「Evidence」のページで、HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WR(呪文のようなので以下21mmF2.4 Limited)の話をさせていただいた。今回は文章で綴るとともに、動画でも話している。三重県の伊勢・志摩・鳥羽を2泊3日で巡りながら撮影した6分43秒のロードムービー(っぽいレンズの話)、ぜひご覧ください。というわけでこちらでは没供養というわけではないが、ページや動画で使わなかった写真を。個人的には気に入っているが、レンズの性能を表す公式レビューには向いてないなぁ……というものや、後から見返すとこっちの方がよかったかも……というものもある。写真を選ぶということは撮るより難しいのである。
21mmなのに超広角っぽくないよね? と思ったあなたはペンタキシアン初段。なかなか鋭い。21mmF2.4 Limitedはフルサイズ対応のレンズだが、それをAPS-CフォーマットのK-3 Mark IIIで使ってほしい、というのがリコーイメージングからのリクエストだったのだ。他のメーカーならフルサイズで撮ってくれと頼むと思うのだが、こういう常識というモノサシで測れないのがリコーイメージング、そしてペンタックスなのである(褒め言葉です)。まあ作例を撮るというミッションを考えれば超広角の21mmより、広角でも標準に近い32mm相当の方が断然気楽だ。
だがしかし。
子供の頃は捨てられたものを拾って帰り、よく母に叱られた。今も何でもポイポイ捨てる妻に抗い、ゴミ箱の中身を回収してはよく妻に叱られている。そんなMOTTAINAIの精神を是とする僕にとって、光学設計者がシャープな像を結ぶのに苦労したであろうイメージサークルの外側など、惜しげもなく捨てるわけにはいかない。本来使える範囲の4割ちょっとしか使わないのは、希望小売価格19万8000円のうち約8万5000円しか使っていない計算になる…ような気がする。そういうケチくさい考え方をするとビジネスで成功しないとどこかのネット記事で読んだ気がするが、今となってはなるほど一理あると思う。21mmF2.4 LimitedをAPS-Cで使うことの贅沢さや釣果の大きさを3日間の旅で実感したからだ。
たとえば自動車だって、ほらこんなに広いんだぞ!と妻を説得して7人乗り3列シートのミニバンを買っても、いつも7人乗せて走るわけではない。そもそも7人乗りに7人乗るというのは結構息苦しいものだ。じゃあなぜ大きなミニバンが売れるかというと、必要以上に広いという余裕や安心感が求められるのだと思う。僕も免許を取ってから四半世紀、形状やパワーに差はあれど、小さな車を乗り継いできた。それを昨年思い切って人生初の3ナンバー、大柄なステーションワゴンに買い換えた。すると長距離の運転も楽チンだし、快適に車中泊ができたりして、今回の伊勢・志摩・鳥羽も楽に往復できた。ってあれ、何の話でしたっけ。
そうだ、フルサイズとAPS-Cフォーマットの話だった。もしその両方をお使いのペンタキシアンであれば、この21mmF2.4 Limitedは二刀流のレンズとして活用できる。たとえば300mmの望遠レンズをAPS-Cフォーマットで450mm相当にして使うというのもメリットは大きいけれど、別モノとして使えるというより、本来の機能が拡張したような感じ。それに比べると先発投手と指名打者ほどの違いはないかもしれないが、21mmと32mm相当では出番も結果もかなり違う。21mmはフルサイズでは使いこなしが難しい超広角レンズ。ただしこの焦点距離や画角が好き、あるいは得意、さらに必要という人には最高の相棒だと思う。それがAPS-Cに着けると32mm相当と、実用的で誰にでも扱いやすい画角が得られる。Limitedシリーズには31mmという焦点距離もあるので、なじみの深いペンタキシアンも多いと思う。まあ焦点距離の感じ方はフィールドや個人差もあるのだが、その曖昧さもまたレンズワークのおもしろい部分ではないだろうか。
実は今回の旅にはK-1 Mark IIも持参していた。HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AWを着けっぱなしにしていたが、下の1カットだけ21mmF2.4 Limitedにチェンジして撮影した。
この場面、まずはK-3 Mark IIIで撮っていて、その様子と写真は動画に収められている。しかし青空の下、潮風にたなびく大漁旗を真下から撮るとしたら、32mm相当の画角はいささか狭い。こういうときこそ超広角の出番だ。といってもレンズを交換したのではなく、カメラを交換したのだが。
そんなわけで基本的には32mm相当と50mmの2本を、2台のカメラで撮り分けた今回の旅だった。「Evidence」の動画では歩きながら出会い頭の一瞬を狙ったり、漁師さんたちの輪に入ってスナップするシーンがある。K-3 Mark IIIと21mmF2.4 Limited(=32mm相当の画角)の組み合わせは、そういった状況で僕が求めている軽やかさを発揮してくれた。
対して50mmは32mm相当に比べ、フレームに写り込む情報量が多くなる。するとどうなるか……という話は次回、K-1 Mark IIとHD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AWで撮った“後編・標準レンズの巻”で。なんだか本編のレビューよりレビューっぽくなってしまったので、ちょっと旅のエピソードも交えますか。
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