前回はカメラの操作を身につけるためのイメージトレーニングを紹介した。しっかり続けていけば、撮影現場でも格段に素早くカメラを扱うことができるようになるはずだ。続いて今回は、カメラを使わないでできるイメージトレーニングを紹介してみたい。

まず紹介したいのは、目の前にあるものを撮影するつもりで見るトレーニング。視界に入ってきたものを写真に撮るとしたらどうするか、カメラを持っているつもりでイメージしてみよう。
まず考えるのは構図だろうか。見ているもの(被写体)をどのくらいの大きさで見せるか、そのまわりや背景にはどんなものがあるのか、それをどこまで入れるか。自分の位置(カメラポジション)はどこからがいいのか、余分なものは見えていないだろうかなど、いろいろチェックすることがある。
ポイントとしては、被写体となるものと自分の視線を結ぶ直線上にあるものが被写体の背景になることを意識して、ものを見ることだろう。

小さなイトトンボを撮影していたときの一連のカット。背景が違っているのが分かると思うが、どのようにカメラポジションを移動しているか、写真を見ながらイメージできるだろうか?

左上)まずイトトンボに近づいて、すっきりした背景で撮影。ただすっきりしすぎてもの足りない。
右上)ちょっと引いて背景に他の木を入れてみた。奥行きは出ているけど、まっすぐすぎてちょっとつまらない。
左下)少しアングルを下げて後ろの木がY字に枝割れしているところを入れると、玉ボケが現れて変化が出た。
右下)また近づいて翅が暗く見える後ろの幹と重なるようにした。羽根の透明感も出てきて、イメージに近くなった。

 

同時にカメラを操作しているつもりで、絞りをどうするか、シャッター速度はどのくらいがいいのかなんかも考えてみたいよね。もっとカメラの扱いに慣れている人なら、このシーンだったらどのレンズ(画角)がいいのかとか、イメージできることはたくさんある。

これら一連のイメージトレーニングをするだけでも、実際に撮影で構図をまとめる力が格段に上がるはず。とくに初心者は被写体しか見ていなくて、結果的に構図がまとめられないということがあるので、被写体だけでなくそのまわりがどんな様子なのかを確認して、どこまで画面に入れるかということを考えてみるといいだろう。カメラがあるとファインダーを覗いているためにファインダー枠の外には意識が向かなくなってしまうことが多いが、肉眼でファインダーで見えている範囲以外もきちんと確認するという練習にもなる。

身近な景色でもイメージトレーニングはできる。ここでは空を見上げたときに、雲がどの位置でシャッターを切るかというイメージの例となる。左側では雲がいちばん高いカラマツと重なっているため、カラマツの姿がイマイチ目立たない。でも、ちょっと雲が流れて右側の状態になるとカラマツの存在感がグンと強くなる。このようなちょっとした違いをいつもイメージすることで、写真の表現力は向上する。

 

また、いい景色が見つかったら風景的に見るのもいいけれど、ここにこんなふうにモデルを立たせてみようとか、この場所に合う衣装やポーズはどんなのがいいだろうとか、イメージできることはたくさんある。人物を撮るプロカメラマンは、職業病的に常日頃からこんなことを考えているはず。だから仕事の依頼があったときに、すぐに対応できるのだよね。ただ、あまり妄想を膨らませて人が多いところでムフフなんて顔をしていると、危ない人と間違えられるので気をつけよう。

身近なところを日頃からイメージトレーニングしながら見ていると、いろいろな気づきもあってわざわざ遠くへ出かけなくても撮影できるようにもなっていくはずだ。

同じようなトレーニングでやっておいて欲しいのが、光を読む練習だ。

写真を撮るうえでとても大事なのは光を読むこと。被写体も重要だけれど、光次第で写真の印象が大きく変わる。自分の伝えたいイメージに合った光で撮影できなければ、どんなにいい被写体でもその魅力を最大限に伝えることはできないだろう。いま私が担当しているペンタックス道場でも、光の読み方がイメージに合っていないという写真を見かける。そのときしか撮れないからという理由もあるかもしれないけれど、もっと光に敏感になって光を選ぶことができないと作品は完成しない。

それには日頃から光を意識すること。きれいだなと感じた景色があれば、どんなふうに光が当たっているか確認しておこう。単純に順光とか逆光ということだけではなく、どの部分に当たっているか、影がどんなふうに落ちているのか、明暗のコントラストはどうなのかといったことを確認してみる。野外だったらしばらく同じところで見ていると太陽が動いて光の当たり方も変わる。雲が流れていれば光が当たったりかげったりして光線状態が変わる。このようなときにどう光が変わるのかを見ておこう。
興味があるものが目の前にあるんだけど、どうもきれいに見えないっていうときも、光が違えば魅力的に見えて来る可能性もある。ここにどんな光が当たればいいのだろうってことを考えてみるのもいいと思う。
そして、撮り慣れている人なら、写真としてカメラを通して写すとどんな明暗の具合に写るのかとか、露出はどうコントロールするのがいいのか、といったこともイメージしてみよう。

 

ここでは光の当たり方を見てみる。左側はヤマユリに逆光気味に光が当たっている。逆光は透過光できれいに見えるのだけれど、冷静に見ると花びらの凹凸によって影がたくさん出ているのが分かるだろう。影の部分は暗く写り、花のイメージは重く暗くなってしまう。肉眼で見るよりも影の部分が暗く写りやすいので、注意が必要な光線状態だ。
右側のヤマユリはほぼ日影に咲いているもの。メリハリはないが花びらが均一に明るく写り、イメージも明るくなる。撮影時には適度にプラス補正をしてやる必要はあるが、白トビもしにくく撮影しやすいとも言える。こういった光の違いを読めるように練習しよう。

 

これらのイメージトレーニングはちょっと意識することで、いつでもどこでもできるものだ。この経験が実際の撮影ですごく役に立つ。

というよりも、私はいつもシャッターを押す前にこれ以上のことを瞬時に判断してファインダーを覗いている。写真を撮り慣れている人って、被写体をみつけてからカメラを構えるまで、すごく速いよね。それは今回のイメージトレーニングと同じことを何度も繰り返していることや、実際の経験を重ねていくことで、判断する速度が速くなっていくから。
現場にいても、ただボーッと周りの景色を見ているのではなく、いろいろ気になるところを見ながらこうやって撮ろうとか、光が変わったらこの構図で撮ろうなどずっと考えているのだよね。

だから、今回のイメージトレーニングは当たり前にできるようにならないと、思い通りの写真は撮れないと思っていいだろう。
スポーツ選手は試合の前に自分が最高のパフォーマンスを発揮できるようにイメージトレーニングをするという。より良い作品を撮るためには必須のトレーニングとも言えるだろう。

ぜひ、実践してみて欲しい。