近年、様々な地を移動することが増え、自分の知らない生活圏に身を置くことがしばしばある。見知らぬ地では誰にでも不安はつきものだ。たった一日でも、知らない人との出会い、自分の住む場所とは違う時間の流れ、見慣れない風景、人の営み。時に言葉の壁もあるだろう。そんな不安は常と割り切って、居心地の良さは自ら作ろうと決めている。
旅の写真といえば“どうしても観光写真になってしまう”と相談されることが多いが、私はどんな場所に出かけてもいつもそこに自分が在るように振舞い、人々に話しかけたりしながら過ごすことを心掛けている。「旅に行ってきます。」というよりも、「お邪魔します。」という感覚だ。
私自身、15年ほど前にある写真家に尋ねたことを思い出す。
「旅に出た時に写真がうまく撮れない。」と。
その答えは私にとって明解だった。
「旅だからと言って肩肘はる必要なんかなくて、いつもと変わらずに過ごせばいいんだよ。」
「なんだ、そういうことか。」と妙に納得したことを忘れていない。
自分のペースを乱さない、雑踏に流されない強さを持つことだと理解している。
その言葉の通り、自分自身がいつもと変わらず、取り繕わず、飾らない姿であることが旅の秘訣なのではないだろうか。
あえてガイドブックに載っている場所だけを歩くことはせず、その街の生活を垣間見るように歩く。わざと路地に迷い込むこともあれば、時に知らない駅に降り立ってみることもある。出会ったことから始まる会話から人々がどんな生活を送っているのか感じ取ってみたり、自分がその場で生活を送ることになったらどうなのかな?と考えてみたり、邪魔しすぎてはいけないからカメラやレンズも極力小さいものを選ぶ。もちろん挨拶だけは欠かさない。
そんな心の寄せ方や身構えひとつで旅写真は大きく変わってくるものだ。
そして、欲張りは禁物だ。この場所へ来るのは一度切りと決めず、また来よう、行きたいと思うくらいのちょっと足りない思い出が次の旅を楽しいものにしてくれる。
そこのことがわかってからどこへ出かけるのも楽しくなったし、写真も自然体になったと感じている。
私はいつも気取りの気ない普段着のままの旅人でいたいのだ。