ふと、写真を始めた頃のシンプルな機材で、無心に撮り歩きたくなる時があります。デジタルカメラが進化し、便利なズームレンズが当たり前になった今だからこそ、あえて立ち返りたいスタイルがありました。それは「一眼レフに、単焦点レンズを数本だけ」で撮り歩く、というあの頃のものです。デジタルカメラが登場する何年も前のお話で、もちろんフィルムカメラだったので当然フルサイズです(笑)
今回、その「原点回帰」の相棒に選んだのは「K-1 Mark II」。そして単焦点レンズの「HD PENTAX-FA 50mmF1.4」と「HD PENTAX-FA 35mmF2」の2本です。
行き先は、川崎市の生活に寄り添うように流れる「二ヶ領用水」。登戸駅をスタートし、多摩川の風を感じながら、用水路沿いを久地の円筒分水まで歩くフォトウォークに出かけました。


まずは「HD PENTAX-FA 50mmF1.4」を装着し、登戸駅から多摩川の河川敷へ向かう前に寄り道です。昭和っぽいレトロな装飾で目を引くビル「登戸ゴールデン街」でウォーミングアップです。昔懐かしい雰囲気に通行人も思わず足を止めていました。その様子を50mmの自然な目線で写し止めます。


南武線の踏切を渡って多摩川の土手に出ます。土手を横切る小田急線の高架下から、対岸の東京を狙いました。「K-1 Mark II」のファインダーを覗き込んだ瞬間、ハッとさせられました。明るく、広く、隅々までクリアな光学ファインダー。それを通して見る初冬の光は美しいですね。空気の透明感まで伝わってくるようです。ミラーレスのEVFに見慣れた目には、この「生きた光」がとても新鮮に映りますね。


土手下にあるコーヒーショップに立ち寄りました。お昼前なので暖かいカフェオレをオーダーし、テラスで土手を行き交う人々を撮りました。隣りに座った写真好きなイギリスの方と撮影場所などの情報交換をしましたよ。


その先で多摩川と別れて、宿河原堰から「二ヶ領用水」に入ります。この用水路はかつて 「稲毛領」と「川崎領」の2つの地域に水を供給することからこの名が付きました。今は清らかな水が流れていますが、約200年前は水を巡って大規模な争いも起きたそうです。それを終結させた場所に向かって流れとともに歩いて行きましょう。レンズを「HD PENTAX-FA 35mmF2」に交換して、岸辺の歩道を入れて撮ってみました。


多摩川から分岐した流れは、両脇に桜の木を従えて溝の口方面に進みます。のんびりと「K-1 Mark II」のシャッターを切りながら歩くと、昔の撮影スタイルを思い出してきます。宿河原駅までの標識を撮りましたが、色づいた木の葉がいい感じになりました。


「標準」と呼ばれる50mmの画角。 一歩寄れば被写体の存在感が際立ち、一歩引けば周囲の状況が写り込む。この「寄ったり引いたりで効果を変化させられる」奥深さこそ、写真の基本を教えてくれたレンズだったなと、改めて実感します。水の中で藻が気持ちよさそうに揺れています。光学ファインダー越しに見ると肉眼より美しく感じられます。


JR南武線を二ヶ領用水がくぐる部分に来ました。このガードは高さがとても低く、大人だと屈まないと通り抜けることができません。ちょっとした珍スポットですね。


「35mm」という画角は、私にとって「歩く」リズムに最も近いレンズです。 パースがつきすぎず、かといって切り取りすぎない。この「あまり広すぎない」絶妙な画角が、目にした光景を素直にフレームに収めることを許してくれます。カラフルな落ち葉を見て「ああ、もう冬なんだなあ」と感じました。


K-1 Mark IIのフルサイズセンサーは、「50mm」が持つ開放F1.4の柔らかな描写と、光のニュアンスをしっかりと受け止めてくれました。優しく大きなボケが印象的です。


ズームリングを回す代わりに自分の足で前後左右に動く。その行為が、ファインダー越しの世界に没入させてくれる。単焦点レンズとの散歩は、やはり楽しいものです。こんな何気ない光景も面白く見えてきますね。


途中、川崎市緑化センターを過ぎ、東名高速道路をくぐり抜け、久地駅をやり過ごして、ようやく目的地の「久地円筒分水」に到着しました。円筒分水は農業用水を公平に分配するために作られた、機能美にあふれる土木遺産。 サイフォンの原理で水を真ん中から噴き上げ、円の外周から溢れさせる仕組みです。水流の速さに関係なく、「円周の長さの比率」だけで公平に水を分配できます
その独特な造形を、35mmでダイナミックに写し取ります。素晴らしい技術ですね。これが完成して水を巡る争いは鎮静化したと言われています。


登戸から円筒分水まで。あっという間のフォトウォークでした。電柱には昭和20年代にここで泳ぐ子どもたちの写真がありました。

今回、「K-1 Mark II」という「フルサイズ一眼レフ」の「光学ファインダー」を通して見た初冬の光と、「50mm」、「35mm」という「単焦点」で切り取った世界は、私が写真を始めた頃に感じた「撮る悦び」そのものでした。
ファインダーを覗き、光を読み、構図を決め、シャッターを切る。 そのシンプルな行為が、いかに豊かで楽しいものだったかを思い出しました。
デジタルになっても、ペンタックスのカメラとレンズは、その「写真の原点」とも言える大切な感覚を、いつでも思い出させてくれる。そんなことを強く感じたフォトウォークでした。またこのチームでブラブラと撮り歩きたいですね。