PENTAX MZ-3を防湿庫の奥から久々に引っ張り出してみた。何年か前にもふと思い出してシャッターを切ろうとしたところ、あのやかましいシャッター音が聞こえない。はて、と思いレンズを外してみたところ、どうやらミラーが上がったまま動かなくなってしまったようだ。聞くところによると、MZシリーズにはありがちな「持病」なのだとか。持病ならお付き合いする以外の選択肢はない。修理業者を紹介してもらい、再び軽快に動き出したMZ-3だが、しばらくすると再び防湿庫で出番を待つことになった。今回はそれ以来の登場である。やあ、久しぶり。

MZ-3との付き合いは長い。学生時代、卒論を執筆するため必要に駆られて父に選んでもらったものだが、当初からMZ-3との相性は非常に良かったように思う。写真の楽しみを教えてくれたのもこのMZ-3であり、それから2008年までのほとんどの場面をこのカメラとともに過ごしてきた。

さて、2026年のある日、関東地方では毎年一日は必ずある大雪の日となった。これ幸い、とMZ-3にKODAK 400TXを装填して雪景色のなかへ。レンズは smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic をチョイス。早速海辺へ出かけると、すでに5cmほど降り積もっていたものの、砂浜はこれまでの太陽の熱の蓄積があるのだろう、黒いままである。
ニュートラルな、ごく薄いグレーの空を反射した海面も当然同じ色。空と海の境目のない日というのは、冬の気嵐が発生した日だったり、春の霧の日だったり、はたまた台風のあくる朝だったりとさまざまなシチュエーションがあるが、いずれも不思議な気配が漂っていて心惹かれる光景である。

漁師のサミーがこの世を去ってから陸に置かれたままの船にも降り積もってゆく。この船が使われなくなって既に久しいが、漁網の網目に雪が沈み込むようにたわんでいるのを見て、あらためて彼が去ってからの時間の長さを思い知らされるものだ。

その数日後、再び浜へ。雪のふわりとした質感を出すには smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic がちょうど良かったが、MZ-3にはやはりsmc PENTAX-FA 43mm F1.9 Limitedがしっくりくる。なによりこの43mmという画角が好きだ。雪の日とはうって変わって暖かな日差しの日には Kodak PORTRA160 がよく似合う。いつものスーパーまでの道のりをほんの少し遠回りするだけで、ちょっとした旅気分になれるというもの。カメラと海は相性がいい。それにほら、MZ-3の派手なシャッター音も波音が吸収してくれるのだ。

そういえばMZ-3で積極的に夜のシーンを撮ったことがなかったかも、とCP+の帰り道に酔いに任せて野毛の街をスナップ。さすがにISO160のフィルムでは千鳥足も手伝って大きくブレた写真も量産したものの、ブレ写真を愛でるのもまた一興。たまにはMZ-3を持ち出して、ただ楽しみのためだけに写真を撮るのも、写真を職業とする身には必要なことなのかもしれない。

またあくる日、まだフィルムが残っていたので近所をぶらぶら。スーパーへ立ち寄ると駐車場に独特のフォルムの車。シトロエン2CVだ。思わずその美しいカーブにレンズを寄せる。そういえば、と2000年当時のフォルダを漁るとあったあった。スペインのグラナダ郊外で佇んでいた鮮やかな赤の2CV。いくら時間が経過しようとも、やはり愛着のあるものは受け継がれてゆくものなのだ。このMZ-3も、これからもずっとわたしの手の中にあるのだろうと思う。