学校帰り、家路を急いで通り抜ける商店街のお店から、空腹にしみいる美味しい匂いが漂っていた。近所の家からも子どもたちの帰りを待ちながら夕食の支度を急ぐ台所の様子がうかがえた。そんな昭和らしい思い出を持つ人も少なくないだろう。

好きだったミュージシャンやアーティストの曲を耳にしたことをきっかけに「あの時のあの人、今何しているだろう。」と気になることはないだろうか。

思いがけずフラッシュバックする記憶。コンサートやライブに何度も行ったことを思い出す。ちょっと恥ずかしい気持ちにもなるけれど、今となっては大騒ぎも、大笑いしながら過ごした日々も懐かしい。

 

数年ぶりに賑わいを見せる神社に遭遇した。当たり前の光景が新鮮に感じられるこの頃だ。
PENTAX MZ5n/ HD PENTAX-FA35mmF2

 

お祭りや屋台は非日常だからとにかく刺激的だった。子供の頃を思い出す。
PENTAX MZ5n/ HD PENTAX-FA35mmF2

 

20代に入り写真とカメラの道に入った。それから15年ほどが過ぎ、デジタルカメラが一般化していった。ここ5年の間にはスマートフォンを誰もが持つようになり、シャッターを切るようになった。最近では「フィルムカメラが楽しい、フィルムでしか表現できない風合いがいい。」という声もよく聞かれる。そんな風に自分にとっての当たり前が時を経て巡り、随分と長いこと写真とカメラに関わっていることに不思議な気持ちを抱く。

 

10代の頃の自分は写真の仕事をしていくとは思ってもいなかった。

 

昨年、20代の頃に出会った思い出のカメラPENTAX MZ5Nを手に入れる機会に恵まれた。フィルム一眼レフカメラだ。PENTAXKマウントには〝現在という未来〟と融合できる楽しさがある。オールドレンズをデジタルカメラに取り付けることはあるが、デジタルカメラ用レンズをフィルムカメラに取り付けられる。制約付きながら撮影する不自由さは利便性やすぐに撮影結果を求める今となっては面白い。

久しぶりにフィルムを装填して懐かしいシャッター音を響かせながら撮影する。撮り終わったら現像に出すのだが、あらためてワクワクしてしまう。この感覚も新鮮だ。失敗を繰り返しながら撮影を覚えたことが懐かしい。

 

写真をデジタルカメラから始めた人も多いだろう。そんな人には、初めてシャッターを切った感動を思い出してもらえたらと思う。初めてお気に入りの一枚が撮れた感動を思い出してもらえたらと思う。

 

近所に可愛い赤ちゃんが生まれた。せっかくなのでフィルムで撮影させてもらった。
PENTAX MZ5N/ HD PENTAX-FA35mmF2

 

味を感じる感覚は鼻と口から脳に伝達され、脳のいくつかの部分がその情報を統合することで刺激され、風味を認識し、楽しむことができるのだという。音楽は記憶に残りやすい。耳は外界からの刺激の受容できる機能で、外に開かれている感覚器官だという。目は自分の意志により閉じることで視覚を遮り、見ようとしなければ見ないでいることもできてしまうものだ。

しかし、何かに触発され〝あの時のあの感覚と感動〟を思い起こせる人は初心に帰ることができる。多くの場合、アルバムの中にある昔の写真を手にしたときではないだろうか。

写真を見つめ、記憶に触れる。あの頃の自分と出会う。
意図せず起こるそんなことが写真の持つ力のような気がしている。

 

この日の写真がいつかこの家族と私の思い出になる。
PENTAX MZ5N/ smc PENTAX-DA 70mmF2.4 Limited

 

それは幾重にも年を重ねてから実感できることが多い。今を必死で追いかけているとなかなか見えないものだが、現在が過去になるとき写真は一層魅力的になるものだ。

 

―残しておきたい1枚。撮れているだろうか。

自分自身でも自戒しながら日々シャッターを切る。

 

 

だから、今日も写真日和なんだ。

 

 

追伸:「そうか。今日も写真日和」最終回。お付き合いいただきありがとうございました。この原稿を書き終えた日は写真の日でした。