2025年は K-3 Mark III Monochrome ではじめたので、2025年のおわりもモノクロームで締めくくるのが筋でしょう、ということで年末の気配も色濃くなってきたある日、K-3 Mark III Monochrome を携えて横浜へと向かった。
そういえばはじめてこのカメラで撮影したのも横浜だったっけ、と思い出す。あれは2023年の桜の頃だから、この K-3 Mark III Monochrome も発売からすでに2年半という月日が流れたのである。まったく、年々時間が過ぎるのが早くなって嫌になるが、写真だけはどんなに撮ってもまったく嫌にならない。何事も長続きしないわたしが、写真だけは続けていられるのはただ「楽しいから」、その一言に尽きるだろう。
持参したレンズは HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WR と HD PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited の2本。どちらも使用するのは久しぶりのレンズである。K-3 Mark III Monochrome で使用すると約32mmと約118mm相当の画角になるため、我ながら極端なチョイスだったかなとカメラバッグにレンズを入れながら思ったが、たまにはいいだろう。
普段、横浜元町周辺へは京浜東北線の石川町駅から向かうのが常だが、今回はプチトリップ気分を味わうため、横浜駅東口からシーバスで山下公園へ向かうことにした。なお、前回「基本的にカスタムイメージをハードに設定している」と申し上げたが、今回はスタンダードに設定してコントラストを+3にセットしている。その日の気分でカスタムイメージを変えられるのが楽しい。
まずは HD PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited を装着してシーバスで到着した山下公園を散策。そういえば以前は氷川丸のチェーン部分にカモメが連なっていたものだが、最近見かけないように思うのは気のせいだろうか。海面を覗き込むとカモが3羽、氷川丸の周辺をゆらゆらと漂っていたのでまずは1枚。なるほど、モノクロームで水面を撮るというのは面白い。やわらかなモノクロが水墨画のような雰囲気をたたえているようで、これはちょっとクセになりそうだ。
今年はやはり暖冬なのだろう。11月下旬となっても園内のバラ園もまだまだ見頃である。蕾というのは奥ゆかしくていい。姿の綺麗な個体にピントをあわせてシャッターを切ると、背景の氷川丸がとろけるように姿を消した。コンパクトなレンズながら、望遠といってもいい画角と開放値F1.8の威力を見せつけられた気になるというもの。77mmはリミテッドレンズのなかでも特に素直な描写だと思っているので、このようなモチーフは得意である。このレンズで撮りたい被写体があれこれ頭をよぎる。
さて、これから街中へ移動するのでレンズを HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WR に付け替える。以前はさほど得意でなかった30mm前後の画角だが、主題を明確にして撮れば主役を引き立てつつも、周囲の状況もしっかり写しとってくれるナチュラルさが最近は気に入っている。意図しないものがほどよく入り込んでくるのが「写真らしい」画角ともいえるだろう。
ホテルニューグランドの脇を通って横浜中華街方面へ。そういえば幼少の頃、伯母に連れられてはじめてシーフードドリアを食べたのもここのレストランだったっけと口の中でその味を反芻していると、前を横切るカップルとカラスが1羽。歪みのない直線が気持ちいいではないか。あまり日差しのない日だったが、豊かなグレートーンも美しい。
この日は土曜日ということもあり、いつも以上に混雑する中華街。いくら広角寄りであってもこれではスナップできそうもない、と、たまらず脇道へ逸れることに。定番の場所で定番でない被写体を探すのもスナップの醍醐味だと思っているので、これはこれで楽しいものだ。歩いて、見て、また歩いて、すぐさま撮る。つくづくスナップとは体力と反射神経が鍛えられるものである。
しかしながらそんなことを繰り返していると当然ながら消耗するし喉も乾く。通りがかるたびに気になっていた店に入り、腰をおちつけると思った以上にフォトジェニックな店内。ランチには遅く、バータイムにはまだ早い時間帯ということもあって、のんびりとした空気が漂っていた。何枚か撮らせてもらうが、改めてHD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WR はパースのつき方が自然で非常に好みである。注文したのはもちろんビール。レンズ前7cmまで寄れるということもあって、テーブルフォトにはやや大きめながらもオールマイティに活躍するレンズであることを実感する。
すっかりくつろいでしまい、外へ出ると早くも日が翳ってきた。秋の日はつるべ落としというが、冬に入れば一日があっという間に過ぎてゆく。モノクロ専用機の良さというのは、第一に日中のグレートーンの美しさが挙げられるが、高感度耐性に優れているので夜のスナップも存分に楽しめるというところにもある。きらびやかな街を横目に、目についたのはトラフグの群れ。そういえば酒場の予約時間までもうすぐだ。夜のスナップは飲んだあとの楽しみにとっておくことにして、酒場へと急ぐことにしよう。2025年のコラムはこれまで。皆様、どうぞよいお年を。







