写そうとすると、手前にいる人物の顔は暗い影に沈んでしまうでしょう。かといって人物の顔の明るさに合わせると、今度は背景が真っ白に飛んでしまいます。フィルムカメラでは、デジタルカメラのように撮影時のトーンコントロールができないので、撮る時に何とかする必要があるのです。
解決手段としてはレフ板を使用するなどがありますが、「PENTAX 17」には小粒ながら優秀なフラッシュが搭載されているのですよ!
そのフラッシュを強制的に発光させることで、背景の明るさはそのままに、手前の被写体にだけ光を補うことができます。これにより人物の表情は生き生きと、そして背景のディテールもしっかりと写し撮ることが可能になるのです。
なぜPENTAX 17は日中シンクロが得意なのか?
「でも日中にフラッシュを使うとシャッタースピードが制限されるのでは?」と、デジタル一眼カメラに詳しい方なら思うかもしれません。その通り、多くのデジタルカメラが採用するフォーカルプレーンシャッターは、高速なシャッタースピードではフラッシュを全速で同調させられないという制約があります(一部の機種はのぞく)。
しかし「PENTAX 17」が搭載しているのは「レンズシャッター」。この方式はシャッター羽根がレンズの絞りの近くにあり、シャッター速度に関わらず全速でフラッシュに同調できるという大きなメリットを持っています。つまり「PENTAX 17」は、晴天時の最高速シャッター(1/350秒)でも、絞り開放でも、いつでも気兼ねなくフラッシュを焚ける、日中シンクロの名手なのです。
実践!「PENTAX 17」で光を描く
使い方は驚くほど簡単。カメラ上部にあるモードダイヤルを、稲妻のマークがついた「P」に合わせるだけ。あとは、ゾーンフォーカスでピントを合わせ、シャッターを切ればいいだけです。夜間や室内など暗い場合は「低速シンクロ」モードがオススメです。
1. 逆光のポートレートをドラマチックに
逆光でモデルを撮る場合、フラッシュを焚けばご覧のとおり。表情もしっかりと浮かび上がり、背景も真っ白く飛ばず、服のディテールもよく分かります。生き生きと女性モデルが見えますよね?
2. 被写体を際立たせる魔法の光
日中シンクロは、被写体を背景からくっきりと浮かび上がらせる効果もあります。道端に咲く花、カフェのテーブルに置かれたコーヒーカップ。何気ない被写体に一歩近づき、フラッシュの光を当てることで、まるでスポットライトを浴びたかのように、その存在感を際立たせることができます。フラッシュの光が当たった部分と、自然光のままの背景との間に生まれる光のコントラストが、写真に立体感と奥行きを与えてくれるのです。
フィルムで撮るからこその味わい
PENTAX 17の日中シンクロは、デジタルでは得難い独特の質感を写真にもたらしてくれます。フィルムの粒子感と、フラッシュのシャープな光が混ざり合うことで生まれる、どこか懐かしくて、それでいて新しい表現になるのです。
ハーフサイズフォーマットだから、気軽にフラッシュの「あり/なし」を2コマ連続で撮り比べてみるのも面白いですよ。きっと、光を能動的に操ることの楽しさに気づくはずでしょう。どんどん撮影してみることをオススメします!
まとめ
PENTAX 17の内蔵フラッシュは、単なる補助光ではありません。それは、日中のありふれた光景を、自分だけの特別なシーンへと昇華させるための「魔法のスパイス」なのです。次の週末は、ぜひ太陽の下で、積極的にフラッシュを光らせてみてください。きっと、フィルム写真の新たな扉が開かれることでしょう。
モデル:吹