情報社会の現在、撮影においてもインターネットやSNSにはたくさんの情報があって利用している人も多いだろう。短期間に効率よく撮影しようと思えばそれも重要に思われるが、逆に情報が写真をつまらないものにしているようにも感じている。インスタ映えに例えられるような景色は、あまりにもたくさんの人が同じ写真を撮影してSNSやいろいろなシーンで目にすることが増えてしまったために、本来の景色のすばらしさやありがたさが失われてしまっているように思う。どんなにすばらしいものであっても飽きるほど見てしまったら、自分では直接見ていないのにすでに体験したような気持ちになってしまい、その本来の良さを感じることができなくなってしまう。

撮影によってアプローチを変える

私が撮影をするときには、「仕事」と「自分の作品」で被写体へのアプローチの仕方を使い分けている。雑誌などのハウツー記事を書くときは、依頼から〆切りまでの時間が短いことが多く、そのようなときにはネットの情報などを活用して、効率よく撮影する。また、みんなが撮りたいものを素材とすることで記事への感心を高めたり同じような体験をしてもらったりすることも考慮している。

しかし、自分の作品を撮影するときは、できるだけ自分で判断し、他の情報は利用しないようにしている。イチから被写体を探して出会い、撮影することで、より自分の視点を写真に反映させることができると考えている。もっとも、まったくでたらめに動くわけではなく、地図で大まかな目的地を決めたり撮影地の資料を読むような基本的な知識を仕入れたりして、そこから自分の目で被写体を探していくのだ。ときには、出先で良さそうな場所をみつけて飛び込みで撮影をしてみることもある。でも、そのおかげでまったく予想していなかった作品が撮れることもあって、そのようなときの喜びはいっそう大きなものとなる。また、同じ被写体を自分の目で見ていくことで被写体への理解は深まっていき、その経験は勘をいっそう正確なものに磨き上げてくれ、情報に頼る必要はなくなっていく。

このような考え方に至ったのは、編集者H氏の方のおかげだ。

今だからこそ意味がわかる(学生時代の体験)

まだ学生の頃、写真雑誌の編集部に出入りさせていただいており、当時憧れていた写真家の特集を担当した編集者H氏がいた。その編集者H氏に「あの特集で撮影していた場所を教えて欲しい」といったところ、「連れて行ってもらったから忘れちゃったなぁ~」という感じで、なんとなくはぐらかされた感じだった。本当に分からなかったのかもしれないが、今になって思うと「プロになりたいのなら人と同じ写真を撮っても意味がないから、自分で撮るものは自分で探さないといけないよ」といわれていたのではないかと思う。今ではその意味がよく分かる。

自然を被写体とした場合、特に風景では撮れる場所が限られてしまって、結果的に他人と同じ写真になってしまうことがあるのは仕方ないと思う。それでも、自分の目で景色を見て感動と共にシャッターを押したことが重要で、その作品には感動も写り込んでいることだろう。しかし、情報を頼りにして自分でその景色を見る前から「この場所ではこう撮らなければいけない」という暗示にかかってしまうと、表面的にはうまく撮れていても他人の写真のコピーでしかなく、感動が伝わらない表面的にきれいなだけの写真になってしまうのではないだろうか。

急に戻ってきた夏空。雲の形がおもしろく、少し色が変わってきているモミジを画面に入れて季節の変化を感じられるような写真としてみた。雲だけだと変化がないが、建物を入れたくなかったので、このような前景を入れることによって自然らしい雰囲気でまとめてみた。 絞り:F6.3、シャッター速度:1/250秒、ISO感度:200、ホワイトバランス:太陽光、カスタムイメージ:鮮やか

本当の「自分の写真」

情報を頼りにして他人と同じ写真を撮ってくるというのは、みんなが一緒でないと安心できない日本人らしい発想かもしれないが、自分が見ているものに自信が持てないということでもあるだろう。

実際は同じ場所にいても興味や感性が違えば自然と目に入ってくるものも違ってくる。結果的に人と違う被写体を撮ることになるのだ。他人と会って面白いのは、自分と違うところがあって新鮮に感じて刺激を受けられること。写真も同じで、他の人と違う写真が撮れるとそれは個性になって多くの人があなたの写真だと言ってくれるようになる。自分の好きな被写体を自信持って撮影することで、個性が生まれてくるのだ。その被写体をどう撮るかという次の課題は生まれてくるが、それも繰り返し納得するまで撮影してみることで解決できるはずだ。自分の好きなものを撮り始めると、次々に新しい被写体に出会えるようになる。自分で被写体をみつけていくと、その経験から被写体に出会えるところが分かるようになるからだ。そうすることでほんとうに人の力に頼らない「自分の写真」を撮ることができるようになっていくのではないかと思う。あなたも「自分の写真」、撮ってみませんか。

気温が上がり陽射しも強いので、ハトも暑くて日陰に逃げ込んでいた。日陰にいる雰囲気を伝えるためにハトがシルエットになるよう撮影している。このようなときは背景に露出を合わせるようにするのがポイント。また、被写体の形が分かりやすくなるよう気をつけよう。 絞り:F6.3、シャッター速度:1/250秒、ISO感度:800、ホワイトバランス:太陽光、カスタムイメージ:鮮やか

 

気温が高い方が活動しやすい昆虫もこの日が暑すぎたようだ。カマキリが葉の裏に隠れているのをみつけ、フィッシュアイズームで周りの雰囲気を取り込みながら撮影した。太陽を画面に入れたことで、夏の暑さが伝わってくるカットにすることができた。 絞り:F5、シャッター速度:1/500秒、ISO感度:200、ホワイトバランス:太陽光、カスタムイメージ:鮮やか

 

セミの鳴き声に引き寄せられいろいろな場所で撮影したが、葉にとまって鳴いていたこのカットが一番セミの姿が分かりやすかった。めいっぱい望遠の画角で撮影しているが、木の幹が目立つので、手前にあった葉を前ボケとして幹を隠すようにすることでバランスの良い構図となった。 絞り:F4.5、シャッター速度:1/160秒、ISO感度:1600、ホワイトバランス:太陽光、カスタムイメージ:鮮やか

 

掲載写真について:今回は初めて訪れた「洗足池公園」で撮影。PENTAXミーティング100周年スペシャル 東京会場での私のワークショップ開催地とした場所だ。事前に公園の様子をネットで見て、充分撮影できるとは思っていたが、ちょうど上京のタイミングがあったので自分の目で見ておこうと撮影を試みた。

都会の池がある公園は整備されすぎていて、被写体が限られることが多くちょっと心配していたものの、思っていた以上に撮影ができて楽しかった。花が少ない時期ということもあって地味な感じだが、私の場合は“いきもの”がどうしても目に入ってくるので、そのあたりを中心に撮影してみた。