カメラを手にしているとき、光に照らされた明るいところに自然と目が向きます。暗いところは見づらいからだと思うのですが、均一に光が当たっている場所は見向きもしません。「陰」が明るいところへ視線を導く効果があるのでしょう。フォトスクールで「光と陰」を課題にすることがあります。意識するのは山陰地方の「陰」のほうだと伝えても、ほとんどの人が地面に伸びる影などハイコントラストな写真ばかりを撮ってきて提出します。分かりやすく目に留まりやすいからなのでしょう。「影を撮る」で「撮影」なのに、私が大切にしているのは「陰」のほうです。「陰影」と言うとどっちつかずな感じがします。英語だと「shadow」と「shade」を使い分けるのでしょうか?

写真を光で描く意識は、撮影スタジオやカメラマンのアシスタント時代に芽生えました。そのころのエピソードをこの連載の第1回でも紹介しましたが、小学4年生くらいから写真を撮り始め、写真学校にも通ったのに絞りやシャッター速度などの理屈ばかりで、それまで光で描くなどと考えたことはありませんでした。とはいってもアシスタント時代はストロボ撮影が中心だったので目で見て学ぶというより、単体露出計でライティングを数値化し、頭の中で光と陰に変換する感じです。もちろんハイライトとシャドウだけでなく、その中間も細かく数値化し、緩やかにしたり急にするなど光の変化をコントロールします。絵筆で描くのではなく、折れ線グラフを作成するような脳内イメージです。

ポラロイドやフォトラマといったインスタントフィルムでテスト撮影する余裕があればライティングをその場ですぐに可視化できるのですが、実際の現場ではそれができないことが少なくありません。例えば雑誌の表紙などで芸能人が被写体の場合、与えられた撮影時間は数分と非常にタイトなケースもあります。顔の凹凸は人によって当然違うので、インスタントフィルムの仕上がりを見てライティングなどを手直しできれば良いのですが、それを確認する前に撮り終えなくてはいけないことも。そのため光をただ数値化するだけでなく、被写体の姿形、色の濃淡、背景とのバランスなどいろいろなことを計算に入れてライティングを組み立てる必要があります。デジタルカメラを使えばそのような手間や不安は払拭できますが、フィルムカメラ全盛の時代にそのような経験をたくさんできたことが今の作品制作にとても役立っています。

アシスタント時代はスタジオだけでなく、屋外での撮影もたくさんありました。天候に左右されるし、機材の移動なども大変なのであまり好きではなかったのですが、撮影する場所や光の選択、レフ板を使った補助光などスタジオ撮影の延長に感じられました。光を作ることが光を読むことにもつながり、現在のデジタルカメラでの撮影、RAW現像やフォトレタッチとの連携に生かされています。暗室やパソコンでの後処理での気づきを撮影にフィードバックすることも大切です。まだカメラ内RAW現像での試行錯誤の段階ですが、PENTAX K-3 Mark III Monochromeを使いこなすためにそのあたりを今トライしているところです。

広告や雑誌など紙媒体の仕事では、デジタルカメラを使う以前はカラーポジフィルムでの撮影がほとんどでした。そのため後処理でどうにかするなど考えたことはありません。写真は光で描くものだから、後からたくさん手を入れるのはけしからん!などとは言いませんが、そのころの影響でできるだけ撮影で完結させたいという思いが今も強いです。私自身の作品制作のポリシーでもあります。カラーネガフィルムやモノクロフィルムで撮影したときは、最終的にプリントに落とし込むときにもちろん手が入ります。私の場合、カラーポジフィルム、カラーネガフィルム、モノクロフィルムでは光の読み方や露出の考え方などがそれぞれ異なります。PENTAX K-3 Mark III Monochromeではモノクロフィルムでの撮影に近い感覚で組み立てようとしています。

例えば風景撮影では、レフ板で補助光を当てたり思うようなライティングができないので、理想の調子で描ける季節、天候、時間などを吟味することになります。偶然イメージした光に出合うこともあれば、何度も通ってようやく撮れることも。ストロボやレフ板であの部分にだけ光を当てたいと願うと、雲の切れ間から光が差し込んだこともありましたが、後処理で明るく持ち上げればいいやと最初から安直にシャッターを切ることはありません。プリントに落とし込むときに焼き込んだり覆い焼きをしたり微調整しますが、何でもありにならないようにできるだけ撮影のときにイメージに近づけるようにしたいのです。コントラストを付けたいのなら明暗差を生かしたり、濃いものと淡いものを組み合わせて画面構成を決めるなど、カメラの設定や後処理でのコントラスト調整以前にやるべきことがあります。反対にハイライトが飛んだり、シャドウがつぶれたりしやすいときは、できるだけダイナミックレンジに収まるような切り取り方の工夫も必要です。

ヒストグラムを画面構成や露出判断の参考にするために、PENTAX K-3 Mark III Monochromeでもライブビュー機能を利用しています。ミラーレスカメラと同じような撮影スタイルになるわけですが、明暗差が極端であるなどハイコントラストになる光線状態や画面構成では、カスタムイメージの「スタンダード」でもハイライトに露出を合わせるとシャドウが暗くなり、その部分の様子が分かりづらくなります。好みの調子が得られるようにカスタムイメージをカスタマイズすると、ますますその傾向が強くなります。カスタムイメージを「ソフト」にしてもあまり改善されず、やはり光学ファインダーで撮るほうがそのあたりのストレスが少ないようです。最近では光学ファインダーにヒストグラムを表示できないの?と思い始めています。