こんにちは、写真好きのカメラオタクな商品企画の大久保(以下O)です。

リコーイメージングスクエア東京ではギャラリーAが新設されます。ギャラリーAでは主にアート系の作品を取り扱います。
一般的にアート系の写真はわかりづらい世界といわれていると思っています。しかし、作品の意図や背景を知ると、俄然興味深くなる世界でもあると思っています。

4/2からそのギャラリーAで篠田 優さんの展示「抵抗の光学」を行う予定でしたが、新型コロナウイルス感染症対策のため展示は延期になっています。
実はこの展示開催に先立ち、篠田さんに作品や展示の意図について伺っていました。その前段で篠田さんの写真集「Medium」について伺っていたので、その部分を公開したいと思います。
家にいてなかなか外で写真を撮る機会が減っていると思いますが、写真集は外出しなくても見ることができます。
自宅で写真集を見て写真に思いを馳せるのも、また良いのではないでしょうか。

篠田 優(しのだ ゆう)|Shinoda Yu

1986年、長野県出身。
2013年、東京工芸大学 芸術学部 写真学科を卒業。
現在、明治大学 大学院理工学研究科 建築・都市学専攻 総合芸術系博士前期課程に在籍中。
主な受賞として、EINSTEIN PHOTO COMPETITION X2 岩瀬貞哉賞(2012年)、塩竈フォトフェスティバル写真賞大賞(2013年)がある。
主な個展に「Wakes」(表参道画廊/ 東京、2020)、「text」(Alt_Medium / 東京、2019)、「See / Sea 」(ニコンサロン/ 東京・大阪、2017)など。

主なグループ展に「信濃美術館クロージング ネオヴィジョン新たな広がり」(長野県信濃美術館/長野、2017))など。
高田馬場にてギャラリー「Alt_Medium」共宰。
>> 篠田優 | Yu SHINODA HP

<写真集「Medium」>


篠田さんの初の写真集「Medium」。ここに篠田さん(以下S)の原点があると思い、まずは「Medium」の制作意図について伺いました。

OMediumをまとめていく過程で考えたことなどあれば教えてください。

S:Mediumは大学を卒業した2013年に塩竈フォトフェスティバルで大賞をもらって出版した本です。
大学時代に考えていた問題をまとめた本で、特定の土地や出来事を取材したものではありません。
写真には写真を成立させる基本的な条件があると思っています。例えば写真を想起させるモチーフとして「フレーム」とか「反射」であるとか「コピー」などがあるのではないか。それを外の世界で探したり自分で組み立てたりして、写真自体を写真で撮りたい。写真という媒体自体を写真化したいと考えていました。
僕には写真という媒体に対する関心が常にあって、何かを取材するとか、何かに関心を持つ場合も写真自体を考えさせる点があるものに惹かれます。

確かにMediumには反射を意識させる写真、屋外で撮られた写真や室内で小物を組み合わせて撮られた写真などで構成されていて、一見テーマ性を感じさせない内容になっています。
大判カメラで丁寧にとられて静謐な印象を受けます。ただ読んでいるときに多重露出など被写体をそのままストレートにとられていない写真があることが気になっていました。

〔Mediumに収められている写真の一部〕

〔クリックすると大きくなります〕

〔クリックすると大きくなります〕

〔クリックすると大きくなります〕

O:写真によっては多重露出や様々なテクニックが使われていますが、そこの意味を教えてください。

S:(写真集に掲載している写真は)全部フィルムで撮っています。
一般的に写真に真実性を担保する方法としては、フィルムを用いてストレートに撮り、印画紙に焼き付けることが適していると思われがちです。写真はデジタルの技術が介在すると何とでも改変可能でアナログには改変がないという信仰のようなものがあると思うのです。
アナログの手法を使ったとしてもストレートなイメージとは異なったものにもなりえる、写真というものは単純にレンズの前のものが何ら変質することなく像を結んでいるのではないと考えて、そのことを示すようにいろいろな方法をとっています。
あくまで、最終的な仕上げに関しては暗室でプリントしています。

なるほど、長時間露光で撮影された滝は実際目で見た滝とは異なるし、同じく揺れる枝は写真では消えてしまう。仮に目に見えたものが真実だとすると、真実とは違うわけです。写真という媒体を写真で収めた「Medium」。大変面白い挑戦的な写真集です。
ふとそこで、篠田さんは北井一夫さんの写真集「村へ」に興味があることを思い出しました。「村へ」はモノクロのドキュメンタリーだったのに対して「Medium」はカラー写真で構成されて、またドキュメンタリーでもありません。そこの違いも聞いてみました。

S:最初、北井さんの写真に関してはどちらかというとモチーフというか、撮られていた農村に興味がありました。写真というメディウム自体への興味を持ったのは、「村へ」と同じ時期にエドワード・ウェストンの写真を見たことがきっかけでした。
僕が十代のころは、みんな「写ルンです」を使う時代でした。例えば旅行に行って35mmのカラーネガで撮ってサービス版の写真を眺めるのが、基本的な写真とのかかわりでした。
その時に見ていた写真とエドワード・ウェストンの写真では大きく異なるテクスチャーがあるというのにまず興味を持って、写真というのはこういうものが可能なんだな、これが写真なのかという驚きがありました。
つまり、モチーフとしては北井一夫さんの写真に興味があって、マテリアルというか写真のテクスチャーみたいなものに関してはエドワード・ウェストンの用いるラージフォーマット(大判写真)に興味がありました。

O:被写体(写真の内容)は北井さんの影響を受けているのですね。

S:「村へ」に撮られている農村は写真集を見た時点(2000年代)では、もう写真に撮られたような状態ではなく、僕自身は実際にはそういう風景を見ていないのだけど、その写真を見るとき何か懐かしいなとか、ノスタルジーのようなものを感じました。写真を見ると、自分が体験していない過去であっても、それが存在したということに思いを馳せることができる。そういった写真の在り方が興味深く感じられました。

実際に見たことのない被写体でもノスタルジーを感じさせる、時間と場所に縛られない記録としての写真。改めて言葉にすると、写真とは不思議なものだなと思わされます。
写真のモチーフとしてはモノクロのドキュメンタリー写真の北井一夫さんと、媒体としての写真はリアリズムな大判写真のエドワード・ウェストン、それぞれはつながりの薄い2人の写真家の影響を受けた篠田さんの今回の展示はどのような内容になるのでしょうか?

 

写真集「Medium」は以下のサイトや店舗で購入可能です(店舗での購入は緊急事態宣言が解除されてからでお願いいたします)。

>> sign and room

>> NAdiff BAITEN

北井一夫さんやエドワード・ウエストンの写真集は各種ECサイトで購入可能です(探すのも楽しいと思います)。三冊を読み比べてから展示を見ると一段と深く展示を楽しめると思います。

 – 後編に続く –

 

・北井一夫:日本の写真家。1975年、第1回木村伊兵衛写真賞を受賞。「村へ」は日本の農村を撮り収めたモノクロ作品のドキュメンタリー写真集。
・エドワード・ウェストン:アメリカの写真家。ストレートフォトグラフィの実践を標榜したグループf/64の創設メンバー。彼の写真は、ほとんど8X10インチの大判カメラで撮られている。静物のクローズアップ写真などで有名。