10月のお題は…『いのちの景色』

小林義明 師範

私の大きなテーマとなっている”いのちの景色”。これはいきものの姿だけを捉えるということではなく、「いきものとそのいきものが生活する場所や環境の雰囲気を一緒に捉えた作品」と考えてください。また、いきものに限らず木や草などの植物もいのちのひとつです。自然の景色はたくさんのいのちが集まって生み出されています。

 

 

小林義明 師範からの10月のお題は『いのちの景色』でした。
このお題に対して挑戦してくださった方の作品と、師範からの添削コメントを併せてご紹介します。

10月の前半は、いずれの道場も“門前払い”続出。今回こそはどなたかに“免許皆伝”が与えられるのか、はたまた“門前払い”となるか、ご注目です…!

>>小林 義明 風景・ネイチャー道場『10月前半分の結果』はこちら

10月の挑戦者その4:なかきょんさん

『出会いの瞬間』北海道美瑛町新区画ダム近くのヒマワリを撮影中に偶然出会いました。

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栃木県在住、男性。
PENTAX K-1 Matk IIとsmc PENTAX A★MACRO 200mm F4 EDで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

小林義明 師範からの添削コメント

 

北海道らしい景色の中にキタキツネ。コメントを見ると美瑛での撮影とのこと。美しい風景といきものの姿の組み合わせ、なかなか狙いがいいと思う。
だが、まだこれは完成されたイメージとはいいにくいのではないだろうか。撮影していたレンズが200mmの単焦点、さらにクロップもしていて可能な限り望遠の画角で撮影しようとした努力は認めたい。それだとしても、もう少しキタキツネの姿を大きく見せたかった。

それはなぜかというと、手前に見えている砂利道の明るいところがどうしても目立ってしまい、この景色のポイントとなっているキタキツネやヒマワリに視点が定まることなく手前に引き寄せられてしまうのだ。

偶然の出会いとあるので、このあとキタキツネは近づいてきてくれなかったことが想像されるが、それ故に完成とは言いがたい。このような景色のなかでキタキツネがもっと大きく写るイメージを抱きつつ、次の撮影に挑んで欲しい。もちろん、餌付けなどという手段には出ないようにしてほしい。

また、この大きさであっても画面下をカットするようにフレーミングすると空が入って広がりが出てくると同時に画面のポイント2点にも視点をむけることができる。そうすることで、全紙などに大きくプリントすれば景色の雄大さとポツンとこちらを見つめるキタキツネの姿を見せることも可能だ。作品展などを開催するときには、16:9の画面で画面下をカットすることで利用することができるカットでもある。被写体が小さいときは、どう画面構成すればそこに視点を向けられるのか、工夫してみよう。

10月の挑戦者その5:タケさん

『一輪の便り』川の浅瀬に一輪のサガリバナ。
咲く時期は終えたはずだが、まだ咲いている木が上流にあったようです。
この場所に流れ着いたこの花がまだ終わっちゃいないという事を教えてくれたような気がしました。

タケ
東京都在住、男性。
PENTAX K-5とsmc PENTAX-DA 15mm F4 AL Limitedで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

小林義明 師範からの添削コメント

 

浅瀬に流れ着いたサガリバナ、沖縄の夏の景色だね。サガリバナはブドウの房のようにたくさんの花がぶら下がるような姿をしていて、夜になると咲き朝になると散ってしまう一夜限りの花。ピーク時には川面一面に散った花が流れて、幻想的な景色を見せてくれる。
この写真は、時期外れに一輪だけサガリバナが流れ着いていたことで、作者はこの上流にはまだサガリバナの咲いているところがあると思いを馳せている。その狙いは明確でとてもいいと思う。

だが、その思いが伝わりにくくなってしまっているように思う。まずは、主役であるサガリバナにもう少し近づいて大きく撮影したい。サガリバナはけっこう大きいので、15mmでももう少し近づけると思う。また、背景の明るい中州が目立つので、ここは面積を減らしたい。横構図だとどうしても大きく入ってしまうので、縦位置にしてフレーミングするとどうだろうか。縦位置にするとジャングルの緑や青空も入って、より奥行きや上流への思いが感じられるようになるはずだ。イメージとしては、画面の左半分を隠した状態で、もう少し背景が広く見えている感じだ。

背景の見せ方としては、私は何度かサガリバナを見に行っているので沖縄の川や森の様子もイメージできるのだが、まったく知らない人にはその様子が分かりにくい気もするので、もっと絞り込んで周りの様子を見せる方がいいと思う。このように背景をぼかして見せる場合、組写真としてサガリバナが咲いている様子や散った花が流れている様子、ジャングルの姿などを他のカットで見せた上で組み合わせるのなら、周りの様子もイメージしながら見てもらえるだろう。

沖縄にはそこにしかないいのちの景色がたくさんある。沖縄の景色とそこに生きるいのちの姿を、1枚で表現するにはどうしたらいいのか、またそれができなければどういった表現するのがいいのか考えてみよう。

10月の挑戦者その6:Masamuraさん

『紫陽花の子カマキリ』紫陽花に羽化して間もない子カマキリが一匹。
沢山いたであろう仲間の姿は無い。自然の厳しさを思い知る。

Masamura
広島県在住、男性。
PENTAX K-70とsmc PENTAX-DA 18-55mmF3.5-5.6ALで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

小林義明 師範からの添削コメント

 

私はこの写真好きだなぁ。何が好きなのかって、アジサイの中にいるカマキリの存在が、自然のなかそのままの雰囲気を伝えているように感じられること。この写真をパッと見たときには、カマキリの存在に気づかない人もけっこういるんじゃないだろうか。

日頃、私たちの多くは花の上にいる虫達の姿なんて、意識もしていないだろう。それに、彼らも気づかれないようにひっそりと暮らしている。だから、たいていの人はこんな小さな虫達がいても気がつかない。

この写真も、パッと見るとアジサイを撮影したように見えるけど、よく見ると、ああ〜、いるじゃないか、カマキリの子が!そんなカマキリの子を発見したときのリアルな感じが思い起こされて、いいと思うんだ。コメントには孵化したときにはたくさんの仲間がいたはずなのに、いまではこの一匹しか見られないということが書かれていたけれど、みつからないからこそひっそりと生き延びていられたんだよね。

写真でいちばん大切なことは、気持ちが伝わること。技術や条件だけで撮れる写真は運が良ければ誰でも撮れる。でも、撮影者のはっきりした意図があってそれが伝わる写真というのは、簡単なようで難しいのだ。

なので、免許皆伝を授けたい!!

 

出ちゃいました…“免許皆伝”!!小林義明 師範の“風景・ネイチャー”道場、決して甘い評価はしていません。
『免許皆伝』となったMasamuraさんには、あっと驚く記念品をお贈りします!ただいま準備中ですので気長にお待ちくださいませ。

あえなく『門前払い』となってしまいましたが、作品を取り上げさせていただいお二人にも、記念品をお届けします。

>>11月のお題はこちら