こんにちは

写真好きのカメラオタクな商品企画の大久保(以下O)です。

新型コロナ禍によるギャラリーの休業によりやむを得ず延期されておりました、展示「抵抗の光学」が、いよいよ7月23日(木)よりスクエア東京ギャラリーAにて公開されます。前回の記事から日にちがあいてしまったので、改めてインタビュー内容を最初から記載しておきます。
この展示はフィルムの大判カメラと中判カメラで撮られた27点の写真の展示になります。

篠田 優(しのだ ゆう)|Shinoda Yu

1986年、長野県出身。
2013年、東京工芸大学 芸術学部 写真学科を卒業。
現在、明治大学 大学院理工学研究科 建築・都市学専攻 総合芸術系博士前期課程に在籍中。
主な受賞として、EINSTEIN PHOTO COMPETITION X2 岩瀬貞哉賞(2012年)、塩竈フォトフェスティバル写真賞大賞(2013年)がある。
主な個展に「Wakes」(表参道画廊/ 東京、2020)、「text」(Alt_Medium / 東京、2019)、「See / Sea 」(ニコンサロン/ 東京・大阪、2017)など。

主なグループ展に「信濃美術館クロージング ネオヴィジョン新たな広がり」(長野県信濃美術館/長野、2017))など。
高田馬場にてギャラリー「Alt_Medium」共宰。
>> 篠田優 | Yu SHINODA HP

<写真集「Medium」>


篠田さんの初の写真集「Medium」。ここに篠田さん(以下S)の原点があると思い、まずは「Medium」の制作意図について伺いました。

OMediumをまとめていく過程で考えたことなどあれば教えてください。

S:Mediumは大学を卒業した2013年に塩竈フォトフェスティバルで大賞をもらって出版した本です。
大学時代に考えていた問題をまとめた本で、特定の土地や出来事を取材したものではありません。
写真には写真を成立させる基本的な条件があると思っています。例えば写真を想起させるモチーフとして「フレーム」とか「反射」であるとか「コピー」などがあるのではないか。それを外の世界で探したり自分で組み立てたりして、写真自体を写真で撮りたい。写真という媒体自体を写真化したいと考えていました。
僕には写真という媒体に対する関心が常にあって、何かを取材するとか、何かに関心を持つ場合も写真自体を考えさせる点があるものに惹かれます。

確かにMediumには反射を意識させる写真、屋外で撮られた写真や室内で小物を組み合わせて撮られた写真などで構成されていて、一見テーマ性を感じさせない内容になっています。
大判カメラで丁寧にとられて静謐な印象を受けます。ただ読んでいるときに多重露出など被写体をそのままストレートにとられていない写真があることが気になっていました。

〔Mediumに収められている写真の一部〕

〔クリックすると大きくなります〕

〔クリックすると大きくなります〕

〔クリックすると大きくなります〕

O:写真によっては多重露出や様々なテクニックが使われていますが、そこの意味を教えてください。

S:(写真集に掲載している写真は)全部フィルムで撮っています。
一般的に写真に真実性を担保する方法としては、フィルムを用いてストレートに撮り、印画紙に焼き付けることが適していると思われがちです。写真はデジタルの技術が介在すると何とでも改変可能でアナログには改変がないという信仰のようなものがあると思うのです。
アナログの手法を使ったとしてもストレートなイメージとは異なったものにもなりえる、写真というものは単純にレンズの前のものが何ら変質することなく像を結んでいるのではないと考えて、そのことを示すようにいろいろな方法をとっています。
あくまで、最終的な仕上げに関しては暗室でプリントしています。

なるほど、長時間露光で撮影された滝は実際目で見た滝とは異なるし、同じく揺れる枝は写真では消えてしまう。仮に目に見えたものが真実だとすると、真実とは違うわけです。写真という媒体を写真で収めた「Medium」。大変面白い挑戦的な写真集です。
ふとそこで、篠田さんは北井一夫さんの写真集「村へ」に興味があることを思い出しました。「村へ」はモノクロのドキュメンタリーだったのに対して「Medium」はカラー写真で構成されて、またドキュメンタリーでもありません。そこの違いも聞いてみました。

S:最初、北井さんの写真に関してはどちらかというとモチーフというか、撮られていた農村に興味がありました。写真というメディウム自体への興味を持ったのは、「村へ」と同じ時期にエドワード・ウェストンの写真を見たことがきっかけでした。
僕が十代のころは、みんな「写ルンです」を使う時代でした。例えば旅行に行って35mmのカラーネガで撮ってサービス版の写真を眺めるのが、基本的な写真とのかかわりでした。
その時に見ていた写真とエドワード・ウェストンの写真では大きく異なるテクスチャーがあるというのにまず興味を持って、写真というのはこういうものが可能なんだな、これが写真なのかという驚きがありました。
つまり、モチーフとしては北井一夫さんの写真に興味があって、マテリアルというか写真のテクスチャーみたいなものに関してはエドワード・ウェストンの用いるラージフォーマット(大判写真)に興味がありました。

O:被写体(写真の内容)は北井さんの影響を受けているのですね。

S:「村へ」に撮られている農村は写真集を見た時点(2000年代)では、もう写真に撮られたような状態ではなく、僕自身は実際にはそういう風景を見ていないのだけど、その写真を見るとき何か懐かしいなとか、ノスタルジーのようなものを感じました。写真を見ると、自分が体験していない過去であっても、それが存在したということに思いを馳せることができる。そういった写真の在り方が興味深く感じられました。

実際に見たことのない被写体でもノスタルジーを感じさせる、時間と場所に縛られない記録としての写真。改めて言葉にすると、写真とは不思議なものだなと思わされます。
写真のモチーフとしてはモノクロのドキュメンタリー写真の北井一夫さんと、媒体としての写真はリアリズムな大判写真のエドワード・ウェストン、それぞれはつながりの薄い2人の写真家の影響を受けた篠田さんの今回の展示はどのような内容になるのでしょうか?

 

写真集「Medium」は以下のサイトや店舗で購入可能です。

>> sign and room

>> NAdiff BAITEN

北井一夫さんやエドワード・ウエストンの写真集は各種ECサイトで購入可能です(探すのも楽しいと思います)。三冊を読み比べてから展示を見ると一段と深く展示を楽しめると思います。

・北井一夫:日本の写真家。1975年、第1回木村伊兵衛写真賞を受賞。「村へ」は日本の農村を撮り収めたモノクロ作品のドキュメンタリー写真集。
・エドワード・ウェストン:アメリカの写真家。ストレートフォトグラフィの実践を標榜したグループf/64の創設メンバー。彼の写真は、ほとんど8X10インチの大判カメラで撮られている。静物のクローズアップ写真などで有名。 

<展示「抵抗の光学」>

まず、今回の展示で使う写真を見せていただきました。

洞窟から見た海の風景、洞窟の壁についたいくつもの筋。写真集「Medium」と違い一貫性を感じます。

O:写真を拝見すると撮りたいテーマがはっきりしているように感じます。今回の展示の概要を聞かせていただけますか?

S:「抵抗の光学」は「See / Sea」から連続しているプロジェクトで、撮影地は三浦半島と房総半島に点在する軍事的な遺構を取材したものです。2015年に三浦半島でたまたま遺構を見つけたことが(撮影を始めた)きっかけです。
僕は最初そこが何なのかわからず、中に入り外を見るとカメラオブスクラのような構造(大判カメラのような構造)しているなと感じ、暗いところから開口部を通して外を見るのはカメラの中に入っているような気がして興味深かったのです。そのように感じたのは写真というメディウムに関心があったからというのもあります。

・カメラオブスクラ:写真の原理による投影像を得る装置で、実用的な用途としてはもっぱら素描などのために使われた。写真術の歴史においても重要で、写真機を「カメラ」と呼ぶのはカメラ・オブスクラに由来する。(Wikipediaより引用)

壕から外を見た写真は大判カメラで撮られています。「Mideum」では様々なテクニックを使っていましたが、見せていただいた写真たちはストレートに撮られています。

〔クリックすると大きくなります〕

O:壕の中と屋外で輝度差があるのですが、フラッシュを使わない理由は何かあるのでしょうか?

S:フラッシュやHDRを使えば輝度差のあるものも一枚のイメージに出来るとは思うけど、1回のシャッターで撮ってしまいたいと感じます。ただそこにある開口部から入ってくる自然の光で何とかしたい、その光で写したいという思いが、最初からありました。
こういったものを尋ね歩きリサーチをしていくと、カメラのメタファーとして見る以外の興味が出てきます。壕は視覚的な装置でもあると思います。つまり、敵を待ち受ける場所として、中から外に向かう視線を形成する装置ですね。
そして、2年から3年ほど壕の中で撮影を続けていると、壕の側面に掘削している時のテクスチャーが残っているのが気になり始めました。ある時から、それはそこを掘った人の運動の痕跡、存在の痕跡が、掘削した跡というかたちで残っているのではないかと思い始めました。
歴史を学んでも文字の連なりの中には、こういった個人の行為や痕跡は小さすぎて残っていかない場合もある。言葉で書かれた歴史の中から零れ落ちてしまうような小さな痕跡を写真で留めることができるとすれば、それはなかなか興味深いことだと思ったのです。

〔クリックすると大きくなります〕

〔クリックすると大きくなります〕

S:壕みたいなものは、自然の変化や宅地造成で崩落してしまいます。一つの痕跡を実際の形のまま保持できればよいのだけど、それができない場合は写真の「ある実在するものを写し、映像という形で未来に残す機能」が有効なのではないかと思っています。カメラオブスクラとの共通性から興味を持ち始め、モチーフとしても面白いと感じるようになりました。
今回の展示は5年撮ってきた中で全体を見て、広くまとめたという感じです。もちろん今年に入ってから撮影した写真もあります。

丁寧に考えながら言葉を選び話す篠田さん。その言葉を聞きながら壁面の写真を見ると、その痕跡を残した人の思いに考えが至ります。
篠田さんは今後はどのような写真を撮っていくのか気になりました。

O:今後は違うところを撮られたりするのでしょうか?

S:(今回の写真は)いわゆる戦跡巡りとは違うと思っていて、日本各地に本土決戦用の戦跡はあると思うけど、土地を限定して、その限定された範囲で撮っていきたいと思っています。
範囲を区切って同じ場所でも回を重ねて撮影していくことによって、壕を単純に戦跡として抽象化するのではなく、ある土地と関係した壕というように細かく描写していけるのではないかと思っています。対象を拡げるよりは同じ場所で何度も撮っていくことの方が重要だと思っています。
何回か行くことで見方が変わるというか、壕自体はあまり変わらないとしても、こちらが何かを学んだり他の多くの壕を見たりすると、以前行った場所でも違うものを発見することができます。仮に撮るイメージがほとんど同じに見えたとしても意義があると思っています。良いイメージにならないとしても、記録的な行為を始めたからには継続して撮っていく必要があると思っています。
土地と不可分なものとして撮っているので、戦跡巡りにはしたくないのです。ただ、土地への関心ということでは、僕の出身でもある長野県にある松代という場所とそこにある遺構を3年前から撮っています。松代の壕の中にも掘削時の跡が残っていますが、やはり関心があるのは、そこにいた人の存在と小さな歴史なのです。

篠田さんのプロジェクトは写真とは何かに思いを巡らせ、偶然訪れた壕の中から外を見る行為とカメラオブスクラの構造との共通性を見出し撮影を始め、そこに壁面の痕跡から土地の記録を残すというドキュメンタリー性が付加され、といった具合に撮影行動が拡がってきています。
また、写真という媒体に対する興味を起点にされているので、篠田さんの写真の背景には、写真とはどういう特徴を持つモノなのかといった意識が常にあるように思えます。そういった意味では、写真という媒体を写真で撮ることを考えた写真集「Medium」と今回の「抵抗の光学」は相通ずると思います。
今後、篠田さんが積み重ねていく写真がどのように変わっていくか(もしくは変わらないか)非常に楽しみです。

今回の展示では4点の大型プリント以外は篠田さん自らがプリントされています。大型プリントは アトリエマツダイラ というラボで行っています。
webでも一部の画像は見ることができますが、web画像と篠田さんがしっかり監修を行いプリントされた写真はまったくの別物です。
展示されるプリントされた写真は篠田さんの目で確認した篠田さんが伝えたいビジョンそのものです。
その写真の前に実際に立つと、そこにいた人の小さな歴史を感じることができると思います。
また、1枚1枚の写真には、見る人に写真という媒体は何かを考えさせてくれる、例えばカメラオブスクラを始めとする要素が隠れているかもしれません。

是非、ご自身の目でみてはいかがでしょうか。あなたならではの発見があるかもしれません。

最後に

雑談をしていた中で印象的だった言葉を残したいと思います。デジタルカメラとフィルムカメラに関して話をしていた時の篠田さんの言葉です。

「デジタルにしろフィルムにしろ、実際の場所に行って撮る行為は重要だと感じています。近年では自分で撮らないことに価値を置く作品も多くありますが、自分で撮るという行為がたとえアナクロニズムであっても、僕は必要だと思っています。そうした身体労働のようなものは写真の表面には出てこないと思うけど、写真を撮るということの最後の寄る辺になるのは、モノの前に実際に行って、例えば壕であるなら暗い中に入っていって、時間をかけてカメラと一緒に立っている事なのではないかと思っています。なんで重要かといわれると答えがたいですけど。」

「長時間露光をすると見えている時と結果として出てくる像は違うので、その意味であとの楽しみと落胆がある。だけど、それが僕にはポジティブに感じる。それもまたよかろう、と」

>>「抵抗の光学」篠田 優:2020年7月23日(木)~8月10日(月)

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