年明け早々、昨年募集した「PENTAXフォトコンテスト2022」の審査を行った。その入賞作品12点が、東京・四谷のPENTAXクラハウスで2/16(木)〜2/28(火)に展示される(来年以降読んだ方のために念のためご説明すると2023年の話です。あと日曜と水曜はお休みです)。お近くの方はぜひ。
というわけでコンテストとは関係あるようなないような審査員の写真を織り交ぜながら、審査の裏話を少々。PENTAXフォトコンテストは今回初めて応募がネットオンリーになったが、リコーイメージングの担当者さんから「審査はモニターでやりますか? プリントでやりますか?」と相談されたので、可能ならすべてプリントしてくださいとお願いをした。
結果、担当者さんは相当頑張ってくださったようで、リコー本社へ審査に伺うと、会議室には無数のプリントの束が。朝から集中して一次審査をこなす。1枚ずつ、大事なものを見落とさないように目を配りつつ、これは残すべしという作品を二次審査へ。およそ20〜30点に1点くらいだろうか。いや、もっと少なかったか。ともあれ昼が近付く頃には束もなくなった。さてリコー自慢の社員食堂へ…と思ったら「鹿野さん、次の束です」。ひぇ〜! まだあったよ…とつぶやいたら「ひとつじゃないですよ。あれと、あれと、あれ」。種田山頭火ではないが、まさに審査しても審査しても作品の山。
社員食堂でのランチを挟んで、大量の山を2つの山まで絞り、二次審査でさらに100点ちょっとまで絞った。そして三次審査で入賞12点が決まったのが午後4時。ほぼ予想通りだったが、これをモニターでやったら一次審査で夜までかかっていたと思う。プリントを手で仕分けるほうが圧倒的に早く作業できるし、近付いて気になる部分を凝視したり、すぐ離して全体を見渡したり、さらに並べたり比べたりということが瞬時にできる。
たとえばこうしたウェブの記事などを校正するときも、モニター上では複数人でも気付かれなかった間違いが、紙にプリントアウトするとすぐ発見できたりする。透過光(モニター)と反射光(プリント)で認知のモードが違うという学説もあって、ググったら>>リコー経済社会研究所:「紙」に印刷すると間違いに気づく理由がわかりやすく解説していた。
一方でリンクにも登場する学説の提唱者マーシャル・マクルーハンはモニターの解像度が低かった時代の人であり、今はそんなことはないという研究者もいる。僕は認知のモードもたしかに違うけれど、手でモノとして操れる点がプリントの優位点だと思う。もちろんモニターがさらに進化して、紙のように薄く、手軽に扱える(しかもインタラクティブな)ものになれば、また話は変わってくるかもしれない。たぶんそういう未来の媒体をリコー本社さんも研究しているんだろうなぁ。
ともあれ撮影からフォトコンテストの応募までデータで完結してしまう時代ではあるけれど、できれば自分の写真はプリントで見返す習慣をつけてほしい。これは昨年発売した拙著『いい写真を撮る100の方法』でもページを割いている話だが、データで閲覧するということは、最大でもパソコンのモニターで見るということ。結構大きなモニターに全面で表示しても、プリントにすればA3ノビ程度。ノートならA4程度にしかならない。
まあ大きいといえば大きいが、物理的に1枚しか表示できないので、2枚3枚を見比べるのは難しい。かといってサムネイル表示にすれば当然小さくなるし、プリントのように好きなように並べられるわけでもない。またファイル名とかソフトのメニューとか、文字情報や操作ボタンも目に入ってしまう。写真だけ眺めるのとは当然見え方も違う。
そうやって並べたり比べたりすることで、1枚だけ眺めていても気付かないことが見えてくる。今回は組写真の応募も多かったのだが、イメージが重複している写真を組んでいるケースがほとんどだった。仮定の話だが、陶芸家を写した2枚組の作品がある。構成しているのは光が美しくて見映えがいい写真と、工房の様子がわかる写真。でも構図や光が違うだけで、写している場所も出来事も同じ。これでは1+1=1である。
たとえば見映えがいい写真を生かしたいなら、もう1枚は作ったモノのアップで語るとか、そもそも情報を伝えるのが目的ではないので単写真で勝負するという考え方もある。あるいは情報量の多い写真と、風景も含めた工房の外観とか、陶芸家のポートレートや素のスナップを組むのもいいだろう。そういうことがプリントを並べると論理的に考えられる。逆にいえばモニターで1枚ずつ眺めていては絶対に思いつかない。
写真の構成力は単写真でも必要なこと。これは>>ウェブサイト(2023年2月16日公開予定)に掲載した総評にも書いているが、審査を勝ち残っていくのは1枚の中にいくつもの情報が込められている写真。それらがストーリーを構成していたり、おもしろく相反することで、第三者(今回の場合は審査する僕)の目をひく。そうした構成力も、自分の写真を見返すことで鍛えられていく。
多くの作品の中から選び抜いて賞を授けるには、ただきれいだとかうまいというだけではない、何かが必要になってくる。入選した12点はその何かが審査する僕に届いた作品で、後から思えば他に似た作品がなかった。今回は全体のレベルが高く、一次審査で外した作品の中にも「これ、クラブハウスで飾ってほしいなぁ」と思う作品はたくさんあった。入賞と選外は僅差といってもよく、審査員が違っていたら結果も大きく変わったかもしれない。
>>ウェブサイト(2023年2月16日公開予定)には入賞作品12点と選評も掲載されており、僕がなぜその作品を選んだのか、ひいてはいい写真に必要な要素は何かがおわかりいただけると思う。と同時に、ぜひ四谷でプリントにも触れていただきたい。同じ写真をウェブサイトで見るのと、壁に掛けられた額装で見るのとでは印象が違う(はず)。そしてたぶん行われると思う「PENTAXフォトコンテスト2023」に向けて、PENTAXで力作を撮影してください。
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