11月のお題は…『空のない景色でぎゅっと街を切り撮ろう』

新納翔 師範

折り重なるように建つ高層ビル、行き交う車、そうした乱雑な街を表現するには空を写さないというのがとても効果的です。空があるとそこから上にのびていく開放的なイメージになります。今回はあえて空を写さないことで画面に緊張感を与えてみましょう。さらに自分なりの個性を加えることで免許皆伝となるわけですね。

新納翔 師範からの11月のお題は『空のない景色でぎゅっと街を切り撮ろう』でした。
このお題に投稿いただいた中から師範が選んだ作品を、添削コメントを添えてご紹介します。

11月の挑戦者その1:Melyukiinaさん

冬が近づき草は黄色く枯れはじめ、古いビルのツタも枯れ、
ノスタルジーに色あせたカーテンと音符をみて想う。
昼はあせても夜は光色づくに違いない
~ゲンジボタルの住む清らかな川辺にて

Melyukiina
愛知県在住、男性。中学で星が好きになりRICOH XR500を手にしてマニュアル撮影デビュー。PENTAX望遠鏡は天文雑誌などで憧れブランド。いまはデジタル一眼K20D,K-5,K-1と乗り継ぎ、THETAも手にしたRICOH-PENTAXに育ち、現在に至る。PENTAX K-1とHD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AWで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

やっているのか閉店しているのか分からないカラオケスナック。ただ、その前に止まっている車と同じ建物と思しき二階には人の住んでいる気配あり。これはノスタルジーなのか、地方の現実というドキュメントなのか。今話題のユージンスミスの時代のドキュメント写真と、今のドキュメント写真はその言葉が持つ意味が違っているように思います。

かつては社会的意義があるけど知られていない事実を伝えるもの、今はありのままの現実で起こっていることをそのまま写真を通して第三者に伝えるもの。ドキュメントの中に「社会的意義」はそこまで求められていないように思います。

杭瀬川は戦国時代に起きた氾濫によって揖斐川の本流から現在の形になったと記憶しております。ゲンジボタルの住む川と、期せずして似通った色のカラオケの文字。これは立派なドキュメント写真であると思います。

前ボケを活かし奥行き感のある写真に仕上がっていますが、何かが惜しい。おそらく左下の看板のせいのように思います。写真における文字情報って相当強いのですよね、特に日本語が入っているとどうしてもその内容に引っ張られてしまうものです。この写真の場合、「カラオケ」の文字はイラスト的なのでそんなに気にならず、ワンポイントとして効いているのですが白い看板の方は悪目立ちしています。

中央の車が白いのでリンクしてしまっているのもありますね。まぁこの構図だと致し方ないのかもしれませんが、撮影時にどうにか工夫できればもっと良くなった可能性があります。

レタッチ例では画面右上が太陽光のせいでややハイキーになっているのを抑え、画面手前にあるボケもちょっと多すぎる気がしたのでトリミング。さらに車などの白い部分を見てもらえばわかりますがややマゼンタが乗っているのでそれをとり、スッキリした印象に。建物に絡みついている枯れ草はいい味を出しているので、もう少しテクスチャが分かるように際立たせました。

他にも微調整していますが大まかにはこんな感じです。

撮影時からどのようにレタッチしようか、色味はどうしようかと仕上げの段階まで意識するだけでレベルが数段上がります。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

11月の挑戦者その2:Marcoさん

お世話になります。よろしくお願いいたします。東京、赤坂にある「赤坂コーポ」さんの裏手です。
昭和41年に建てられたそうで赤坂の街でも最も古いアパート(コーポ)になるのではないでしょうか。
それぞれの部屋は、ハトよけネットがあったり、家庭菜園があったり、
改造されてテラスが部屋になっていたりと様々な表情をしています。
「ここだけの世界」というイメージには空のない、ぎゅっと絞り込んだ構図が合うと思い、撮影しました。
この半年から1年の間、街を撮ってきましたが、「電線が邪魔」という感覚が皆無になった事が
自分の中での大きな変化です。そしてデジタル写真でのノイズの乗りの必要性は本道場で学ぶ事ができました。

Marco
東京都在住、男性。こんにちは。最近の悩みとしまして、街中で撮影をしている際に、不審な人という目線で見られてしまうことです。カメラを向けている方向を街ゆく人が同じようにご覧になりますが、ほとんどの場合が「そこに何があるのだ?」という怪訝な顔でこちらに視線を送られます・・・。法に触れることはしていないのですが、肩身の狭い想いで日々撮影しております。苦笑。PENTAX K-1 Mark IIとHD PENTAX-DA 55-300mm F4.5-6.3 ED PLM WR REで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

東京の街を撮っている人ならお馴染みの赤坂コーポ、ちょうど1964年の東京オリンピック前後に建てられたアパートやビルが建て替え時期に来ているようです。ここを撮れるのも後何年か。青山にあった青山北町アパートも半分は既に新しいビルに生まれ変わり、残りも解体間近。なんでもない写真も、本来持つ記録性という側面から月日を経て価値が出るということも珍しくはありません。

この写真は単純な記録写真にとどまらず、大胆に電線を入れたことにより消えゆく電線のある景色と老朽化の進んだビルが相まって昭和の時代に想いを馳せる作者の心情が読み取れる作品になっています。「電線が邪魔」という感覚が皆無になった、とコメントに書かれているように、こうすべき、こういう構図が良いというシガラミから離れ、自分の作風だと言い切れるようになったということは大きな進歩だと思います。

かつての作家が残した功績を振り返るのも必要ですが、それに縛られることなく自由な感性で表現に取り組んでこそオリジナリティのある作品と言えるのだと思います。

こういう写真は一見色々写っている様に思えて、似た構造が連続しているためにやや凡庸になりがちです。ここではせっかく写っているカラフルな洗濯物、虫よけネットをもう少し目立つように彩度を上げるなど工夫し、メリハリを付けるともっと良かったでしょう。

好みの問題かもしれませんが、この被写体だと3:4や4:5といったアスペクト比でも良かったかもしれません。レタッチ例では5:7でトリミングしてみました。仮に写真展で長辺が2メートルくらいあればしげしげと画面内の色々なところを見るのでしょうが、本道場ではモニタで見ることになるので、そういった所も意識してみましょう。

これは写真展でも言える話しですが、ギャラリーの大きさに合わせてプリントサイズも変わりますし、そこの照明の色温度によってプリント自体の色合いも若干変化させます。写真を見せるということは見る人がいるということ、あくまで自分の作品の色を大事にしつつ、鑑賞者のことを頭の片隅に置いておくことは重要。

最後に、街を撮っていて不審人物だと思われているのではというお悩みですがご安心を。写真はそういうものです。自分は平日の昼に645をぶら下げて歩いているので、仕事もしないで何をしているのかと思われているかもしれません。ただ、街中で立ち止まっていて怪しくないのはせいぜいタバコかカメラくらいだと思います。何も持っていない人間がじーっと赤坂コーポのベランダを覗いている方がよほど怖いです。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※クリックで大きく表示されます



11月の挑戦者その3:Kaichiさん

高層ビルが日光を遮り、地上に大きな影を落とす。
この光景は、都市ならではのものと思い、シャッターを切りました。

Kaichi
東京都在住、男性。カメラをもって散歩を楽しんでます。PENTAX 645DとHD PENTAX-D FA645 MACRO 90mmF2.8ED AW SRで撮影。

 

師範の判定結果は・・・

残念ながら・・・

新納翔 師範からの添削コメント

 

645Dに90マクロでカッチリ捉えた都市風景。本道場のもっとも得意とする分野なのでその分より厳しい評価になります。一見良いんですよね、秋から冬に変わる季節の美しい斜光によって生み出される陰影。陽の光に照らされた警備員さんと、車内のうすぐらいドライバーの対比。

しかしよく見ていくと、「一体何を伝えたいのか?」というところがなんとも掴めません。その原因としてまず、左上のクレーンに代表されるように画面内に情報が溢れていてそれを整理できていない点にあると思います。作者が意図的にそうしたというよりは、作品の意図が固まりきれずフレーミングやトリミングが曖昧になってしまった結果と言えるでしょう。

そもそも今回のお題、『空のない景色でぎゅっと街を切り撮ろう』の狙いが何なのかをよく考えてみてください。街の閉塞感を出すために空を入れないというのは、画面内に空があるとそこから外へ広がっていく、開放的なイメージを与えてしまうということなのです。画面外に出ていく要素(空)を入れないことにより、ぎゅっとしたイメージを作るというのが目的です。

ではこの写真に戻りますと、画面左の白いビルの壁が空の役割になってしまっているのです。そこから広がっていくイメージになってしまっているのですね。ここはレタッチ例のように大胆に切ってしまったほうが落ち着くと思います。

お題に込められた私の意図をいかに汲み取るか、そこがとても大事なのですよね。

それとせっかく645で撮るのであればもう少しハイライト等を意識した撮影をして欲しいと思います。やはり中判は違うなぁというのは、豊富なラチチュードなのでこのカットを見る限りでは細かいところがおざなりになっているように感じます。緻密なセンサーは繊細なレタッチが要求されるのです。

初めに書いたことに戻りますが、自分が何を撮っているのか、伝えたいのか、それを言葉にしてみると良いでしょう。自分の写真を見返し、400字程度でまとめてみてください。

〔左)元の作品 / 右)新納翔師範によるレタッチ見本〕

※スライダーのドラッグで表示画像を切り替えられます

師範より11月前半の総評

Kaichiさんの講評で記したとおり、今回のお題『空のない景色でぎゅっと街を切り撮ろう』で皆さんに気づいて欲しいものが何なのか。街の閉塞感を出すために、画面外へ抜けていく空といった要素を排除することが重要なのだということに気づいて欲しかったのです。

毎度のお題に込められた裏テーマを考えるのも道場で免許皆伝を取るためのコツ。ネタバラシしてしまったので後半ではそのことを意識して取り組んでみてください。

記念品のお届けについて
Melyukiinaさん、Macroさん、Kaichiさんには「門前払いミニ木札」をお贈りします!

記念品は12月中旬にお届け予定ですので、しばしお待ちくださいませ。

その他の投稿作品をご紹介

最後に、11月前半のお題の投稿作品の一部をご紹介させていただきます。
こちらは師範の評価とは関係なく、今後挑戦される方に参考にしていただけるよう編集部にて選んで掲載しております。

〔クリックで写真が大きくなります〕

以降のお題へのご投稿もお待ちしています!

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