デジタルでの味わい

前回に引き続き、モノクロームの味わいの話です。デジタルカメラを使い始めた頃は味わいなど気にせず、モノクロで撮ることもなくカラーで撮影していました。そして、撮影後にすぐに画像が確認できる喜びや画像処理の変化を楽しんでいたのを覚えています。その喜びはミラーレスカメラを使って撮りながら仕上がりの画像が確認できることでさらに加速すると思っていましたが、モノクロ撮影をするようになると違和感の方が増えてきました。

ミラーレスカメラは撮影する前にその結果(露出)を確認できます。フィルム時代は自分の感覚を信じて、味わいのための露出で撮影していました。味わいのための露出というのはわかりづらい表現ですが、味わいに必要なトーンを得るためには撮影時の露出がとても重要になります。露出次第でどんな深みの黒を再現できるかはほぼ決まります。その露出はデジタル的な正解とは違う味わいのために必要な露出です。ところが結果を見ながら撮影しているとデジタル的な正解と味わいための露出との差で悩むことが多くなります。そんなときに出会ったのがペンタックスのカメラでした。そして、Limitedシリーズを使ったことがデジタルモノクロでも味わいを表現できると感じる転機になりました。

PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited 絞り F1.8 / 露出補正 -2.0EV
モノクロームの味わいを語る上で外せないのがこのFA77Limitedの存在。絞り開放でもシダの葉っぱの細かい再現が際立ち、背景の黒の深みも申し分なく、柔らかさを感じるトーンが好み

 

PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited 絞り F4.0(連道外の自動補正) / 露出補正 -0.3EV
弱い光の柔らかな中間トーンと締まりを感じる暗部のトーンの再現力が味わいの要

 

味わいに最適なペンタックスの一眼レフファインダー

ペンタックスのカメラを本格的に使い始めたのは K-S2 からでした。フラッグシップカメラじゃないの?そんなことを感じる方もいるかもしれないですが、もちろんメーカーがフラッグシップと謳うカメラの良さは十分に知っていますし、どうせ使うならそれが良いと思っています。それでも K-S2 のファインダーを覗いた瞬間にファインダーの中で味わいにつながるトーンを感じたのを覚えています。これはペンタックスのファインダーが少しザラつきを残してあって、目の前の風景の陰影の違い(光の差)がわかりやすいからです。多くのメーカーは明るく見栄えの良いファインダーを選んでいます。特にフラッグシップ機以外のカメラではその傾向が強く、その中であえて感性に訴えかけてくるファインダーがあることはとても嬉しく、それがフラッグシップとほぼ同じであることに驚きを隠せませんでした。

味わいに格別の信頼を寄せる FA77Limited

ペンタックスとの縁ができたことでフルサイズの K-1 を使う機会を得て、迷うことなく FA Limited の3本をチョイスしました。これが FA三姉妹 との出会いです。使ってみると「ヌルッと」とよく表現する優しいトーンを感じることができ、デジタルでモノクロをやるならこの子たちと一緒にという気持ちが芽生えました。それほどボクにとってこのレンズシリーズは特別な存在で、中でも FA77Limited には格別の信頼を寄せています。

PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited 絞り F1.8 / 露出補正 -0.7EV
風景のように細かい被写体が多い場合は少し絞り込んで細かい描写を再現するのがセオリーかもしれない。そんなセオリーをも覆い隠す力を持っているのがこの子の良さ。少し離れた距離がある条件でも絞り開放でピントを合わせたところの存在感はわかりやすくなっている

 

PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited 絞り F1.8 / 露出補正 -1.3EV
秋から冬の遮光線は自分なりの味わい見つけるのに最適な優しさを持っている。その優しさを柔らかく包み込みように受け止めてくれるのがこの子に対する信頼の高さに繋がっていて、smc時代の優しさの方がボクにはあっている

味わいに必要な空間は FA43Limited から学ぶ

FA77Limited の写真を見ていてもっと寄れよ。そんなことを感じたかもしれません。そんな空間を残しておくことがトーンの味わいを感じてもらうためには大切で、FA三姉妹をフルサイズカメラで使うことにこだわっているのも周辺描写まで含めて味わいだと考えているからです。ところがこの空間をあける構図はとても勇気がいります。大口径レンズの FA三姉妹 はそんな勇気の手助けをしてくれます。空間を開ける練習をするならアングル選びの結果で変化がわかりやすい FA43Limited がオススメです。

PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited 絞り F1.9 / 露出補正 -1.3EV
単純に空間を残しただけでは散漫に感じやすい。それでも空間をあける意識のために必要な捉え方

 

PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited 絞り F1.9 / 露出補正 -1.3EV
空間をあけてもボケの効果を使うと被写体を引き立たせることができる。開放絞りが明るいとそんなボケの効果が使いやすく空間をあける勇気の手助けになる

 

PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited 絞り F1.9 / 露出補正 -1.3EV
前ボケを使うとあけた空間を処理しやすい。後ボケだけでなく前ボケが素直なのも三姉妹の良さ

 

PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited 絞り F1.9 / 露出補正 -1.3EV
弱い光でもその違いを再現してくれる力は三姉妹に共通していて、その力は味わいの強い味方になる。FA43Limited だけHD化されたレンズなのは、そんな光への相性が上がったと感じて買い換えたから

 

PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited 絞り F1.9 / 露出補正 -0.3EV / 未調整
数値的に正解とされやすそうな露出

 

PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited 絞り F1.9 / 露出補正 -1.0EV / 未調整
ケイタの味わいのために必要な露出。露出を落とすことで光の印象を絞り込むことができ、暗部の深みが増す効果はあけた空間を引き締めてくれる

FA31Limited でバランスを鍛える

スポーツをやっていた経験があるので、バランスに重きを置く癖があります。筋肉ひとつをとってもつけすぎると動きが鈍くなってしまう。そんなことはよく言われます。写真も同じです。特に味わいにはバランスは不可欠で構図のバランスは〇〇構図という答えはありません。これは、そのときの光で味わいに必要なバランスが変わるからです。そんな光を感じながら撮影するためにもペンタックスの一眼レフファインダーはとても良い仕事をしてくれます。そして、構図のバランスを鍛えてくれるのが三姉妹の末っ子 FA31Limited です。広角レンズは構図のバランスを整えるのが難しい特徴があるので、それを使いこなしていけば自然とバランス感覚が鍛えられます。

PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited 絞り F1.8 / 露出補正 -0.7EV
smc時代のものを使っているのはもともと持っている切れ味で十分と感じたから。絞り開放で使ったときの周辺減光の効果も感じやすく、描写の強さもあるので引き締まった印象でバランスを整えやすい。傾けているのもバランス

 

PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited 絞り F1.8 / 露出補正 -1.3EV
なんでもないところに情緒が宿るのもバランスのおかげ。このときはアングルを目線より少しだけ下げて室内の奥行きを感じやすくした。モノクロの味わいだけでなく奥行きというバランスを意識すると情緒が上がる

 

PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited 絞り F2.0(連道外の自動補正) / 露出補正 -0.7EV
夕暮れの空に伸びる雲の迫力も魅力的だが、空全体を覆う優しい光の印象を強くしたいと感じたので、迫力など強い変化を感じないバランスを心がけた

まとめ

なんだかレンズ自慢のようになりました。FA三姉妹の話になるとついつい力が入ります。そして、モノクロの味わいは光の再現(トーン)で、三姉妹の特徴は光を透過する力になるレンズのヌケを重視していることです。素性の良い光を捉えて自分だけの味わいを探してください。

今回のあんこ

三日月堂花仙「鎌倉どら焼き」324円(税込)
FA43Limitedの撮影で伺った建長寺さんからの帰りに見つけた鎌倉どら焼きの文字に思わずお店に飛び込んでいました。一級和菓子職人が創り出す鎌倉どら焼きは、袋を開けるとぎっしり詰まったあんこが顔をだします。ひとくち頬張ると口の中に濃厚な甘さが広がり、後からしっとり焼き上げられた生地からの香ばしさがやってきて次のひと口につながる逸品でした。