「写真家の思点」で、作品を掲載しましたが、ここでは撮影時の具体的なコミュニケーションについての話をしてみようと思います。

>>写真家の思点『肖像』

 

私がポートレートを撮るとき、撮影イメージももちろん重要ですが、まず最初に意識することはモデルが自然体であるかどうかです。なぜ自然体である必要があるかと言えば、プロのモデルと言っても、中には事務所に所属したばかりで撮影経験が少ない方もいます。

こんな時、撮影イメージを強引に押し付けようとすれば、表情が強張ってしまったり、なんとなくで無理にポーズを取ってしまう事もあるので、不自然になりがちです。普段、自分がどのような姿勢で立ち、どのように呼吸をしているのかを忘れてしまうのです。

また表情についても、目を瞑らないよう意識するあまり、逆に目を見開いてしまっていないか、口を固く閉じてしまっていないか、そういった所にも意識を向けます。これは外国人モデルでもあっても同じことが言えます。

 

写真1

カメラ:PENTAX 645Z レンズ:smc PENTAX-FA645 45mm F2.8、シャッタースピード1/100 絞り:F4.5 ISO感度:200

 

外国人モデルとコミュニケーションが取れれば、それに越したことはありませんが、中には英語圏ではない10代のモデルで「昨日ウクライナからやって来ました」なんて事も珍しくありません。

はじめて訪れる国で、はじめての撮影、そんな不安な心境の中、撮影者との会話が互いに曖昧な英単語では、コミュニケーションで解決できることなど極めて少ないと言えます。

 

そんな状況の中でも有効なのは、壁に寄りかかってもらったり、寝そべったりしてもらうなど、どこかに身を預けてもらうことです。そうすれば、言葉をかけるよりも簡単に力を抜く事ができ、撮影の進め方次第では普段以上の表情を引き出す事もできます。

洋楽のヒットチャートをランダムで流して雰囲気づくりするのも良いでしょう。

 

撮影者として、モデルを強引に支配しようとせず、リラックスできる状況を作り出すことが最初のアプローチです。

 

それでも求めている表情がすぐに出せるとは限りません。

写真1ではまだ硬さが残っているように思えます。

 

簡単な褒め言葉をかけながらシャッターを切り、時折、ファインダーから目を外して、モデルと笑顔でアイコンタクトを取り、ノーファインダーで撮ったりします。

そのうち、知ってる曲が流れ出したりすれば、モデルは体を揺らして、歌を口ずさみ、自らの力で、リラックスしていきます。

 

写真2

カメラ:PENTAX 645Z レンズ:smc PENTAX-FA645 45mm F2.8 シャッタースピード1/100 絞り:F4.5 ISO感度:400

 

写真2は、スタジオのペーパーバトンを下げ、両手で掴んでもらっています。

表情も自然で、佇まいも良いバランスになりました。

 

このような手順で撮影していけば、初心者のモデルでも撮影が終わる頃には、別人のように成長しているはずです。