こんにちは

写真好きでカメラも好きな商品企画の大久保(以下O)です。
先日、新しくカメラを購入しました。撮影の計画など練っています。

最近、みなさんは写真をどこで見ましたか?
SNSやニュースで見たり、人からプリントを見せられたり。そんなときの写真ってどんな写真が多いでしょうか?
例えばSNSで素敵な風景やきれいな人の写真。ニュースでは事故現場や記者会見の写真。
人から見せられるのは、旅行先で撮った記念写真という感じでしょうか。

リコーイメージングスクエア東京のギャラリーAで開催されている、川田喜久治さんによる展覧会「赤と黒」Le Rouge et le Noir
そこでは上に挙げた例とは違う写真が作品として展示されています。
独自の世界観を持ち、強い印象を受ける作品ですが、どのような意図で産み出されたか川田喜久治さん(以下K)に伺ってきました。

川田喜久治 | Kikuji Kawada

1933年茨城県生まれ。1955年立教大学経済学部卒業、新潮社に入社。「週刊新潮」創刊(1956年)よりグラビア撮影を担当する。1959年退社しフリーとなる。
写真エイジェンシー「VIVO」(1959-61年)を佐藤明、東松照明、丹野章、奈良原一高、細江英公と設立する。

「地図-The Map」,「地図のモケット」,「聖なる世界」,「遠い場所の記憶」,「ザ・ヌード」,「世界劇場」,「ユリイカ」,「ラスト・コスモロジー」などの作品集。

「地図」,「聖なる世界」,「ロス・カプリチョス」,「世界劇場-2003」,「見えない都市-2006」,「ATLAS 全都市-2007」,「ワールズ・エンド-2010」,「日光―寓話-2011」,「Phenomena-2012」,「Last things-2016」,「100-Illusions-2018」,「影の中の陰-2019」などの個展を開催する。

東京国立近代美術館,東京都写真美術館,釧路芸術館,山口県立美術館,東京工芸大学,多摩美術大学,日本大学,テートモダン,ポンピドー・センター,サンフランシスコ近代美術館,ニューヨーク・パブリックライブラリー,ニューヨーク近代美術館,ボストン美術館などにコレクション。

芸術選奨文部科学大臣賞2004年,日本写真協会作家賞2011年、を受賞。

<赤と黒>



実際に展示を拝見するとモノクロとカラーの作品が分散的に入り混じり、多重合成も多用されていて、撮影されたままのストレートな写真は少ないです。
作品のシーンこそは日常ですが、強い色彩が協調されていたり、多重に重ねられた作品もあり、非日常的に見えます。
やはり展示の意図や作品を造り上げる過程が気になりました。そこで川田さんの写真集である「地図」、「世界劇場(ロス・カプリチョス、ラスト・コスモロジー、カー・マニアック)」を拝見してインタビューに臨みました。
インタビューの冒頭、まず川田さんは次のようにおっしゃられました。
「なぜこういう写真を撮るか僕にもわからないですから。インタビューにお応えのしようがない。」
ちょっと機先を制された感じがありますが、まず今回のタイトル「赤と黒」について伺いました。

O)タイトルの「赤と黒」ですが、写真集の「世界劇場」でも赤と黒は印象的に使われていました。昔から「赤と黒」は意識されていたのでしょうか?
K)そんなことはないです。写真の進歩もそうでしたけど、昔はカラーフイルムがありませんでした。
始めは黒白でした。僕のほとんどの作品は黒白のほうが多いのではないかと思います。

カラーフイルムは始めのころはとっつきにくくて、自分の色が出せなかったのです。ですから使うのをやめていて、ほとんど黒白が主だったと思います。
ただ、ここ4~5年はカラーにウエイトをかけてきました。なぜそうなったかは自分もよくわからないのです。
O)以前の作品「ロス・カプリチョス」は白黒とカラー作品が混ざっていました。
K)「ロス・カプリチョス」以前の作品は事前にテーマについて調べてから、現地に入っていかないとできない作品が多かったのです。
ただ、そのやり方を長くやっていると、自由な作品が撮れなくなってくるのに気が付きました。
「ロス・カプリチョス」はゴヤの版画集「気まぐれ(Los Caprichos)」から取ったタイトルです。
ゴヤは18世紀という時代の中で宗教裁判にかけられたりしました。自分の考えたことができず、ある種の風刺をこめたエッチングをやろうとして「気まぐれ」という心の中のデーモンを表現したのではないかと思っています。
ゴヤのエッチングは黒白ですけど、僕はカラーと黒白の両方を使おうと決めました。スタートからあまり色にはこだわらなかったのです。
O)確かに今回の「赤と黒」を拝見するといろんな色が混ざっています。黒白も青もあるし極彩色もあります。川田さんは「ロス・カプリチョス」を過去に数回やっておられます。「赤と黒」もその流れを汲んでいるのかと思いました。
K)そうですね。色彩は赤と黒を狙っているのですが、やっぱり時代の変化とともに写真の色が変わっているわけです。
黒白でも、心は非常に強い色に反応したりします。最近は特に僕の心理がそういう風になっています。
理屈で明快にはなっていないのですが、社会の背景があるのだろうと思っています。背景が色彩に出てきます。
結論から言ってしまうと僕は赤色と黒色が好きなんですね。「赤と黒」というタイトルも気まぐれにつけてみたのです。
僕が黒白とカラーの撮影をしばらくやっていたら、日本カメラの編集者から連載させてほしいという話が来たのです。
最初、タイトルはながく続くものだから「ロス・カプリチョス」が良いだろうと提案したのですが、他にどんなタイトルがありますかと聞かれたので、編集者の意見も入れて「赤と黒」になりました。「赤と黒」は非常に意味合いが深いのです。前からやっているシリーズをまたこの時代に持ち込みたいという私の希望もありました。
O)そうお聞きすると、今回の展示はより赤と黒の写真が目立ちますね。
K)そうですね。赤というのは血液の色でもあるし人間の命の色でもあるし、やはり危険な色でもあります。
赤色と黒色に理屈をつけようと思えばいくらでも付けらえると思います。僕にとっては肝心な色なんでしょう。でも、それに囚われてはいないつもりです。
黒白で出しているものもあります。ただ、やっぱり時代の色というのはどこからか出てきますね。やはり内なる赤を感じてもらえればいいと思います。
また、かつて写真というのは非常にリアルなイメージが強かった。今ではそのイメージはほとんど衰退していると思います。
写真は初めから幻影であるという事をみんな知っていると思います。一度シャッターを押したら、その写されたものは幻になっていくわけです。
その瞬間の形を残しながら全部死んでいきます。ですから、そこに新しい違った命を吹き込まなければならない。
それがやはり色彩とトーンだろうと、強い内なる色彩だろうと思うわけです。

O)今回のステートメントに赤は戦争、黒は宗教と記載がありました。写真を見ると十字架があり、なるほど宗教と思い写真のキャプションを見ると「プラスとマイナス」とあり「あれ?」と思いました。キャプションはどのように決めているのでしょうか?

(プラスとマイナス)

K)写真は使いようによって、文章よりユーモラスになることがあるのです。私たちの時代は写真でストーリーを考えるということは極力軽蔑されてきました。
ところがそうではなく、写真独自のフィクションとストーリーというのがあり、それが新しい方向だと思っています。写真は記録であるというのは真っ赤なウソですよね。
それはただの方便であって、写真は正確な記録をしていないですから。
O)写真は記録ではなく、時代を感じる媒体でしょうか。
K)時代は誰が写しても写真に吸い込まれてくると思うのです。ただ、それをどのようにテーマに結び付けていくかということが課題だと思います。

 <インスタグラムと写真集>

O)この「赤と黒」は雑誌(日本カメラ)から始まり、写真展、インスタグラムにも展開しています。
K)客観的にみると雑誌が最初に見えますが、実際は逆でインスタグラムからです。インスタグラムは始めて5年ほど経っています。インスタグラムは日々の撮影したものを誰の制約もなくアップすることができます。そこには雑誌社のような組織もデスクもなく、ダメを出す人がいないのです。
インスタグラムに作品を出していき、見る人がそれに反応してイイネを付けてくれる。それで、自分の作品の現在を判断できるわけです。

イイネをどういう方が付けてくれているか、完全なアマチュアな方は何人もいますけど、世界の美術館のキュレーターやギャラリーのオーナー、雑誌社の編集者、写真家、評論家が付けてくれます。
大体、僕が望むような方はみんなつけてくれます。その判断を僕は迷いながら考え、自分の方向が見えてくるかもしれないのです。
O)インスタグラムは写真が連続的に流れていきます、この写真からこの写真までが「赤と黒」といった区切りがないです。
K)区切りがないのがいいのです。自分が自分の好きなように撮っているわけですから言葉は必要ない。イイネだけで良いのです。
イイネの背景が読めるのです。今回のこの人のイイネは、だいぶ違ったイイネだねとかすぐにわかります。
O)川田さんのインスタグラムの写真にはハッシュタグが付いていて、言葉が付加されています。写真を見る際の鍵になると思うのですが、こういった言葉をどう決めているのでしょうか。
K)言葉はなるべく短く、あまり余計なことを考えさせないような、詩的なセンテンスであったり、データ(例えば日付)そのものであったりのほうがいいと思っています。
O)なるほど、川田さんにとってインスタグラムはとても重要なのですね。インスタグラムと雑誌、写真展といった写真表現の場を使い分けられているのかと思っていました。
K)全然違います。インスタグラムを中心にやってますと、雑誌の編集者は時の映像に敏感ですから、例えばこういうもので連載したいと持ってきてくれます。そういうことでテーマが徐々に形を作ってくるのです。この進め方は今まで僕が書物とかで集めてくるやり方のテーマ探しよりは、よほど今日的で軽快に物事が進んでいく利点があります。
ただ、写真表現は最終的には写真集だと思っています。写真展
の形式は最終的なものではないと思っています。同時にできればいいのですが。
O)最終的には写真集なのですね。
K)いろんな発表の仕方があるからこれ一つと言えないですが、残していくなら写真集かなと思っています。

川田さんのインスタグラムはこちらです。インスタグラムをされている方はフォローされてはいかがでしょうか。
もしかしたら、あなたのイイネが川田さんの写真に影響を与えるかもしれません。

<作品について>

O)今回の展示の写真と同じものがインスタグラムに何点かあるのですが、写真展では赤の強みを変えてきたりしています。

(展示されている写真)

(インスタグラムでの写真)

K)そうですね。写真展になってくると違う考えが出てきます。色彩やシャープネスを変えています。
インスタグラムの時とは別に、新たにもう一つの撮影としてスイッチできるわけです。
O)元は同じ写真だけど別の違う作品として仕立てたという事でしょうか。
K)複製がたくさんできるというのが写真の利点だと思います。つまり、オリジナルがたくさんできる。写真は複製ができて、それぞれにオリジナルを持たせるというところに今日性があると思います。
1点限りのモノだからオリジナル、ということではないと思っています。今回の作品はフィルムではなくすべてデジタルで撮っています。
デジタルで撮っていれば、Photoshopで違った色にするということができます。あらゆるテクニックをうまく使おうと思っています。

<展示と写真集>


O)会場の作品レイアウトですが、縦写真も混在しています。何を重視してこういう配置にしたのでしょうか。
K)レイアウトは難しいです。色のリズムと同種類の形状の重なり合いを意識しています。例えば赤い写真があって隣に黒いものがあればよいのです。そうじゃないと繋がりが悪くなります。縦写真は最近撮っていません。今は全部横に撮っています。以前に撮影した作品を入れて、いろんな作品を混ぜています。
今回は2020年1月までの写真です。その時から今日まで撮っている写真はたくさんあります。
O)ちょうど新型コロナ禍の前までですね。
K)そうですね。寸前ですね。今みたいになるということは一切考えていなかったのですが、改めて見ていくと、ある種の大きな変動への動きが出ています。
O)新型コロナ禍があり、撮影スタイルや作品に影響は出ていますでしょうか?
K)今回の展示以降の作品は50点以上ありますが、作品には影響が出ています。
撮影スタイルに関しては変わらず、ほとんど毎日歩いて撮影に出かけています。車からも撮影しています。
今のこの撮影スタイルは10年以上続けていて一番良いと考えています。でも、別の何かにスイッチしてみたいという気持ちはいつもどこかにあります。
時代の急激なショックは、対象を撮影するので写真は早く受け止めると思います。他のアートは写真の時間とはだいぶ違った時間を抱え込まないといけないので、そうはいかないと思います。
写真は現場でパッと撮っちゃいますからね。一番スピーディに時代を表現できると思います。質が違うのですね。

本当は展示が開始される前にお話を伺いたかったのですが、新型コロナの影響もあり、実際にお会いできたのは7月に入ってからでした。
しかし、遅くなった分より深くお話を伺えたと思います。
私の場合、会場で川田さんの強い写真を拝見していると不穏な何かを感じます。それが「時代」によるものかどうかは判断つきかねるところがあります。
ただ、そこに思いを馳せるのは、ことのほか面白いです。
きっと川田さんの写真からの印象は見る人によって異なり、それがそれぞれの人にとっての「時代」なのかもしれません。
「赤と黒」は7/20まで展示をしています。まだ見ていない方はもとより、一度見た方ももう一度見ると、また違う印象を受けるのではないでしょうか。
その印象から何を想像するか、そこはみなさん次第だと思います。
展示を見る前に川田さんの写真集を見ておくことをお勧めしたいと思います。たくさん写真集がありますが特に最初の写真集「地図」をお勧めしたいと思います。
今回は「地図」についてもお話を伺ったのですが詳細について書きませんでした。
川田さんと話をしていて、最初の写真集「地図」は川田さんの作品の基礎になっていると思いました。「地図」を見て、展示を見るとそれぞれのつながりを感じることができると思います。
現在、「地図」はちょっと入手困難ですが、そういった希少な写真集は図書館の利用をお勧めします(私は東京都写真美術館を利用しました)。

最後に川田さんの写真集「世界劇場」の中に記されていた文章があるのですが、とても気になる文章だったので、そのことについて伺った言葉をご紹介したいと思います。
改めて、想像力は大事だなと思える内容でした。

O)「世界劇場」に「私もまた、誰かに尋ねてみたいのです。ことばで完璧に言い表せないような写真のイメージは存在するのでしょうか?」という文章が記されていたのですが、 写真を言葉で表すのは無理という話はよく聞くのですが、そうではないというのが気にかかりました。
K)新しい言葉にできるかも知れないという反語です。イメージは想像力によって新しい言葉と時間に変換できますから。想像力が枯渇していると言葉にならないということだと思います。

リコーイメージング東京にご来館いただく際以下のご協力をお願い致します。
・入口にて検温させていただきます。(非接触型の体温計を使用いたします)
※37.5℃以上の方のご入場はお断りをさせていただきます。予めご了承ください。
・手の消毒を行ってからの入場にご協力をお願い致します。
・来館時には必ずマスクの着用をお願い致します。
・過度に混み合わないよう、状況により入場制限をさせていただく場合がございますのでご了承ください。
・場内では、お客様同士のソーシャルディスタンス(約2m)の確保にご協力ください。
以下に該当する方々の来館をご遠慮いただきますようお願いいたします。
・咳の出る方
・37.5℃以上の発熱の有る方
・その他体調不良の方