「写真家の思点」で、作品を掲載しましたが、ここでは撮影時の具体的なコミュニケーションについての話をしてみようと思います。
私がポートレートを撮るとき、撮影イメージももちろん重要ですが、まず最初に意識することはモデルが自然体であるかどうかです。なぜ自然体である必要があるかと言えば、プロのモデルと言っても、中には事務所に所属したばかりで撮影経験が少ない方もいます。
こんな時、撮影イメージを強引に押し付けようとすれば、表情が強張ってしまったり、なんとなくで無理にポーズを取ってしまう事もあるので、不自然になりがちです。普段、自分がどのような姿勢で立ち、どのように呼吸をしているのかを忘れてしまうのです。
また表情についても、目を瞑らないよう意識するあまり、逆に目を見開いてしまっていないか、口を固く閉じてしまっていないか、そういった所にも意識を向けます。これは外国人モデルでもあっても同じことが言えます。
写真1
外国人モデルとコミュニケーションが取れれば、それに越したことはありませんが、中には英語圏ではない10代のモデルで「昨日ウクライナからやって来ました」なんて事も珍しくありません。
はじめて訪れる国で、はじめての撮影、そんな不安な心境の中、撮影者との会話が互いに曖昧な英単語では、コミュニケーションで解決できることなど極めて少ないと言えます。
そんな状況の中でも有効なのは、壁に寄りかかってもらったり、寝そべったりしてもらうなど、どこかに身を預けてもらうことです。そうすれば、言葉をかけるよりも簡単に力を抜く事ができ、撮影の進め方次第では普段以上の表情を引き出す事もできます。
洋楽のヒットチャートをランダムで流して雰囲気づくりするのも良いでしょう。
撮影者として、モデルを強引に支配しようとせず、リラックスできる状況を作り出すことが最初のアプローチです。
それでも求めている表情がすぐに出せるとは限りません。
写真1ではまだ硬さが残っているように思えます。
簡単な褒め言葉をかけながらシャッターを切り、時折、ファインダーから目を外して、モデルと笑顔でアイコンタクトを取り、ノーファインダーで撮ったりします。
そのうち、知ってる曲が流れ出したりすれば、モデルは体を揺らして、歌を口ずさみ、自らの力で、リラックスしていきます。
写真2
写真2は、スタジオのペーパーバトンを下げ、両手で掴んでもらっています。
表情も自然で、佇まいも良いバランスになりました。
このような手順で撮影していけば、初心者のモデルでも撮影が終わる頃には、別人のように成長しているはずです。