今から13年ほど前でしょうか、クラシックバレエやダンスが趣味で、週3〜4回もレッスンに通うほど夢中になった時期がありました。  年に1回、芝にあるメルパルクホール東京という大きな舞台での発表会があり3年連続で参加しました。舞台袖で出番を待つ時の緊張感や、色とりどりのライトが当たる舞台で踊ることは今まで味わったことのない非日常空間でした。 

特にゲネプロと言って本番と同じように通し稽古をする時間は、発表会に出るものにとっての特権です。お客様に発表する前に一連の舞台の流れを客席から独占して見ることができるのですから。 

その中でも私が一番楽しみにしていたのは、プロの先生方の演目でした。
舞台の上で踊る先生たちの表情と、ライトの当たり方、色でがらっと変わり、まるで心の声が聞こえてくるように感じるのです。 

例えば喜びの表情の場合、客席に向かって斜め上に顔を上げ笑顔で、そこに白い順光のライトを当てることで喜びや前向きな気持ちを表現したり、一方で悲しみ、落胆した表情は顔の向きを舞台の床に落とし沈んだ表情で、そこに冷たい青色や寂しさを感じさせる柔らかい黄色のサイド光、逆光にすることで観客に踊り手の心の声が聞こえてくるような錯覚を感じさせます。このように表情と光ひとつで踊り手の表現にさらに深みを増してくるのです。 

体の動きで気持ちを表現するバレリーナのように、撮影するアングルや構図で気持ちを表現したいと思っています。斜め上に向かう被写体を少し見上げるような1枚は、まるでバレリーナが明るい未来を見つめるように、斜め下や地に視点を落とす1枚は、寂しげな表情をしながら落胆するときの感情をイメージするのです。

 

いつか30人の群舞から卒業しソロで踊れたらいいなあ、という夢は儚く消えましたが、その代わりに13年前に見た「光と表情で想いを伝える」先生たちの踊りを見て感動したことが、現在の私に大きな経験値となっていることは間違いないでしょう。個展で発表できるようになった今、違った場所で、違った表現方法で夢を叶えられたこと、そして直接的には写真に関係のなさそうな経験が私の写真表現につながり、拡がりを持たせてくれていることを今、実感しています。