>>前回の記事で、愛用するレンズについて少し触れた。僕はK-3 Mark IIIではもっぱらHD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WRを愛用している。HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limitedも持っており、キレキレな描写はとても気に入っているのだが、単焦点一本勝負をするにはちょっと画角が広い。僕の好みの焦点距離はAPS-Cなら30~35mmあたり(フルサイズ換算で45~52mm相当)。だからDA20-40mm Limitedを使うときはズームリングを30mmあたりに合わせ、ファインダーをのぞきながら微調整することが多い。あるいは遠近感を詰めたければ40mm、空間を引きで収めたければ20mmにセットして、あとは自分の足でアレンジする。2倍という低いズーム比が、街角を歩きながら撮るときは身軽さにつながるのだ。
そんな僕の手元に今、HD PENATX-DA★16-50mmF2.8 ED PLM AW(呪文のように長いので以下DA★16-50mm)がある。フルサイズ換算で24~75mm相当、ペンタキシアン待望の標準ズームレンズである。その試作品をお借りしたのだが、箱を開けて「えっ!こんなに大きいの?」というのが率直な第一印象。しかしK-3 Mark IIIに装着するとバランスは悪くない。悪くないどころかK-3 Mark IIIに装着して構えてみると、DA20-40mm Limitedとはまた違う一体感がある。グリップを握る右手と、レンズを構える左手がかなり接近するのだが、両手を対にしてホールディングしているような感覚なのだ。手の大きさに由来する個人差や好みもあるだろうが、これはいい写真が撮れそうな気がする。というわけで今回掲載している写真はすべてK-3 Mark IIIとこの新しいDA★16-50mmで撮影している。
この「撮れそうな気がする」というのは、ことスナップ的な撮影にはとても重要だ。シャッターチャンスとはいわずもがな撮影のベストタイミングだが、それに気付いてからカメラを構えても間に合わない。その瞬間には構図、ピント、露出もろもろの操作が済み、あとはレリーズボタンを押すだけでなければならない。そのためには視覚を研ぎ澄まし、これから起こることを予測する必要がある。僕自身、撮れそうな気がするときは一手どころか二手三手先まで読める。ただカメラやレンズにどこか不満や不安があると、先のことまで考えられなかったり、考えても読みが外れたりする。
以前は街を歩いて撮影するワークショップで講師を務めることも多かった。そのとき僕が時折やっていたのは、受講者のズームリングをテープで固定してしまう“焦点距離縛り”である。焦点距離の持つ意味をある程度理解している人は、被写体を見つけるとまず適切な距離をとろうとする。しかし理解できていない人はなんとなく立ち止まり、ファインダーをのぞきながらズームリングをぐるぐる回している。そんな人に僕は声を掛けるのだ。「焦点距離は何mmですか?」。えーと…といいながらズームリングの指標を確認したら残念、あなたのズームリングはぐるぐるに縛らせていただきます。
固定する焦点距離は自分で決めてもらうこともあるが、大抵の人はわからないというので、行動や表現意図を見聞きして僕が決める。標準ズームならまずは50mm相当、すぐ被写体にがぶり寄ってしまう人にはあえて35mm相当にしてみたり、逆に絵作りが散漫な人には中望遠にしてみる。要はズームの代わりに自分の足で動いてもらうことが目的。その状態で1時間ほど撮影していると、自分が前後するだけでも構図に変化がつけられることと、逆に前後するだけでは変わらない遠近感がわかってくる。
そういう僕は自分自身が動きつつ、カメラを顔に近づけながら左手でズームリングを操作する。そして自分がイメージしている焦点距離付近へ調節していく。だからファインダーをのぞいたときはすでに構図が8割方できあがっている。気にすべきはファインダーの縁、とりわけ中心から遠い四隅。被写体のどこまでを入れ、どこからを外へ追いやるかを瞬時に判断する。このとき「撮れそうな気がする」レンズならば、思い通りに操作ができ、実際に狙った写真が撮れる。
普段使っているDA20-40mm Limitedと比べると、DA★16-50mmは広角側の画角がひと回り広がるのもありがたいが、作画的には望遠側が10mm伸びたことが大きい。60mm相当では肉眼よりやや詰まった程度の遠近感が、75mm相当では程々に圧縮される。街角で気になったものを切り取るときに、この15mmの差は大きい。
もちろんDA20-40mm Limitedのコンパクトさは大きな利点であり、焦点距離とサイズのどちらを取るか、ペンタキシアンは日々新たな悩みと向き合うことになるだろう。また先代のDA★16-50mmを持っている方は買い替えという別の悩みがあると思う。でも最善の結果とは悩みの中にある、と明治生まれの僕の爺さんも生前言っていたような気がする。……とまあ、本稿は新しいDA★16-50mmを購入するにあたり、妻へのプレゼン(すなわち言い訳)材料としてまとめてみました。よろしければ皆さんも参考にしてください。ご武運を。
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