10月のお題は…『いのちの景色』

小林義明 師範

私の大きなテーマとなっている”いのちの景色”。これはいきものの姿だけを捉えるということではなく、「いきものとそのいきものが生活する場所や環境の雰囲気を一緒に捉えた作品」と考えてください。また、いきものに限らず木や草などの植物もいのちのひとつです。自然の景色はたくさんのいのちが集まって生み出されています。

 

 

小林義明 師範からの10月のお題は『いのちの景色』でした。
このお題に対して挑戦してくださった方の作品と、師範からの添削コメントを併せてご紹介します。

“免許皆伝”が与えられるのか、あえなく“門前払い”となるか、ご注目です…!

 

10月の挑戦者その1:hashfooさん

『重なる生活空間』我々人間の生活活動と自然は切り離されていない
(50mmのレンズでここまで鳥によるまで10分かかりました)

hashfoo
京都府在住、男性。
PENTAX KPとオールドレンズの50mmF2で撮影。

 

師範の判定結果は・・・

小林義明 師範からの添削コメント

 

ウミネコと船が浮かぶのどかな海の風景。ウミネコが暮らす環境を取り込みながらいきものの姿を見せるという狙いはとてもいいと思う。身近に見られる鳥だから、その共存する様子を見せたいと思ったのだろうね。

ただね〜〜〜、コメントにあった50mmでジリジリ近寄っていったというのは無理があると思うんだよね。いきものを撮影するときは、いきものにストレスを与えないように適度に離れたところから撮影するのがセオリー。もともとウミネコは目つきが悪いけれど、このカットもかなり警戒していて、表情を見ると「近づいてくるな」オーラが出まくっているように思う。

いきものって、思っている以上にこちら側の視線には敏感で、意識していなければ目の前でも平気な顔をしているのに、「撮るぞ!」って思った瞬間に気づいて逃げてしまうことも多いもの。でも、見慣れてくるとこちらも別に撮れなくてもいいやくらいの気持ちでカメラを向けることができるようになって、そうすると自然な姿を撮らせてくれるようになるんだ。

何度か顔を合わせるうちに、あいつは危ない奴じゃないって思ってもらえるようになればしめたもの。人を撮るのだって、いきなり知らない人にレンズを向けるのは勇気がいるでしょ。それと同じで、自分が何を思いながら撮影してるのか分かってもらって、それで初めて思い通りの撮影ができるんじゃないかな。

私はよく撮影しているときに、モデル撮影のように「ここに出てきて!」とか「右むいて」っていきものに注文しているよ。意外と撮られる気まんまんの奴は、思い通りに動いてくれるんだよね。もちろんそれもお互いに許せる距離や余計な動きをないという信頼関係があってのこと。いきものに近づくのは、もっとも相手に警戒心を抱かせる行為なので、よほど信頼関係がなければ難しいこと。

構図的にはウミネコと船までの空間が多いように思うな。ウミネコが人工的な環境と距離をおきたいと思っていることを表現したいといった狙いがあればこの空間は活きてくるのだけど、自然と人間のすむ環境は繋がっているという意図なんだよね。ちょっと離れすぎているように感じる。

50mmでこのカットを完成させたい気持ちがあれば、ウミネコが安心している自然な表情で撮らせてくれるよう、精進してくれ!!

10月の挑戦者その2:まるちゃん

『彼岸花にチョウ』K-1に150-450mm で写しました

まるちゃん
東京都在住、男性。
PENTAX K-1とHD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AWで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

小林義明 師範からの添削コメント

 

ヒガンバナにやって来て蜜を吸っているアゲハチョウ。いくつかの花を入れることでヒガンバナの咲いている様子を見せながら、吸蜜しているアゲハチョウの行動も見せることができていて、狙いもはっきりしていていいと思う。口吻もはっきりと見えているよね。

ただ、このカットではヒガンバナの手前に生えている草が多くて、超望遠レンズを使っていてもぼけきらずにゴチャゴチャしてしまった感じがする。ヒガンバナを撮影しているときにアゲハがやって来てくれたのだとしても、このままではアゲハにも草がかかっていてしまって残念なところ。もっと絞りを開けて開放絞り近くに設定することで少しは違ってくるはず。

また、とっさのシャッターチャンスだったと思うけれど、少し高いアングルから撮影すれば草がかからないようにもできただろうし、全体にすっきりした感じにもなったはず。450mmで撮影しているので三脚を使っているかもしれないが、そこは三脚からカメラを外すなどの対応をしたいところだなあ。クイックシューを利用するとすばやく着脱ができるようになる。

私も日頃は風景もこのようないきもののいるシーンも切り替えることなく平行して撮ることが多いため、基本は手持ち撮影で三脚を使うときも素早く着脱できるシステムを使っている。このような明るいシーンであれば、充分手持ち撮影もできるので、150-450でも手持ちで撮影できるよう、練習してみてはどうだろう。シャッターチャンスを広げることができるはずだ。

今年はシーズンが終わってしまったが、来シーズンに向けてチョウの動きを予測しながら周りの景色がいいところに来る瞬間を狙えるよう、練習しておこう。

10月の挑戦者その3:まさかつさん

『いのちの輝き』岩手県は白鳥が毎年飛来し旅立っていく。
綺麗に羽を広げ水しぶきが巻き起こる様は、命が躍動している姿に見えた。

まさかつ
岩手県在住、男性。
PENTAX K-1とHD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR REで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

 

惜しいけど

小林義明 師範からの添削コメント

 

二羽のハクチョウが他のグループを威嚇して羽ばたきながら駆け寄っている瞬間を見事に捉えている。二羽の並び方もベストに近い感じで、すばらしいショット。今回のテーマが「いのちの瞬間」だったら、『免許皆伝』にしたかったところだ。

だが、今回のテーマは「いのちの景色」。いきものの姿だけではなく、同時に周りの環境や景色を想像させるカットに仕上げて欲しかった。
このカットはハクチョウの躍動的な動きを見事に捉えているのだが、どんな場所なのか、どれだけ美しい景色の中にいるかが伝わりにくくなってしまっている。このすばらしいハクチョウの動きを美しい景色と一緒に捉えることができたら、見る人はより感動を受けるはず。

このカットを活かす方法として、組写真に仕上げることをオススメしたい。これを撮影した場所を表現できるように、周りの美しい風景を撮影したカットにこのカットを組み合わせるようにすれば見る人のイメージはどんどん広がっていく。

私が写真展をするときも気に入ったワンカットを活かすために組み上げていくといった手法をとることが多い。自然写真は撮れる場所が限られるようになってしまったため、似たり寄ったりが多くなってしまっているが、この一枚が撮影できたときは、安売りせずに他にどんなカットを組み合わせたらより魅力的に見せることができるかを考えるといい。

組写真で見せられるコンテストは少ないが、リコーイメージングギャラリーでは多くの写真を組み合わせて見せられる会場として、東京・大阪に拠点を持っている。この一枚は今回のテーマには100%ではないが、充分な実力を持っていると感じるので、このカットを活かせるようにどんなカットを見せればいいか・撮影すればいいか、熟考して完成させて欲しい。

 

やはりハードルの高い、小林義明 師範の“風景・ネイチャー”道場。
添削コメントをご参考にしていただきつつ、ぜひ以降のお題にもチャレンジしてみてください!

作品を取り上げさせていただい方には、『免許皆伝』となった方はもちろんのこと、『門前払い』の方にも、それぞれ素敵な記念品をお届けします。現在準備中ですので、しばらくお待ちください。