約二ヶ月ぶりの休日である。
個展にグループ展の準備と開催、さらに会期中には一週間通しでの撮影ということで体力も限界。写真に写る笑顔には達成感とともに「疲労」の二文字がべったりと張り付いているようだ。
にもかかわらず写真展終了後も宴会を繰り広げた翌日、K-3 Mark III を持って 近所へ散歩 に出ることにした。いかに撮影で疲労しようとも、わたしにはどうやら写真を撮ることによってしか癒せない類の疲労というものがあるようで、そんなとき K-3 Mark III はよく効くのである。
おなじみの FA43mmF1.9 Limited を装着して、近くの町中華へ。夫が窓枠に置いたサングラスをまずは一枚。なんてことのないシーンだが、この日常を味わう余裕をなにより欲していたのかもしれない。素通しのファインダーはなんて気持ちがいいものなのだ、と改めて思う。仕事で使用するカメラはほぼ100%ミラーレスカメラ。EVFが進化したとはいえ、一週間毎日何時間もEVFを覗いて撮影していたら眼精疲労にもなるというもの。まずはこのクリアなファインダーで目の疲れを癒そうではないか。
サーフ系のイベントが開かれているらしい、ということでそのまましばらく歩いて県立公園へ向かう。ここは小さいながらもアトラクションがあり、その牧歌的な光景にはどこか懐かしさを覚えるものだ。カラーモードは日頃から使用している「里び(SATOBI)」をベースにしたもの。柔らかな色調と穏やかなコントラストが気に入っている。
そういえば近所に住む友人にしばらく会っていないね、元気かなぁという話をしながら歩いていると「大門さん!」と呼ぶ声。まさか、と思い振り返るとたったいま話題にしていた当人であった。噂をすれば、とはよく言ったものである。近々にビールを飲む約束をして友人はサーフボードを自転車に乗せてそのまま浜へ向かった。今日は多少波があるようだ。サーフィンから遠のいてしばらく経つが、なにも考えずにボードにまたがって海に浮かぶのは、なんとも気持ちのいいものである。
サーフカルチャーが定着しているこの地域ではフラダンスのスタジオも多いようで、イベント時には子供からシニアまで、鮮やかな衣装に身を包んだ姿を見かけることも多い。前日は荒天だったが、この日は爽やかな初夏の陽気。水分を含んだ芝の感触はさぞ心地よいことだろう。
昼どきということもあって、園内のフードトラックはどこも行列。夏の装いの女性が急ぎ足で目の前を通り過ぎた。そうか、このところの雨空と忙しさですっかり忘れていたがあと一ヶ月もすれば夏なのだ。毎年夏の暑さには辟易しているくせに、夏と聞くと心が浮き立つのはなぜなのか。夏はとりわけビールがおいしく感じるから? いや、ビールは年中おいしいものだ。茅ヶ崎に越して10年が経過するが、明け方や日暮れどきに浜へ出る楽しみというのは夏はとりわけ大きいものである。
園内を抜けてそのまま浜へ出る。久しぶりの晴天ということもあって、浜ではバーベーキューや子供向けのサーフスクール、それからもちろんサーフィンなど、思い思いに過ごす人々の姿で溢れかえっていた。「ようやくコロナ前の浜の姿に戻ったね」と夫がポツリと言う。 返事をする代わりに首から下げた K-3 Mark III のシャッターを軽快に切る。いい音だ。これは夏を呼ぶ合図か、疲れが飛び去った感触か。 ビールを片手に、今年こそのんびりと夏を待ちたい気分である。